04 テニスゲーム その2
☆04 テニスゲーム その2 ☆
テニスゲームで勝負をする事になった僕とマレイ。
勝った方は、セクハラ1回だけしてもいい事になったけど、
どうせ大した事はさせてくれないだろう。
「マレイのキャラは、どれを使うの?」
「そうねえ、ある程度強い方がいいから、
このナブラチワワにしようかな」
「無難な選択だと思う。 僕は、メシチーズっていう
最速の足を持つキャラを使うね」
「あら意外? ブンボベッカっていうサーブがメチャクチャ強い
キャラを使うのかと思ってた」
「よく知っているね。 そのキャラはサーブは強いけど
他はボレー以外はイマイチなパワーキャラで、上手くなれば
チカラで相手をねじふせられるだろうけど、あまり趣味じゃない」
「へー、これでちょっと安心。 サーブだけでねじふせられたら
サーブ権のあるゲームを勝てないじゃない。 空也は
唯一の勝てるかもしれないチャンスをつぶしたのよ。 おほほ」
「なんだか、もう勝った気になっているけど、おごりは負けに
通じると思うよ。 そんな僕も目隠しして相手するなんて初めてなんだけどね」
「なおさら、私の勝ちみたいなものね! 詩羽先輩、空也に目隠しを
お願いします」
「わかったわ。 そのへんにあるタオルを3重にして巻けばいいかしら?」
「それで大丈夫だと思います。 よろしくお願いします。 先輩」
詩羽先輩は、僕にタオルを3重にして巻いてキツくもなく
ゆるくもなく丁度良く巻いてくれた。
「これでいいかしら? 空也君、この指は何本?」
全く見えない。
「えっ」
「うん、見えてない。 大丈夫みたいね」
「それじゃあ、始めましょう! サーブ権は私からね!」
マレイの操作するナブラチワワがサーブを打つ!
ネット!
「ううっ、なかなか入らないわね……。 このままサーブが入らなければ
自爆して負けるし、ここは、弱目のサーブで」
マレイのナブラチワワがサーブを打つ!
僕のゲームから得られる情報は、音だけだ。
ボールをコントロールしてコートの端を狙ってくる事はないだろう。
ボールがそのままサーブされてバウンドするだろう位置まで
メシチーズを動かし、Aボタンでフラットの強打で相手のいないだろう
ストレートへ打ち返す。
ナブラチワワのスイングが空振りする音がする。
「わわっ! 本当に見えてないの?」
「うん、見えてないよ!」
なんだか、怪しんで僕の目の前で何かやっているようだ。
「なんなら、後ろを向いてやってもいいけど」
僕は自主的に後ろを向いてゲームをする。
それでも、上手く返せた。
「やっぱり、音が逆になるからダメだ。 やりにくい」
僕は、また前を向いてゲームをする。
その後も、マレイは、たまにAボタンの強打でサーブを入れる事が
できたりできなかったりしたが、そのまま1点も取る事ができず
サーブチェンジになった。
「今度は、僕のサーブの番か。 いい? 行くよ!」
僕は、サーブをコートの中央を狙って打つ!
パコーン!
入ったようだ。
「嘘! なんであんなところ狙えるのよ!」
「次、行くよ!」
僕は、サーブを今度は外側を狙って打つ!
パコーン!
入ったようだ。
「嘘! また、今度は外側に……。 本当に見えてないの?」
「見えてないよ!」
そのまま僕のサーブは、返される事もなくこのゲームを取った。
そして、次のゲームも、その次のゲームも僕が取った。
4ゲーム終わって、マレイは、1ゲームどころか1ポイントも取っていない。
「負けよ! 負け! 私の負け! えいっ」
負けを認めたマレイは、ゲーム機のリセットボタンを押した。
最後まで遊ばないのはマナー違反だけど、こうも一方的だと
それもしかたないか。
「負けた罰ゲームどうしたいの? 早く言いなさいよ!」
なぜか、セクハラという言葉は消えていた。
使いたくないんだろう。わかる。わかる。
「そうだなあ。 ほっぺに軽くチュッとキスをするなんてどうだ?」
「そんな事できるわけないでしょ! こんな腹たってしかたがないのに
キスしろですってえ!」
あれ?
なんか人の気配が近づいて来ているような。
もう一人って事は詩羽先輩?
僕の両腕に手が添えられ、僕のほっぺにちょっと湿った感じの
濡れた感じのもので上下2つに別れたような感じのものが、
こうチュッっと当たった……。
えっ?!
チュッ?!
僕は慌てて目隠ししていたタオルを取った。
やはり近くには、詩羽先輩もいた。
なぜか、ニコニコしている。
「どう? チュッってやったあげたわよ……」
マレイはそう言っているけど、あやしい……。
今、キスしたのは詩羽先輩だと思うんだけど、
この場は、問い詰めた方がいいのか、部活の雰囲気を壊さないために
流した方がいいのか、迷う。
「今、キスしたの詩羽先輩ですよね?」
「さあ、どうかしら? 空也君は、どっちなら嬉しかった?」
「ううっ、答えに困る質問を……。 取り合えず、もうこの問題は
もういいです。 みんなで部室を掃除して帰りましょう!」
「ふふっ、そうね! そうしましょう」
「はーい、私もそれでいいです」
僕達は、部室を掃除して帰った。
詩羽先輩は、何を思ってキスをしたのだろうか。
そもそも本当に詩羽先輩だったのか。
僕は、その日、もんもんとそんな事ばかり考えていた。