第9章 - 新計画
申し訳ありませんが、先週、やるべきことがたくさんありました >.< 。
その後、グリーンベール村は数日が何事もなく過ぎた。そして初雪が、秋の終わりと早い冬の訪れを告げた。宿屋『子狐』では、より一層の賑わいを見せるようになった。
健次は少しずつ、村人たちと慣れ親しむようになってきた。村人たちの名前を覚えただけでなく、それぞれの好みの飲み物や食べ物も記憶した。簡単なことではなかったが、決して少ない数ではない村人たちに認めてもらうため、健次は何とか懸命にこなした。
それと同時に、この働き者の少年に対するクララの好感度も上がっていった。彼を馬小屋に寝泊まりさせることにしたのは、決して出過ぎたことではなかった。とはいえ、彼の衣類がだいぶ着古してきたようだ。何といっても彼は、衣類を一揃いしか持っていなかった。クララにしても自分の店のウエイターにそんなみすぼらしい身なりをしていてもらっては困るのであった。
そこでクララは村の仕立て屋のテリーに、不要な衣類がないかと尋ねてみた。幸運にも、それはあった。しかしそれらは例のジャクソン兄弟が彼らのお葬式後に残した、長すぎるズボンと大きすぎるシャツ5枚であったが、クララはそれらを鉄のコイン一枚でテリーから買い取った。
健次はその衣類を受け取り、嬉しさのあまりクララにまるで早いクリスマスプレゼントのようだと感謝の意を込めて言ったが、いつものようにクララにその意味はまるで伝わらなかった。
アンドラでの寒さは、筆舌に尽くしがたいものがあった。それは骨の髄まで染み入るような寒さであった。
本格的な寒さになった最初の夜など、健次は体中の血が凍り付いてしまうかと思ったほどだった。そして雪が降り始めると、身体の震えは止まらなくなった。ぬかるんだ土の地面は、もはや凍り付いた湖のようで、馬小屋のその場しのぎの藁のベッドからは、冷気が肌に突き刺さり、氷の針の上に寝ているようなものだった。
夜ごとに、炬燵に温かい日本茶とみかん、手袋やソックスが恋しくて仕方なくなった。
ただ、こんな過酷な日々のおかげというべきか、健次にはどうしてもやってみたいある考えが閃いた。それは、あのルーミー・ベーヌを外に連れ出すことだった。
これが成功すれば、クララからの信望も厚くなり、家族の一員として、もしかすると馬小屋から宿屋の内側で寝起きをさせてもらえるようになるかもしれない。可能性は低いかもしれないが、やってみる価値はあった。
健次には同い年の女子たちと接した経験は無きに等しかったが、それでもルーミーは中世の女の子である。きっと21世紀から来た健次なら、なんらかの知識で解決できるだろう。
自信高らかに、その夜、健次は最後の客を送り出すと、クララと歩きすがら頼みを告げてみた。「あの、ルーミーちゃんを部屋から連れ出す計画を思い付いたんです。それで、クララさん、銀のコイン一枚分、貸してくれませんか?」
こんなことを突然言い出して、きっと他の誰もならただ怪しむのみだったろう。でも、クララはそうではなかった。
彼女なら例え全てを売り払ってでも、用立ててくれそうだった。「いいこと健次君、もし銀のコインを渡して、そのままバックレたりしたら、プレメディア人は盗人には手厳しいわよ。」
「大丈夫ですよ、クララさん。もしコインを持って逃げたりしたら僕の両腕をちょん切っちゃってくれていいです。」
クララは、さも可笑しそうに笑った。「あら、あなたの腕ぐらいじゃ、銀のコインには見合わないわ。」
毒を含んだ皮肉を言った後、ともかくもクララは彼にお金を与えた。凹みひとつない、シルバーコインだった。表面には何の刻印もなく、なめらかな表面は、それが本物であることを証明しているらしかった。
健次は手で、その銀のコインの重みを感じた。冷たく、そして重い。彼はもう、この世界の通貨について、だいぶ馴染み始めていた。銀のコインは、日本円なら1万円ほど、銅のコインは10円くらい、鉄のコインなら100円ぐらいというようであった。
仕組みはそれほど複雑ではないが、ただ、銀のコインを稼ぐのに、一般の農民なら数カ月はかかるようだった。それなのにクララは、その銀のコインが詰まった袋を、彼女の部屋のどこか秘密の引き出しにしまってあるらしかった。デントロからやって来た旅の商人がクララと取引している時、健次は一度だけそれを見たことがある。銀のコインの入った袋は、クララが両手で持たないとならないほどに重そうだった。
クララが好奇心に駆られて訊ねた。「それで、どうするつもりなの? あの娘を治してくれるのに、どれくらいかかりそう?」
健次はコインをしっかり手に握りしめて、自信たっぷりに答えた。
「一週間です。計画はいくつかあるんです。きっと成功させてみせます。」
健次がここで計画の全貌を明らかにしたくなさそうなのを見て取ったクララは、それ以上は聞かずに、彼を残して自室のベッドルームへと引き下がった。
落ち着いた夜だった。健次はクララから渡された銀のコインを、胸にしっかりと抱いて横になった。だが眠れず、ルーミー・ベーヌのことを考えていた。よく考えてみると彼女は葵とほぼ同じ年ごろだ。そう思うと、さらにルーミーを一刻も早く、部屋から外に連れ出したいと思えた。
次の日の朝が来るのがやけに遅く感じられた。
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