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「御客人」様

「御客人」様、今夜は十五夜です。

作者:

 中秋。

 旧暦8月15日の事である。平安時代には観月の宴があったそうだ。ウチの国は祭りが大好きなので、今でもどこかでありそうな気がする。

 ちなみに、江戸時代には収穫祭だったと言う説があるが、我が村だとこちら側だろう。


「食欲の秋ー!!」

「いやうるさいから」


 パッションが溢れて口から零れていたらしい。そして冷たいツッコミをしてきたのはわが母である。

 日頃一人娘を放っておいて父とデート(山菜取りメイン)に行く事が多いのだが、今日は平日で父はまだ仕事中。そして今夜は村で「月見(と言う名の飲み会)」がある為、その食事作りで祖母と一緒に朝から台所に詰めている。勿論私も食事作り要員である。

 お団子は各家々で作るが、それ以外はあまり被らない様に調整しつつ適当に作製する。まぁ大体は似たり寄ったりな内容だが、同じ村でもやはり微妙に味付けが違うので、ちょこちょこ交換するのもまた楽しいものだ。


 本能が口を突いて出たのも無理はなく、お昼ご飯(とおやつ)はそろそろ消化されているのだろう。つまり


「小腹が空いたー」

「太るわよ」


 ……母のツッコミは時に厳しすぎて目から水が出そうな気持になる。

 日頃フォローをしてくれる優しき祖母はと見れば、わが家の御客人に今夜の行事について説明中だったらしい。しくしく。


「ふーん。それでお芋やお豆を使うのかー。あ、でもニッコロガシ?は美味しいよねー。あれあるのー?」

「勿論だよ。ちゃーんとミレニィちゃん用に小さめに作ってあるからね。他のお家の煮っ転がしも美味しいから、たーんとお食べ」

「うわぁい!楽しみー!オダンゴ?も食べるー!」


 うんうんと頷きながら、にこにこ話している祖母と小さな女の子。現在のわが家に滞在中の「御客人」である。ちなみに御年20歳。

 成人にして身長50センチもあれば大きい方なのだと言う種族。日本では北の方にコロポックルと言う小人(妖精?)が居るらしいが、想像のコロポックルととても近しく感じる。


 何故わが家にこの様な「御客人」が滞在しているかと言えば、始まりが何時かなんてもうわからない位昔からの話となる。簡単に言うと、この村には異世界から突然来客が訪れるのだ。

 種族・立場・世界・状況など、共通点を見出せないくらい数多あまたにあるらしい世界から、理由も分からず突然に。そして村人はその理由を求めず「親戚が来た」位の扱いで歓迎する。まぁ気を使い過ぎても、滞在期間すら分からないし、これ位ゆるい対応が楽でいいと思う。


 ちなみに、この村では「異世界からの来訪者」を、通称として『御客人おきゃくじん』と呼んでいる。昔は「客人まろうど」とか「客人まれびと」とか「客人きゃくじん」とバラバラだったらしいが、一般のお客様と間違えたりとややこしいと思ったのか、いつの間にか統一されていたらしい。

 小難しい事はわからないが、言葉が通じて、危害を加えられる事がないなら問題ない。

 と言うのが村人たちの総意だ。恐らく昔から村人の感性もあまり変わらないのだろう、なんと言ってもご先祖様だ。理由だの真相だの追及するような性質の家系が居る家は無い気がする。


 今わが家に滞在中の「御客人」は、ちょっとしたオシャレに興味があって、食べるのが好きな20歳の女の子だ。性格も明るくて、家族とも村人たちとも割と仲良く過ごしている。

 生来のん気な気質の種族らしく。こちらに来た時もきょとんとしてはいたが、状況を伝えると「身の危険がなくて、帰れるならいっかー」と笑っていた。



 さて、そんな彼女も楽しみにしているのが今夜の飲み……じゃなくてお月見だ。

 普通の御供え物のように、三方にお団子を載せたものも勿論あるが、山間の夜は冷えるので、豚汁に団子をぶち込んだ変わり種もある。ちなみに私はこれが好きなので、真夏以外は結構普通に食卓に上る。

 十五夜なので、この秋の収穫物も勿論お供えし、有志による神楽を奉納。

 そして長老ズが今年の収穫物の評価をした後、あとはただの飲み会と化す。

 残念ながら、今年の十五夜は満月ではないそうだが、長老ズの予言によれば良い月夜となる事だろう。


「よーし。出来上がった物とお酒を会場へ運びなさい若者よ」

「はーい」

「つまみ食いは一つまでよ。身となり肉となって欲しくなければキリキリ動きなさい」

「…………はーい。行ってきまーす」

「はい。行ってらっしゃい」


 こちらに背を向けていたはずなのに、母は千里眼か何かを発動出来るのだろうか。と慄きながらも車に荷を積み込む。

 同じような立場の各家の若輩者たちが続々と会場へ集まる。食品を置いたら、一部を残して一旦帰宅。その後送迎をしないといけないのだ。ちなみに会場に残って机等を設置する組は、作業が終わったらお茶を片手に料理を摘まめるので、実は人気のある組だったりする。


 …………くそぅ。次回(十三夜)こそは設営組に入ってやるー!と意気込みつつ帰宅した私を待っていたのは、祖母とミレニィちゃんの労いと、母からの酒を持って行くのを忘れていた事への叱責だった。

 今夜は気のすむまで食べようと心に誓ったのは言うまでもない。

 まあいいや。今夜を楽しみにもう一度。

 行ってきまーす。

読んで頂き、誠にありがとうございます。

日常の憧れ(スローライフ)を文字にしたいと精進中です。宜しくお願い致します。

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