絡繰屋敷
「アンタが絡繰屋敷だな?」
そう訊いた男、新発田 尚彦は、疑問形で声を掛けたものの確信はしていた。
こいつが絡繰屋敷だと。
噂で聞いていた、着ぐるみの頭だけ被りスーツを着た風変わりな男。
それを見付けるのには手間取らなかった。
手間取る方が難しい位だった。
居る場所は点々としていても、目立つ格好をしている為、新発田の手下に探させれば簡単に見付かるものだった。
そうでなくとも、SNSやなんかで呟かれているのを見れば誰だって見付けられるだろう。
本当にこんな格好をしているとはな。
心の中で苦笑する新発田。
件の絡繰屋敷と呼ばれた大地は、日向に何やら指示を出し、空がその場から離れたのを見て、
「ご明察。仰る通り私が絡繰屋敷です。どうやって私の事を知ったかは敢えて聞きませんが、脛に傷持つ様な方のご要件とは何でしょうか?」
とからかう様に聞き返した。
そんな大地の態度に顔色1つ変えずに新発田は、
「アンタにウチのお嬢の護衛を頼みたいんだが……まず1つ謝っておく。怪我をしたら済まんな。手加減というものを知らないもんで……」
と言って、素早い動きで回し蹴りを大地の頭に繰り出した。
だが、手応えは全く無く、目を覚ました時には、夕闇に染まり掛けた空が新発田の目の前にあった。
何が起きたんだ?目を覚ました?新発田の頭に疑問が過ぎったのと同時に、
「やっと気付きましたか。いきなり回し蹴りとかよして下さいよ。言っておきますが、これは正当防衛ですからね」
と言う声が聞こえ、クマの被り物がひょこっと顔を覗かせた。
逆光で怒っているようにも見えるクマの被り物。
新発田は尚も分からず、取り敢えず起き上がってみた。
背中がズキズキと痛み頭がクラクラする。
周りを見回すと、どうやらベンチの上に寝かされている様だった。
背中の痛みやその状況から、新発田は気が付いた。
自分が反撃されて昏倒させられていたという事実に。
それと同時に、今回の依頼をするのに不安も無くなっていた。
こいつになら、お嬢を頼める。
そう思い相手の顔を見るが、やはり逆光で怒って見える。
「で、私に依頼をする気になりましたか?新発田尚彦さん?」
顔とは逆に楽しそうな声色で訊いてくる大地に新発田は、
「まだだ」
と、先程考えていた事を否定する様な言葉を口にした。
何故自分のフルネームを知っているのかという疑問は敢えて口には出さずに。
「アンタが強いのは分かった。が、まだそれだけだ」
「何が足りないと言うんです?」
「後は……お嬢が懐くか懐かないか……だな」
咄嗟に出た嘘。
それに気付いたのか気付かないのか、大地はカラカラと笑い、
「それは大事な事ですね。で、そのお嬢様はどんな動物がお好きで?」
と首を傾げた。
「さて何だったかな?」
新発田はそう言いながら、傷だらけの顔を歪ませて笑った。
普通の人が見たら逃げ出す様な顔だが、確かに笑ったのだ。
負けた事を少しも悔しがっていないかの様に楽しそうに楽しそうに。
その声は、夕日が沈み暗闇に染まった空へ吸い込まれていった。
はじめましての方も、そうでない方も、ここまで読んで下さりありがとうございます。
小説書くのって楽しいですね。
生きてるって実感します。
他のも書いてから言えってね(笑)
取り敢えず、暫くはこれに専念しようかと思ってるので、他のが気になるとか思った方申し訳ないです。
もしかしたら気が向いたら書くかも?(笑)
では、次の作品でお会い?しましょう。
ここまで読んで下さりありがとうございましたm(_ _)m