クマとスーツとそれから・・・
「今更ですがそのクマの被り物、何の為にしてるんですか?」
「本当に今更だな。素顔が晒せない位不細工だからだよ」
クマの被り物で素顔を隠している、比嘉 大地は、そう言うと、煙草の煙を吐き出しながらククッと笑う。
「実はイケメンだって、女性達が噂してますけど」
野ノ原 日向は、大地の横顔を見る。
「イケメンね……女の言うイケメンって基準が分からねぇな」
どうやって吸っているのか、被り物の上から器用に煙草を吸う大地。
空の知るだけでも、10種類はある動物の被り物。
頭だけアニマルだから滑稽にも見える。
首から下はスーツを着ていて、その上からも分かる位に程よく筋肉が付いているようだ。
日向は自分の体を見る。
小柄で痩せている空は、スーツを着てもどこか不格好で、よく七五三かとからかわれる。
「そう言うお前は童顔で女みたいな顔してるよな」
コンプレックスをズバッと言った大地は、日向の方に顔を向けていた。
クマのつぶらな瞳が空の事を見ている。
すかさず日向が裏拳を繰り出すが、あっさりと受け止められてしまう。
「詰めが甘いな」
ククッと笑った大地は、吸っていた煙草を携帯灰皿に入れ、新しく出したのに火をつけ再び吸い始める。
煙草なのに煙草独特の嫌な匂いがしない。
煙たくもならないし、寧ろ良い香りすらする。
「それ、何ですか?タバコにしては煙くないし臭くもないんですけど」
「特別なやつだからな。言っておくが、変な薬とかじゃないからな」
そう言って日向に向かって煙草の煙を吐き出す大地。
やはり煙たくはない。
「無害な煙草。とでも言っておくよ」
何処で手に入れたのか聞こうとした空だったが、大地なら誤魔化しかねない事を知ってる日向はそれ以上聞かない事にした。
「何処で手に入れたのか聞かないのか?」
空の心を見透かした様に首を傾げながら聞いてくる大地。
「どうせ企業秘密とか言うんでしょう?」
「ご名答!流石日向くん!」
カラカラと笑いながら手を叩く大地。
日向はそれを見ながら溜め息を小さく吐き出す。
「馬鹿にしてますね?」
不満顔で言う日向をよそに、大地は指折り何かを数えている様だ。
そして、膝をポンと叩くと、
「丁度明日日向くんと出会って1年だ!何かお祝いでもするかい?」
大地の声は弾んでいて、日向は不満顔を呆れ顔に変え、
「恋人でもないんですから、祝う必要も無いと思うんですけど」
と言って溜め息を漏らす。
「日向くんは頭が硬いね。それとも、恋人になれないから拗ねてるのかい?」
その言葉を聞くなり再び裏拳を繰り出す日向。
大地がそれをいなすと、火に油を注がれた様に攻撃を仕掛ける日向。
大地は日向の方も見ずに片手でそれをいなしていく。
そこに、今流行りのアニメの主題歌が場違いに流れ始めた。
それは大地のスマホから聞こえたもので、大地は片手で器用に煙草を携帯灰皿に入れ、これまた器用にスマホを取り出し、
「はーいモシモシ。絡繰屋敷ですけど。何かお困り事ですか?」
と、着ぐるみの頭にスマホを当てる。
明るく吐き出された言葉に日向は攻撃の手を止める。
「はい。了解です。すぐに人をそちらに寄越しますので、暫くお待ち下さい」
大地は一言二言言うと、
「失礼しまーす」
と言って、通話を終わらせ、
「お仕事だよ」
と日向を見た。
「ハイハイ。で、今回は何処に行けばいいわけ?」
「聞いて驚くなよ!北海道だ!海の幸!山の幸!美味しいものが沢山な北の楽園だ!」
北海道を馬鹿にしているのかなんなのか、興奮しながら言う大地。
逆に冷めた目で見る日向をよそに、大地はいつの間にか取り出したメモ帳とペンで何かを書いてメモ用紙を切り取り、
「お土産にこれ買って来て」
と興奮冷めやらぬ声で日向に差出した。
そこには沢山の北海道定番のお土産から、マニアックなものまで几帳面な字でびっしり書かれている。
あの短時間でよくここまで書けたな。
先程までの怒りを忘れてメモを素直に受け取る日向。
「それとこれ」
大地は、ポケットから分厚い封筒を出して日向に渡す。
必要経費が入った封筒。
「今更ですが、何処からか出てるんですか?」
日向はそれを受け取りながら、疑問を素直に口にする。
「それこそ企業秘密だよ。それよりお土産頼んだからね」
クマの被り物の目が微かに笑った気がした。
日向が受け取った封筒をリュックに仕舞うのと同時に、1人の男が現れ、
「アンタが絡繰屋敷だな?」
と聞いてきた。
大地は、被り物の頭をポリポリと掻き、
「これは私の仕事だね」
と呟いた。
はじめましての方もそうでない方も、ここまで読んで下さりありがとうございます。
また、他のものを放っておいて新しい物を書くという暴挙を(笑)
他のもボチボチ書いていくつもりです?(笑)
では、次の作品でお会い?しましょう!
ここまで読んで下さりありがとうございましたm(_ _)m