1月1日はめでたい
今日は午前0時まで起きようと心に決めていた。俺はさっきから机の上に置いてあるデジタル時計を、多分1分おきくらいでチラチラ見ていると思う。
ただいま23時58分52秒。目標達成まであと1分8秒...。俺はスマホを握った。
普段23時には寝ている俺が何故、今日だけ日をまたぐ時間まで起きようとしているのか。その答えは、俺が今からスマホで行おうとしている事から明らかになるだろう。
おっと、20秒前だ。俺は急いで文字を打つ。
...いや、今日はプレミアムだから絵文字のほうがいいんだろうか。そう気変わりして、俺は文字を消して次の場面にピッタリくる絵文字を探した。よし、これだ。間に合った。
3秒前!3、2、1!送信!!
俺はグループのメールに門松をかたどったような感じのちょい大きめの絵文字を送った。送信時間は0:00。
目標達成!...そう、今日は1月1日。年が明ける日だったのだ。
...実は俺は正月があまり好きじゃない。
そんな俺が何故、0時ちょうどにあけおめ絵文字をグループに送るなんて事をしたのか。それを説明するには、一昨日の夜に時間を遡る必要がある。
ーー12月30日の夜
風呂上がり、俺はふとスマホをいじりたくなった。そしたらメールが来ている事に気付いた。しかも15件。みるみるうちに16、17と増えていく。
ーああ、グループでたった今話してるんだな。
と思った。
それは俺を含む、陸上部に所属する特に仲の良い男4人組のグループだ。だからこのグループは俺にとってなかなか心地が良い。
あっ、そうそう、自己紹介を忘れてた。俺の名は竜。『りゅう』と読み間違えられる事が多いんですけど『たつ』と読みます。
ついでにグループメンバーの紹介も軽くしときます。
俺ーつまり『竜』と、
俺の同学年の幼なじみー『空人』と、
俺の後輩で礼儀正しいほうー『優』と、
同じく後輩だけど生意気なほうー『流汰』の4人。
以上。以後よろしく。
俺はメール画面を指でスライドさせる。過去の履歴を見終えたところで俺自身もメールを送る。
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竜 『何?テレビの話?(21:00)』
空人『おお、竜がやっと来たww(21:00)』
優 『あっ、竜先輩こんばんは!今、大晦日に見るテレビについて話してたんです。(21:01)』
空人『流汰は何見るの?大晦日は。(21:02)』
流汰『大晦日にテレビ見る予定無し。(21:03)』
空人『マジかww(21:03)』
竜 『流汰はどうせミステリー本を徹夜で読み切 るとか、そういう予定でしょww(21:04)』
流汰『...。(21:05)』
竜 『図星?ww(21:05)』
空人『なぁ、お前らさ、大晦日って徹夜で12時 まで起きてたりする?(21:06)』
優 『僕は起きてますよ!歌合戦見ながら宿題し ます!(21:07)』
竜 『俺は歌合戦、あんまり好きじゃねぇな。だ から寝る派。(21:08)』
流汰『竜先輩は音痴ですからね(21:09)』
竜 『流汰君、こういう時だけ先輩に対して敬語使うの良くないよ?(ニコッ)(21:10)』
空人『wwなぁ、全員さ、大晦日、日が変わるまで起きていようぜ(21:11)』
流汰『別にいいけど。どうせ起きてるし。(21:11)
優 『いいですけど...そうだ!約束守った証拠を見せるって事で、全員、正月になった瞬間にこのグループにメール送るってどうですか!?(21:12)』
空人『いいじゃん。乗った!(21:13)』
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ーーというわけで、俺はその約束を果たすため、あけおめ絵文字を送ったのだ。ちゃんと秒数まで計って。
けど、おかしい。俺は時計を見る。時刻は0:13。正月になって13分もたっているのに、俺が送った絵文字に一つも既読が付かない。
ー約束守ったの俺だけ?
そう思ったら微妙に悔しい。こんなくだらない事に付き合わされて実行したの一人だけとか空しい。
空人は夜10時までには必ず寝る早寝早起き体質だから堪えきれなかったのかもしれない。...けど言い出しっぺはあいつだぞ。
優は宿題がまだ全然終わってないって嘆いていたから、やりながら寝落ちしたのかもしれない。第2の言い出しっぺはそいつだが、もし本当に寝落ちだとしたらなんか憎めない。
流汰はミステリー本を夢中で読んでるかもしれない。あいつの読書をしている時の集中力は神だ。マジで神だ。俺がよく知っている。
...むぅ、拗ねてやる!正月の3日間が終わるまで、メールを未読無視してやる!(我ながら地味な報復だなぁ...)そう心に決めて俺は布団に入った。
眠れん...。最近運動してなかったせいでなかなか寝付けない。癖でふと時計を見る。1時10分。
ーやっぱり俺、正月は嫌いだ。
改めてそう思った...その時だった。急にスマホにメールが3件入ったのは。...あいつらからだ。メール画面を開く。そこに飛び込んだのは思いがけない言葉だった。
空人『竜、誕生日おめでとう(*^▽^)/(01:11)』
優 『竜先輩、誕生日おめでとうございます!これからも頑張ってください!(01:11)』
流汰『誕生日おめでとうございます。(01:11)』
あ...。なんかさっきまでイライラしてたのが馬鹿みたいだ。
ーこいつら、何、地味なサプライズやってんだよ
空人『竜!なんか反応してよー(01:15)』
竜 『ありがとう。普通に嬉しい(01:16)』
優 『なんか騙すような事してすみません。でも落ち込ませてから上げたほうが喜び大きいかなと思って...(01:17)』
竜 『地味に傷ついたぞあれ。けど事情を知った今、超、心の傷埋まってるww(01:18)』
流汰『記念日に誕生日とか辛いよな(01:19)』
竜 『うん。そういや流汰の誕生日は4月1日、エイプリルフールだったな。(01:20)』
空人『マジで!さぞ悲しい思いをしてこられたんでしょうねぇ...。よっしゃ、派手に祝ってやるよ。(01:22)』
優 『今度のサプライズは派手系ですね!?了解です!(01:23)』
流汰『お、おい...。(01:23)』
俺は今まで正月が嫌いだった。だってなんか、せっかくの誕生日が霞んでしまうような気がしたから。でも今は好きになれそうな気がする。
竜 『改めまして、ありがとう。そして明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!(01:30)』