ノットノイズ・ノットラブ
殴っても蹴っても撃っても、敵国の兵士はしぶとく生きていて、熱くなった銃口を向けている。
「……何で死なないんだろうなー、あいつら」
切り立った崖の上から、つまらなさそうに少女がその戦いを見下していた。
黒い髪を赤いリボンで結び、派手な赤い衣装の上に黒いフード付きのローブを羽織っている。
しかし乾いた風が吹く度にフードが脱げ、被り直したそばから風が吹き、とあまり機能しない様だ。やがて鬱陶しくなったのか、脱ぎ捨てた。
途端に目下で爆発が起こり、尋常ではない数の人間が吹き飛ばされていくが赤い目は何の感情も映さない。
彼女の目線の先にいるのは、どこの国にもいる、戦車に乗ったり無骨な鉄の塊を持った男の群れ。
そして彼らを迎え撃つのが、彼らと戦うには体格や力量などが全ての面で不利過ぎる少女達だった。
お世辞にも戦いには向いていない派手な軽装で、これまた装飾過剰なステッキやバトン、剣を持っている。
しかし相手が重傷を負った者が大半であるのに対し、彼女らは傷ひとつついていない。
……それは、彼女らが「魔法少女」だったからだ。
強くもなければ弱くもなく、大きくもなければ小さくもない。貧富の差もさほどない、そんな国が「アール・マカ」だ。国民も大して反乱を起こす事なく平穏な生活を送っていたが、ある日国内で恐ろしい病が蔓延した。
男だけを死に追いやる不治の病、「雄滅病」。
国が総力を挙げてウィルスの研究をしても謎は解明出来ず、予防法も治療法も確立しないまま、アール・マカの男は全滅した。
どうしたものかと首脳者達が頭を悩ませていると、また新たな変化が起こった。
科学を超越した、それも「魔法」と言うべき超能力を操る少女達が現れたのである。
驚くべき事に、彼女らは雄滅病のウィルスを有していた。
アール・マカはやがてその病をこう表す様になる。
__「魔法少女症候群」、と。
「おーおー、そろそろ終わるかと思ったけど、またうるさくなってきた。……じゃあいっちょ」
少女が腕を広げると、魔法陣の様なモノが現れる。
「やりますかぁっ!」
そして嬉々とした表情で口笛を吹いた。
その音は銃声にかき消されるハズが、どこまでも響き渡る。
__直後、先ほどの爆発を遥かに超える蒼い衝撃が男達を吹き飛ばした。
咲き誇る死の華。黄色い歓声。
「ふぃー、こんなもんですかね」
汗などかいていないのに額を拭う仕草をすると、通信機から音声が発された。
『敵国、降参だそうです。やりましたね、大佐!!』
「いやー、それほどでもないよー。えへへー」
照れた様に笑い、彼女は故郷へと歩き始める。
軍事国家アール・マカ魔法少女軍大佐、『騒撃人形(ノイジィドール)』ハーズ。少女はそう呼ばれていた。




