一緒にいて、何がいけない?
キャラ崩壊注意です!特に霊夢。
「ほら、もう朝だよ?」
「ん?…ああ、おはよう」
明るい朝の光が差し込む香霖堂。霊夢が僕の顔に自分の顔を近づけて声をかけた。
「早寝早起きは、健康な生活の基本♡私は女子だけど、体は強くしないと♩」
「残念ながら、僕は女子じゃないんだ。体を強くするっていう意見には賛成するけどね」
時計を見ると、もう8時を過ぎている。店の開店は9時からだ。急いで隣の部屋に移って着替えをし、霊夢の作ってくれた朝ごはんの前に座り込む。
「今日の味噌汁には、霖之助さんが好きなしじみをいっぱい入れたのよ!」
好物を入れてくれなくても、霊夢の手料理を毎日食べられるなら、僕は幸せなのだが…今の季節はしじみは高級物なのに、無理して買ってきてくれたのか?
「そのしじみ高かったから、霖之助さんの財布からお金もらったわ」
霊夢…やっぱり君はそうなんだね…
「…まあいいよ、別に。おかげでこんな美味しいご飯が食べられるからね」
霊夢と結婚し、夫婦になってからというもの、いつもこんな感じだ。
「…もらったお金、いつか返すわね。ツケといて…くれる?」
言っていることはともかくとして、罪悪感を少なからず感じて真っ赤になっている霊夢は、とてもかわいい。
幸せに朝ごはんを食べて、霊夢に手伝ってもらいながら店を営業する。夜も幸せに夜ご飯を食べて、布団を並べて寝る。こんな幸せな日々がずっと続くと、僕はいつから錯覚していたのだろう。
ある日、朝目が覚めると、霊夢が見当たらなかった。時計を見ると、とっくに9時を回っている。
「ああ、霊夢が起こしてくれなかったからか…」
寝ぼけた頭で考え、しばらくして飛び起きた。
「霊夢っ!?」
いつも以上に急いで着替え、家の中を探し回る。扉には「休業中」のプレートを下げておいた。
霊夢がいないことがわかると、僕は絶句した。外を探すしかない。ふらつく足で外に出ると、魔法の森の魔法使い…アリスがいた。彼女は驚いたように声をかけてきた。
「あら、霖之助さん…どうしたの?」
「霊夢が家にいないんだ…」
アリスは口に手をあてた。
「…そういえば、いつも早起きしてミスティアの屋台で買い物しているのに、今日は見当たらなかったわね…まさか霖之助さんをおいて出かけるわけがないし…」
アリスは顔をあげて言った。
「いいわ、ちょうど暇だったし、私も霊夢を探してあげます」
「あ、ありがとう」
「私がいると、一人三役になるわよ…上海!蓬莱!」
二つの人形が飛んできた。
「いい?あなたたち別々に、霊夢を探してほしいの。見つけたら私に知らせてね」
人形は黙って頷き、飛んで行った。
「さあ、私たちも探しましょう?」
「ああ…」
しばらく歩き、迷いの竹林の近くまできたときだ。後ろから呼び声がした。振り向くと、紅魔館のスカーレット姉妹が日傘をさしながら飛んできた。レミリアが言う。
「何をしているの!?霊夢が太陽の畑に連れ去られているわよ‼」
「どうして…?」
フランが僕の手を引いた。
「理由はわからないけど…縛られてて、幽香とかメディスンとかの攻撃をもろに受けてるの。急いだ方がいいわよ」
その言葉を合図に、レミリアとフランが僕の手を引いて飛びはじめた。姉妹怪力に驚いていると、金切り声が聞こえた。もう100mくらい先に迫った太陽の畑からだった。
「やめて‼魔理沙を放して‼魔理沙は私のことを助けようとしただけよ‼何も悪くないの‼」
「あら?自分よりも魔理沙のことを心配するの?美しい友情ね」
霊夢と誰かの声だ。それを聞いて、寒気が走った。嫌な予感は当たる。ひまわりに囲まれた空き地には、霊夢と魔理沙が縛られていた。二人に攻撃を仕掛けているのは、風見幽香とメディスンメランコリー、そして、僕が最も苦手とする大妖怪…八雲紫がいた。縛られた彼女たちが気づく。霊夢は泣き出してしまった。
「霖之助さん!…あ…ぁぁぁぁぁ…」
「香霖!何をしに!?」
攻撃の構えをしていた妖怪たちも、僕の方を見た。
「あら、霖之助。どうかした?」
一番強力な攻撃を放っていた紫が言った。僕は即答する。
「どうかしたって…霊夢と魔理沙が何をしたって言うんだ!」
紫の顔が険しくなった。他の妖怪も、攻撃をやめて僕を睨んだ。
「何をしたか…?元はといえば、あなたと霊夢が結婚したのが悪いのよ。私はあなたたちが結婚したらよかろうと思って祝福をしてあげた。それなのに、何?あなたは自分の幸せの都合で店の開店と閉店を決めるようになってしまった。霊夢も霊夢で、今まで異変解決をしていたりして幻想郷のバランスをとるという正しい生活を、あなたと二人で家に閉じこもるようなものに変えた。幻想郷の重要人物がこうも堕落してしえば、こちらとしても手を打たなければならないわ…私の愛した幻想郷を守るために、あなたを霊夢の記憶から消そうとしたのよ」
僕の中で何かが爆発した。我を忘れたように怒鳴る。
「記憶を!?霊夢の記憶を消す!?紫は僕たちがどんなに幸せだったかわかっていない!確かに周りに迷惑をかけたかもしれない…でも、それならばこれから変わることが出来る!なぜそんな野蛮なことをする必要がある!?」
紫の表情は変わらない。
「さっきも言ったでしょう?私の愛する幻想郷を守るため、と。それに、野蛮とは人聞きの悪い。幻想郷一つと、人間一人の記憶。どちらの価値が高いか、わかっているはずよ、あなたなら」
言い返せない。そもそも、半妖であり、一応妖怪の一族である僕が、大妖怪の紫にそこまで反論出来るわけがないのだ。後ろで宙に浮かんでいたアリスやスカーレット姉妹は、おどおどしながら首を垂れている。僕は手を握りしめ、うつむいた。汗が額を伝って地面に染み込んだ。無言でそのまま立っていると、今迄聞こえなかった声が響いた。
「そこまでにしておいてあげて下さい‼」
守矢神社の巫女…東風谷早苗がいる。彼女は手に持っていたお祓い棒を紫に突きつけた。そうして話し続ける。
「あなたは大妖怪…そして、妖怪の賢者。その立場にいる者ならわかるでしょう。私は妖怪ではないですから、あなたを攻撃することも、反発することもできます。ここまではお分かりですよね」
紫は少し後ずさった。それを見た魔理沙の手が、霊夢を縛り付けている魔法陣に伸びたのを、僕は見逃さなかった。早苗はさらに続ける。
「妖怪の賢者さん、あなたが考えればわかること。霊夢さんの記憶の中に刻まれた、店主さんの存在。これは、霊夢さんが今感じている幸せの、およそ9割を占めているのですよ。霊夢さんが管理している博麗大結界は、博麗の巫女の気分によって丈夫の程が決まる。つまり、店主さんの存在を霊夢さんの記憶から消してしまえば、この幻想郷だけでなく…あなたの存在も危ういということですよ」
紫の目が大きく開いた。長い死のような永眠から覚めたように。…僕は、紫を信用し過ぎていたのかもしれない。紫の口から発せられた言葉は、ことごとく期待を裏切ったのだから。
「あら?私が…この私が、そのようなことも考えていないと?バカなことを言うわね、守矢の巫女。そんな悩み、私の境界を操る能力で対処しているわよ」
紫は扇子を口元に持ってきて、微笑した。
「本当は記憶を消すだけのつもりだったけれど…もうこの子は邪魔だし、消えてもらいましょうか。もちろん、無駄な口出しをしたあなたたちも一緒に…」
「やめろ‼」
恋符 マスタースパーク
魔理沙が魔法陣から抜け出してミニ八卦炉を構えていた。紫があからさまにうろたえる。
「な、なぜ、四重結界が解けて…」
魔理沙はニッと笑った。
「お前の意識が香霖とか早苗の方に向かってたからな。こっちの力が弱まったのぜ。霊夢の方は、結界の力が強すぎて素手じゃ解けなかったけどな…もう少ししたら解いてやるぜ霊夢!」
紫は魔理沙の方に体を向けて怒鳴った。いつもの優美さは、どこかに飛んでいっている。
「いいわ‼魔理沙なんて、もう一度…もう一度縛れば、体力を消耗して二度と出てこれないでしょう!?」
結界 魅力的な四重結界
いくつもの魔法陣が魔理沙に向かって飛んでいったが、その時にはミニ八卦炉が箒の後ろに取り付けてあった。
彗星 ブレイジングスター
魔理沙は素早く紫の魔法陣を避けた。もう一度魔理沙のスペルカード宣言。今度は霊夢を縛っている魔法陣に向けて。
魔砲 ファイナルスパーク
霊夢の縛りが解けた。霊夢は涙で濡れた目に怒りをたたえて紫を睨んだ。
「紫…私のことを恨まないでよ?元はといえば、あんたが悪いんだから…ッ」
霊夢のスペルカードが連続で宣言された。
霊符 夢想封印
夢符 封魔陣
宝符 陰陽宝玉
突然の出来事だから、いくら大妖怪でも避けれるはずがない。結局、紫は周りにいた他の妖怪とともに、吹き飛ばされていた。
しばらくすると、彼女は首をかしげて悲しそうに笑った。
「…本当に霖之助を愛しているのね、霊夢。私の負けよ。でも、今私は冷静になれた。あなたがどんなに幸せになろうと、正しい生活をしようと、どっちにしろ博麗大結界は壊れる運命にあったのね…それならば、私の愛した幻想郷が外の世界に触れる前に……」
紫は手をそっと突き出し、大きな隙間を作った。
「…最後はどうか、幸せな終わりを、この世界と住民に…」
霊夢が割って入った。
「待ちなさい!この世界を消さずに済む方法がある!」
紫は手を引っ込めた。
「さすが、博麗の巫女ね…期待しているわ」
霊夢が僕の手を握った。彼女の体温が、緊張していた僕の手を安心させてくれる。
「今迄悪かったわ。本当に自分の都合しか考えなくて。私の幸せは、家に閉じこもる生活じゃなくても生まれる。…私は変わります。いいえ、私たちは変わります。私と霖之助さんは。この幻想郷に生まれる、すべてのものを愛し、守る。それを約束するわ…」
紫は隙間を閉じて立ち上がった。
「そう。私は最初からそれを望んでいた。いつの間にそれを履き違えたのかしら…私からも謝るわね」
彼女は恥ずかしそうに笑った。
「…もうここですることは何もないわね。帰りましょうか」
その言葉で、そこにいた者たちは散り散りに帰っていった。残ったのは、僕と霊夢だけだ。足が疲れてきたので、霊夢に声をかける。
「霊夢も疲れただろう?もう帰ろうか」
「ええ…でも、その前に…」
霊夢はもじもじしながら僕の体にもたれかかってきた。
「あ、ありがとう…本当に…怖かった…」
服が少しずつ温かく濡れていくのがわかる。
「紫が、自分の望みを履き違えてしまったと言っていたけど、私も同じようなことをしていたのかもしれない…幸せのあり方を、履き違えてしまったわ…」
こんなのしたこと無いが…僕は霊夢の体を抱きしめた。
「大丈夫だ…霊夢だけに背負わせない。僕も一緒に生きるから…」
彼女の体は、店に置いてある、どの道具よりも貴重な、陶器細工のようだった。力を込めて抱きしめたら壊れてしまう、弱々しく、でも、美しい存在…
絶対に壊さないよ…霊夢の体も、心も、そして僕にありったけ注ぎ込んでくれた愛も。
閲覧ありがとうございました。