第18話 アリスの秘密
ハヤトは見たのだ。ラガーマンのような屈強で日々仕事で鍛えられた肉体を持つバンジーさんが空に投げられたのを。
そしてそれを成し遂げたのが、(現在の)自分と年も変わらないアリスという女の子だという事を。
バンジーさんは店からおよそ20メートルほど離れたゴミ置き場に見事にカップインしていた。
生きているか不安になり、ハヤトは店からその場所に駆け寄った。一方、アリスは何事も無かったかのようにハヤトとすれ違いざまに店内に戻っていった。
「バンジーさん大丈夫ですか」
「・・・おぉ・・・。久しぶりに宙を舞ってしまったよ」
「久しぶりって・・・」
「ここだけの話だが、アリスはあんなに華奢に見えて結構な怪力だ。いや、怒りなどが頂点に達するとこんな感じだ。でもいつもは小麦粉の5キロ袋持つのもやっとなのにな」
「怖いですね」
「あぁ・・・、だから学校に行っても誰かに向かってあの怪力が炸裂しないか不安で。ハヤト君もアリスが何か仕出かさないか見といてくれないか」
「止められる自信はありませんが」
男同士でアリスを見守る協定が出来、ハヤトとバンジーは店に戻った。
翌日も口コミで客足はさらに多くなり遂には夕方前に完売で閉店になった。
「いやぁ、売れた売れた。ひとえにハヤト君のお陰だよ」
「ありがとうございます」
喜んでくれるのはありがたいが、バンバンと肩を叩くのは勘弁して欲しいと思いつつハヤトは苦笑いを返した。
「入学に必要な一式を買いに行こうか。君のお陰でこの2日だけで500カンも利益が出たよ。この調子ならバンジーベーカリーも安泰だ」
職人街にバンジーさんに連れられハヤトも向かってるが、その道すがら何度背中を叩かれたか分からない。かと言って悪気がある訳ではまず無いので、注意も出来ないのであった。
ハヤトがこの2日間着ている服は地球から来たときと同じものだが、毎晩お湯で軽く洗うとバンジーさんが温風で急速乾燥してくれているので清潔に保てているが、ノヴァルディーの服装とは大きく異なるので目立って仕方ない。
「とりあえず服だな。その服は悪くは無いと思うが、こっちでは目立ってしょうがない。万一ハヤト君に危害を加えようと思った者が現れたらいい標的になることを保証する」
「それは嫌な話ですね」
バンジーさんが紹介してくれたのは古着専門店だった。
「下着とかはともかくそれ以外は古着で買うのが普通なんだ。冒険者だと特に激しい動きや戦闘で服が破れたりするのは日常茶飯事だからな」
「なるほど合点がいきます」
「まあ自分のサイズに合うやつを上下それぞれ数点選んでこい」
それを聞いた男性店員がすぐさま採寸してくれてサイズに合う服が並んでるとこに誘導してくれた。
ハヤトは自分が好きな青系統の服を中心に何点か選び持ってきた。
「店主、これでいくらだ」
「全部で40カンだな」
「よっしゃ」
ハヤトもせめて半額は出そうとしたが、その手はバンジーさんによって止められた。
「あのアイデアだけでも十分儲かったのに俺に恩を返させないってことないよな」
そう言われると反論も難しく、ハヤトはお礼の言葉を返すだけだった。
そんな感じで、衣料品店で下着も買ってもらい次に向かったのは武器屋だった。
「ハヤト君は何を武器に使うかい」
「それですけど、地球では特に武器を使うって事がなかったので・・・」
バンジーさんは少し考えた後、ハヤトに提案した。
「それならとりあえず剣かな。採取用にナイフも合わせて必要だな」
ハヤトはバンジーさんの勧めに促されるように店内に入り何度か試した末、ひと振りの剣とナイフを選び、
またもやバンジーさんが全て払ってくれた。
ハヤトは今後も何かでお返しをしないといけないなと心に決めたのであった。
学校入学は第20話を予定してます。今暫くお待ちください。