第1話 移住条約締結
テレビでは国会中継が流れている。
「若者の雇用促進の為の施設を作らなければ・・・」
「大臣!またハコモノ作って、官僚天下り天国の促進ですか!!」
与野党がぶつかり合ってるが、こんな話はもう何十年も同じ話題だ。多分解決なんか無理だろう。
田島隼人は30歳無職である。
いや、隼人もなりたくて無職になった訳じゃない。
関東の大学を卒業して新卒で入った会社は終電帰宅が毎日で、土日出勤もしょっちゅうあった。それでいて残業代0円で、給料も一般並み。
入社3年後、社長が会社の金をほぼ全て持って愛人と行方をくらまし、会社の運営も急速に悪化しそれから間もなく倒産。
次に勤めた会社は、営業部の数字が伸び悩み営業所自体閉鎖され、そこの営業所の課長以下全員解雇。
そして、実体経済が上向かない中で、アルバイトとして倉庫作業やってたが、腰を痛めて契約更新されずに終了。
小学校までは結構優秀な生徒だったはずなんだが、英語でつまずいたのが運の尽きだったんだろうな。
テレビを見ながらふと回顧してたら、今度は与党議員が質問に立ったようだ。
「総理!若者の雇用確保について提案があります!」
「異世界に行ってもらい新たな仕事を得てもらうんです!!」
間違いなく国会議員だ。当然『何言ってんだ!!』など野次が飛ぶ。
「私ならパイプを持ってます!!1週間、時間を下さい!!」
それを言うやいなや、与党議員は突然消えた。議員たちは勿論テレビカメラも議員の姿を探したが見当たらなかった。
それからの1週間は凄かった。
『異世界にパイプ!?議場から突然消える』
ワイドショー、週刊誌はもちろんテレビ、新聞、インターネット。さらには世界中のメデイアをこの話題は駆け巡った。
そして約束の1週間後、N○Kは勿論、民放各局(あのテレビ○京まで)さらに複数のインターネット動画サイトが国会生中継をするという異常事態の中、彼は突然現れた。もう1人の男と共に・・・。
「首相、そして与野党の議員の皆様。1週間お待たせしました。異世界から外務大臣を連れてきました。なお、日本語は喋れないので自分が通訳致します」
そこには、ウサギの顔をした背広らしき物を来た男がいた。
「なに、コスプレイヤー連れてきてんだ!国会を舐めるんじゃねえよ!」
「そうだそうだ!!」
「ウサ耳レイヤーが男なんてありえないじゃないか!!」
一部趣向に基づいた不規則発言した議員がいたが、その議員は翌日からバニーちゃん大好き議員と噂され、次の選挙で落選したが、それは別の話である。
「はじめまして、ノヴァルディーから来ましたモンティです。ノヴァルディーはここ、地球からとは別次元にある、いわゆる異世界です。電気や科学はあまり発達していません。その替わり魔法と冒険があります。この日本で未来を描けないと絶望している人たちがいるなら少しでも受け入れる準備はあります」
国会中継を見ていた人全てが驚き、そして隼人も興奮を隠しきれなかった。
これから1週間後、異世界ノヴァルディーのモンティ外務大臣と日本政府が正式に異世界移住に関する条約を締結した。
そしてノヴァルディー移住第1弾として30名の枠が提示され、この国で未来を描けないと思った10万人以上の応募が殺到し、隼人も応募したが残念ながら1次選考すら通らず、第1弾での移住はならなかった。