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伊号マヤの必死に救出活動は続いていた。
葦舟ミライに海水をかけて体温を下げた後、ミライに寄り添ったマヤが海水を凍らせてつくった〝氷の衣〟をミライに着せて――――さらに、体温を低下させようと試みた。しかし、その試みはまるで上手くいかなかった。
ミライの肉体から発せられる熱は、水分を次から次へと蒸発させてしまい、再び体温を上昇させてしまう。完全に焼け石に水だった。つまりところ、燃え盛る炉の中に氷を一粒投げ入れているようなものだ。おそらく、ここら辺一体の海水の全てを――――伊号マヤ自身が操作可能な最大量の水を使ったとしても、このままでは徒労に終わるだろうと、伊号マヤは判断した。
「ダメ、絶対に死なせない」
伊号マヤは呟いた後、真っ赤に燃えるミライの体に、その身を投げ出した。
「――――ッ、アア、ウウ」
マヤは体を重ね合い、自らの体温でミライの熱を奪い去ろうと試みた。
〝クラミツハ〟によって自分自身が氷を纏い、マヤ自身が一つの氷塊となる。
その温度は―――−273.15 ℃。
温度とは、つまるところ物質の熱振動をもとにして規定されているので、下限が、最低の状態が存在する。
原子の振動が小さくなり、エネルギーが最低になった状態のことを指して――――その状態を〝絶対零度〟と呼ぶ。
絶対零度の中では原子の振動が完全に止る。
ようするに、絶対零度の中ではミライの中の炉は熱をつくりだすことはできないだろうと伊号マヤは考えた。この方法ならば、ミライの熱振動を完全に止めて、溢れ出すエネルギーを最低の状態にすることができるだろう。しかし、それは伊号マヤにとっても同じことだった。いくら〝クラミツハ〟という優れた能力を持っていたとしても、彼女自身も絶対零度の中ではその活動を停止してしまう。
ようするに、死ぬということである。
「ダメ、ダメ。お願い――――死なないで」
それでもマヤは体温を下げ続け、迷うことなく体温を絶対零度の値まで持っていこうとした。ミライを強く抱きしめて、必死に少年の熱を奪って行く。
辺りの大気を全て冷気へと変えて、二人の周囲は誰も近づけない異様な空間へと変わり果てる。
それは、まるで氷の地獄――――コキュートスだった。
少年の熱と、少女の冷気。
その二つのエネルギーの繊細ななコントロールをもって、マヤは体温を奪いつつも、その命までは奪わないように能力を使い続けた。
「こんどは、私が――――あなたを守る」
少女の冷たくも温かい、祈るような言葉が、ミライの燃え滾る胸にこぼれた。




