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「――――――これは、まずい?」

 

 黒い霧が衝撃波となって襲い掛かった時、前方に陽電子の(シールド)を張ってそれを防いだオードリーは、衝撃波を受けたマヤの無事を確認している暇すらないことを理解して、急いで航空母艦の方角に向かって飛び出した。

 

 最高速度を出して。


 怪獣〝ブラックテール〟の最後の悪あがきは、最悪の暴挙だった。


 怪獣は大きく裂けた顎をこれでもかというぐらい、ほぼ垂直に開いてみせた。そして鋭い牙の生え揃った口内と、底なしの闇が広がっているような喉の奥を曝け出していた。そして恐ろしいのは、広げた口から生まれ出るものだった。


 ――――〝黒い球体〟だった。


 それは間違いなく〝反物質〟の集合体であり、〝対消滅エネルギー〟の塊だった。

 

 怪獣はそれを砲門にして、最後の攻撃を行うとしていた。


 ――――ギジャアアアアアアアアアアアアアアアアアア


 醜く悍ましい咆哮と共に、巨大な〝黒い波動〟が放たれる。その攻撃目標は、最前線よりもはるか後方――――集結した艦隊に対してだった。


「まさか、最初から気づいていたっていうの? 私たちの艦隊が後方に待機していることを」

 

 怪獣は出現して直ぐに一番身近な人口密集地帯を襲う。それは全ての怪獣に共通する特性だった。しかし、これほどまで敏感に人の気配を察知することができるとは考えていなかった。安全圏だと確信していた艦隊の集結海域が、一瞬で最も危険な死の領域(デッドゾーン)へと変貌した。


「全艦隊に通達――――即座に回避行動に移って。中間地点で待機しているセカンドチームとサードチームは、今直ぐに全員その場から離脱っ」

 

 オードリーが危険を警告する。

 

 そして、自身は怪獣と艦隊の軸線上に立ち、先回してこれから襲い掛かるものを受け止めようと――――両手を大きく広げてみせる。


 オードリーは海のど真ん中に立って胸を張る。赤いマフラーを靡かせながら。


「さぁ、来なよ。私が、ぜんぶ消し飛ばしてあげる」

 

 広げた両腕と両手を巨大な砲台に見立て、オードリーは限界まで加速させた粒子の砲門を全て解放する。淡い緑の粒子によって構成される五十の砲門が少女の前方に配され、そして加速された粒子は、たった一つの塊へと収束されていく。


「ターゲット・ロック――――」


 そして、全ての砲門を一つに合わせて巨大な砲門をつくった。

 長い粒子の砲身(バレル)の周囲にプラズマが弾け、衛星のように回転を続ける陽電子が加速し続ける。


「ぶちかますよ――――メガ・バースト」

 

 巨大な〝黒い波動〟が、オードリーとその背にしたものを呑み込もうと襲い掛かり――――そして、オードリーの放つ〝流星の矢〟が、闇を穿ち打ち払わんと放たれた。


「くっ、ぐうああああああああああああああああああああああああ」

 

 オードリーの全身を、限界まで加速させた粒子の、〝スターストライプ〟の反動がフラッシュバックして襲う。〝ネクサス・スーツ〟のあちこちからが悲鳴を上げて、そして火花を散らした。


〝漆黒の闇〟と〝流星の光〟がぶつかり合い――――その力は拮抗していた。


「ガッデム。まだ、パワーが足りない? もっと。もっと。もっと。もっと。もっと。もっと。もっとだよ。限界まで、ぶちかませええええええええええええええええええええええええ」

 

 オードリーが気を吐き、〝スターストライプ〟の出力をさらに上げる。重なり合った五十の砲門を、さらに加速させて、限界を突破してエネルギーを放出し続ける。

 

 しかし襲い掛かる黒い闇は、全て呑み込もうと攻勢を強めていった。


 じりじりと、オードリーが押され始める。

 少しずつ黒く塗りつぶされ、闇に浸食されていくようだった。

 

 ――――闇に呑み込まれるのも、時間の問題かに見えた。



  ☆



「はぁはぁ、ぐうあああああああ」


 九つの尾の全てを打ち破った葦舟ミライは、すでに飛行を維持できるような状態じゃなかった。纏った〝ネクサス・スーツ〟はすでに原型をとどめておらず、かろうじて何かを纏っているといった状態で、体中は焼いた鉄のように赤黒く胎動し、神経回路の全てが焼き切れ、すでに限界を迎えて(オーバーヒート)してしまったようだった。


 ミライの意識は朦朧として、まともに思考することも叶わないでいた。脳の神経細胞(シナプツ)が一つずつ音を立てて消えて、ほとばしる脳細胞(インパルス)が消滅していく。何も思い出せなくなっていくみたいに。少年の記憶(きおく)そのものが、胸の中の感情(パトス)が、一つずつ消滅していくようだった。しかし、そんなミライが限界を迎えてもなお、肉体に留まったエネルギーは暴走を続け、体温は上昇を続けていく。いずれ訪れる臨界点まで――――その〝炉〟は薪をくべ続け、〝禁断〟の火を燃やし続ける。

 

 全てを燃やし尽くすまで、その〝禁断の火〟が消えることはないというように


 ――――〝炉心融解(メルトダウン)〟寸前だった。


 もう、何も思い出せなかった。


 自分が何のためにこの場所にいるのか、何のために戦っていたのか、自分は何もなのか、自分は何がしたかったのか――――


 ――――何も、分からなかった。


「僕は、いったい、何で、ここに? どうして、こんなに、ボロボロで、それに、どうして、こんなに熱いんだろう? だけど、どうし、て、こんなに、懐かしく、あ、たたか、い、んだろう」

 

 ミライは自分が何を口にしているのかも分からないまま、瞼を閉じようとした。その暖かさに包まれて、眠りに憑こうとした時、ミライは流星の瞬きを見た。


 そしてその光景を見た、その瞬間――――


 ――――〝ねぇ、ミライ知っている? 太陽ってね、沈む時が一番きれいに輝くの〟

 

 ――――〝見せてやろう。怪獣たちに、私たち人類のとびっきりの輝きを〟


「ハッ? ぐうあああああああああああああああああああああああああああ」

 

 頭が破裂しそうな程の痛みと一緒に、少年は強引に記憶を引き戻した。

 

 ――――〝黒い闇〟と〝流星の光〟が、海の真ん中で拮抗している。

 

 徐々に闇に飲み込まれていく少女が、それでも両手を広げて懸命に背にしたものを守っている。


 その輝きは眩しかった。

 だから、ミライは手を伸ばした。


「ぼ、くも、まも、らなきゃ。こんどは、ぼくが、みん、な、をまもるんだ」

 

 湧き上がる衝動に突き動かされるように、ミライは手を伸ばしながら叫んだ。

 すると、その思いに応えるようにミライは背中から黒い翼が吹き出し、少年はその翼の羽ばたきを推進剤にして、大きく広げた顎から〝黒い咆哮〟を放つ〝黒き獣〟へと、最後の特攻をかけた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 

 一度上空に舞い上がったミライが、翼をはためかせて急降下する。

 右足を突き出し、黒い流星となって空を切る。

 あまりの速度に右足が真っ赤に燃え盛った。

 

 まるで消えゆく蝋燭の火が、最後に精一杯の輝きをなっているように。

 

 その輝きは、まさに太陽が沈んで行く瞬間のようだった。


「これでえええ、さいごだあああああああああああああああ」

 

 怪獣〝ブラックテール〟の顎の突き出した獣の頭部。その額を右足で貫いたミライは、そのまま怪獣の巨大な頭を突き刺し、喉仏を突き破って地面に衝突した。

 

 隕石が落下したのかのような衝撃があたりに巻き起こり、周囲一帯のものを全て吹き飛ばして地面を穿った。


 ――――ギギャアアアギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアア


 悍ましい獣の断末魔は直ぐに消え去り、怪獣はクレーターの中に沈んだ。



 ☆

 


「威力が弱まった? これなら――――」

 

 ミライが黒い流星となり、怪獣の頭部に最後の特攻をかけた時を同じくして、オードリーも最後の力を振り絞り、彼女も最後の輝きを放つ。


「ラスト・バースト。これで、けしとべええええええええええええええええええええええええええええええええ―――――――――」

 

 オードリーの叫び声と共に、最大出力で放たれた最後の放射が闇を穿った。

 

 星が瞬き、一筋の流星が空を劈く。

 遠くの方では、沈む前の太陽が最後の光を放っていた。

 

〝黒い消滅のエネルギー〟は霧散して消え去り、美しい蒼穹(あおいろ)だけが星を包み込んだ。



 ――――怪獣〝ブラックテール〟は、殲滅された。


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