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「――――滅びの翼」
一人戦闘空域を離れたところで、ハルカ・ディスカバリーが静かにそう漏らした。赤い血で濡れたような瞳は妖しく光り、ことさら楽しそうに戦場を見つめている。そして三日月を描く唇は、愉快そうな微笑をたたえていた。
三人の〝ネクサス〟が怪獣を追い詰めている。
拳を振るい、砲撃を行い、鎖で捕縛して。
――――そういえば、ずいぶん前に、怪物と戦う戯曲を読んだような気がするな?
ハルカはそんなことを考えた。
「いったいあの戯曲の結末は何だっただろう?」
まるで観客席から舞台を眺めているみたいだった。
「ああ、ミライ君。これが、君の世界――――これが君の可能性なのかい? それは美しも儚い篝火だ。だけど、どんな火も永遠に燃え続けることはできないんだよ。いずれは虚しく、そして儚く消えてしまうんだ。全てを燃やし尽くした、その時にね」
ハルカは目を瞑って両手を広げ、そしてゆっくりとその手を振った。
まるで指揮者が指揮棒を振るうように――――――
「〝調和〟を乱せば、いずれ滅び行くのが〝運命〟」
ハルカ・ディスカバリーは、心地よさそうに腕を振りながら鼻歌を歌っみせた。
その旋律は戦場で奏でられる〝鎮魂歌〟。
モーツァルトの『レクイエム イ短調の第一曲』
――――『永遠の安息を(レムイエム・エテルナム)』。
☆
「あと、一つなのか?」
吐く息さえ蒸発してしまいそうな熱を感じながら、ミライは最後の一つとなった黒い尾を見てそう言った。ミライはもはや満身創痍だった。視界はすでに翳み、目の前すら曇っている
「あっ、ぐううう」
体中を駆け巡る膨大なエネルギーに、血管を流れる血が沸騰し続ける。少し動くだけで全身の神経が焼き切れそうに痛み、自身のエネルギーに変換しきれない過剰なエネルギーの暴走で、脳髄が爆発しそうだった。しかし、それでもミライは全身を巡るエネルギーをさらに加速させ、全開までアクセルを踏み込んだ踏み込み続けた。
限界まで。
終焉まで。
「それがあああああああ」
その先に何が待っているのかを分かっていてなお、ミライは右の拳を全力で振り抜いた。
「どうしたあああああああああああああああああああ」
最後となった〝黒の凶刃〟が砕け散り、九つの刃の全てが折れ去った。
――――グギャシアアアアアアア
――――ギギャシャアアアアアア
黒い獣が悲鳴を上げて身を捩る。しかしミライは丸裸になった臀部に安堵することなく、頭部に攻撃を集中させているオードリーとマヤに視線を向けた。
刹那、獣は最後の咆哮を上げる。
〝ナインテール〟は骨の浮いたみすぼらしい躯を激しく震わせて、氷の棘の刺さった四肢を暴れさせる。赤い瞳を見開き、狐のような尖った貌をでたらめに振り回す。もがき苦しみ、最後の悪あがきをするように。しかし、それは最後の悪あがきと呼ぶには、性質が悪すぎた。激しく震わせた全身から、〝黒い霧〟を発生させ、その霧を〝衝撃波〟にして周囲に放つ――――
「っ、ぐうう―――――」
ミライはその衝撃波に巻き込まれて吹き飛ばされた。しかしかろうじて空中で体制を整えた時には――――
その〝災厄〟は降り注いでいた。




