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「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 

 大声を上げながら、ミライは全速力で怪獣に突っ込んで行く。傍から見れば完全に無謀な行い、自殺行為ではあったが、怪獣に向かっていくミライには、それが無謀でも、蛮勇でもないことを十二分に理解していた。


 頭ではなく肉体で。そして、直感的に。体中を駆け巡る熱が、燃え上がる衝動が、止めどなく溢れ出している。その熱をもってすれば触れらないものはないと、打ち倒せないものはないと、殲滅できないものはないと、ミライは五感の全てで理解していた。

 

 ―――――ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

 

 ミライの存在を認識した〝ブラックテール〟が、禍々しいほどに紅い瞳を向けて雄叫びを放つ。そして、〝黒い尾〟を鋭い刃に変えて、それを突き刺すようにミライへと向けた。


「ミライ、その尻尾に触れたら消滅する。回避して?」

 

 オードリーの制止が聞こえたが、ミライは構わずに突き進んだ。

 向かってくる〝黒の刃〟に対して――――〝右の拳〟を構えた。


「ぶっ――――飛べええええええええ」

 

 ミライは構えた右の拳を、襲い掛かる黒い刃に向かって思い切りに振るった。

 その瞬間、拳と尾が交錯し激しい爆縮が起こる。


「ぐはぁ――――――――」

 

 爆心地のど真ん中で右の拳をおもいきりに振りぬいたミライに向けて、〝対消滅〟が齎す膨大なエネルギーが流れ込んでくる。体中の筋肉が悲鳴を上げ、血が沸騰して神経を焼き尽くす。ミライに熱を送り続けている〝炉〟が、今にも爆発しそうなほどに温度を上げていく。そしてその熱量を処理しきれなくなった躰が限界を迎えたように膨れ上がる。火山が噴火して溶岩を吐き出すように。


 限界を迎えて膨れ上がったエネルギーが、ミライの背中を突き破って飛び出した。ミライの体内で処理しきれなくなったエネルギーが、〝ネクサス・スーツ〟を内側から食い破って、ミライの背中から噴き出す。


 ――――それは、まるで翼だった。


〝黒い翼〟がミライの背中から延びて、大きく翼をはためかせた。そしてミライは自らを焼き尽くすほどの熱を感じながら、その翼を広げてみせる。少年は瞳孔の開き切った瞳を見開き、目の前の怪獣が放つ、もう一本の尾に向かって行った。


「オードリー、〝黒い尻尾〟は僕に任せて、二人は怪獣の本体の殲滅を」

 

 ミライは怪獣に向かって行きながら叫んだ。


「全く、おいしいところを全部持っていくんだから。さすが、私のDNAがシックスセンスが期待しただけはあるね。やっぱり、君は特別は存在。とびっきりのイレギュラーだった」

 

 オードリーはご機嫌に言って続ける。


「了解。ミライは自由に行動していいよ。私たちは本体の殲滅に専念する。マヤ、〝クラミツハ〟で〝ブラックテール〟の動きを封じて。その隙に、私の〝スターストライプ〟で仕留める――――マヤ、聞こえてる?」

 

 返事のないマヤに、オードリーが確認を求める。

 

 伊号マヤは、黙ったまま真っ直ぐにミライを見つめていた。そして返答を求められていることに気がついて口を開いた。務めて冷静に――――


「――――了解。怪獣の四肢を海の水で凍らせる」

 

 怪獣の正面に向かったオードリーとマヤがタッグを組み、怪獣の本体の殲滅にあたった。


 マヤはオードリーに言われた通りに海の水を操り、〝水の鎖〟で〝ブラックテール〟の四肢を絡め取っいていく。その後で、海の水の温度を急激に低下させて、鎖を氷結させて動きを封じた。


「全砲門を怪獣の頭部に集中させる。ターゲット・ロック――――いっけええええええええええ」


 ――――ギシャアアアアアアアアアアアアアアアア


 ――――ギギャアアアアアアアアアアアアアアアア

 

 オードリーの集中砲火を頭部に受けた〝ブラックテール〟が、耳を塞ぎたくなるような悍ましい叫び声をあげた。怪獣は動かない四肢を必死に振り回すが、氷の鎖はが解けることはない。それどころか、動けば動くほど、もがけばもがくほどに氷の鎖は怪獣の四肢に食い込んで、その動きを封じていった。


〝氷の鎖〟は――――〝氷の棘〟にその形を変えていた。


「効いてる? マヤ、このまま一気にいくよ」

 

 オードリーはここが殲滅のチャンスと感じて、攻勢をかける決断をした。ここを逃せば、これ以上の勝機は訪れない――――オードリーの砲撃が間髪入れずに放たれ続け 流星の雨が怪獣に降り注ぎ続けた。


 

 ☆



 怪獣の臀部では、ミライが〝反物質〟の塊である〝尾〟との戦闘を続けていた。ミライによって二本の尾が消し飛び、残り七本となった黒い尾の全てが、その切っ先を〝刃〟に変えてミライへと襲い掛かっていた。


「次はどこだ?」

 

 ミライは次から次に迫りくる黒い刃を、ヴィヴィアンに教わった空中戦闘機動で躱しては――――躱しざまに右の拳を振るう。振るった拳が黒い尾とぶつかり、拳から躰に流れるエネルギーを自身の更なるエネルギーに変えて、背中から〝翼〟として放出する。燃え盛る〝炉〟が生み出す更なる熱を、加速のエネルギーに変換して、ミライは次の尾へと移って行く。


「はぁ、はぁ、――――あと、残りは?」


 いつの間にか、残りの尾は三本になっていた。そして怪獣の黒い躰を取り巻いていた〝黒い霧〟が、いつしか消えていた。まるで夜明けとともに朝靄が消えてしまうみたいに。そして晴れた〝黒い霧〟の中から――――骨ばった、みすぼらしい獣の躯が浮き彫りになっていた。

 

 肉のない骨と皮だけのその姿は、不完全なままでこの世に産み落とされた――――

 

 ――――畸形のようだった。



 ☆



「おそらく、成長が不完全なままで生まれ出てしまったのね?」

 

 戦闘の状況をモニターで確認しながら、龍驤ナオコが呟いた。


「本来、もっと長い時間をか、〝黒い卵〟の中のエネルギーを全て吸収してから、あの怪獣は生まれてくるはずだった。だけど思った以上にエネルギーを消失してしまい、不完全なまま生まれ出る他なかったんでしょうね」

 

 結果論ではある。


 そう考えれば、今回の殲滅作戦行動の内容自体は間違っていなかった。あれ以上、卵の中のネルギーを怪獣に吸われていたら、手の施しようがなかっただろうと。しかし、それも全て葦舟ミライという予想外の要素(ファクター)が、規格外の意外性(イレギュラー)があってこそ。


「もしも、全てが筋書き通りだったなら? 初めからこうなることを予期していたとしたら? 長門司令、あなたは何を考えて――――」

 

 ナオコは誰にも聞かれないように一人呟いた。

 すると、本部のオペレーターからの通信が入った。


「葦舟ミライの〝VK値〟、急速に増大し続けています。この〝VK値〟は――――〝怪獣出現〟と同規模の量です。こんな数値、〝ネクサス〟では見たことありません」


 〝ヴァリス本部〟から葦舟ミライの情報が入った〝ネクサス・スーツ〟の生命維持機能によって送られている葦舟ミライのデータは、その全ての値で人間離れした数値を叩きだしている。


「それで、この〝熱量〟は何なの? スーツを身に纏っているとはいえ、あの反物質の尾に触れて平気な理由は――――そっちで分かる?」


「おそらくですが、何らかの原理で拳から〝対消滅エネルギー〟を取り込んでいると思われます。その際に葦舟ミライの体内で処理しきれなくなった余剰エネルギーが背中から放出されて、翼上のエネルギーとなっていると予想できます」


「つまり、限界突破(オーバードライブ)しないために、肉体が排熱をおこなっているってこと?」


「おそらくは。しかし、このままは肉体もそうですが、それよりも先にスーツが持ちません。すでに飛行機能を含めた幾つかの機能が停止しています」


「だとすると、今、ミライ君が飛んでいるのは」


「理論上考えられませんが、放出しているエネルギーを推進力に変えているとしか?」


「つまり、気合って奴ね。まぁ、嫌いじゃないわ」

 

 理論上考えられなくても、事実葦舟ミライは飛んでいた。見事とはいえない飛行だったが、それでも強引に体を動かして、必死に、そして懸命に闘っていた。黒い翼を羽ばたかせながら。


「だけど、このままだとミライ君の命に関わるわね」

 

 オードリーは、ここを殲滅の勝機とみて最後の攻勢をかけた。

 

 ならば、ここに賭けるしかないだろう。

 龍驤ナオコは、そう決断して――――サングラスを外した。

 

 怪獣の残りの尾は、あと二本になっていた。


「ミライ君、気合でブッ飛ばしなさい」

 

 それが、すでに通信機能すら失い、言葉をかけることもできなくなったミライに向けての、最後の言葉になった。


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