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「―――現時刻、日本時間の七月四日、十七時三十分をもって――葦舟ミライの国籍及び個人情報の全ては破棄され、完全に抹消される。これが手続き上――最後の警告というか、忠告になるんだけど……オッケー?」


「はい」

 

 胃の中のものを盛大にぶちまけた後、龍驤ナオコによって案内された巨大な施設――


 広いロビーから、エレベーターに乗って三階に上がり、長い廊下を歩いて〝ナオコ・ズ・オフィス〟と看板の掲げられた部屋に、二人は入った。

 

 そこは、まるで台風が通り抜けたような乱雑な部屋の中だった。


 その汚らしいオフィスの中で、これからこの〝海上都市新東京〟及び、〝対怪獣殲滅機関ヴァリス〟に所属するための、もろもろの説明を受けた葦舟ミライは――


 とくに迷うこともなく、同意の言葉を口にした。


 大きな机の上に乗った大量の書類、及び誓約書などを広げて見せて、これ以上ないくらいに、ミライに脅しをかけたつもりだった龍驤ナオコは―――


 サングラスの奥の瞳に、怪訝の色を浮かべていた。

 

 その書類の中には、『仮に訓練中及び、任務中にミライが死亡したとしても、〝ヴァリス〟はその一切の責任を負わず、一切の保証を行わない』、ということに同意させる誓約書や、遺書を残しておくための〝便箋(レターセット)〟などもあった。


「オーケイ。これで、あなた――――葦舟ミライの存在は、完全抹消されたわ。今、私の目の前にいるのは、この〝対怪獣殲滅組織ヴァリス〟に所属する、〝ネクサス〟としての葦舟ミライ。あなたの権利及び、個人の自由は、完全に剥奪され、残されるのは、この〝ヴァリス〟の指揮に従い、命令のみを遂行するという使命だけよ」


「はい、わかりました」


 今回も、迷いも、臆した様子もなく――――葦舟ミライは同意の言葉を口にした。


「ようこそ、ミライ君――――現時刻をもって、あなたは、完全に〝ヴァリス〟の一員よ。さぁ、二つ隣の部屋で、この制服に着替えてきなさい」


「―――はい」


 葦舟ミライは、黒を基調とした制服を手渡され――それをもって部屋を出て行こうとした。


「ああ、廊下の左側の二つ目の部屋だから」


 今にも倒れてきそうな――そして、すでに倒れてそこら中に散らばっている――うずたかく積み上げられた書類の山と戦いながら、出て行く小さな背中に声をかけたナオコは――――


「…………あれ、左じゃなくて右だったかしら? まぁ、厳しいことをいろいろ言って脅しちゃったけど―――まずは、青春を謳歌しなさい」

 


 ―――扉が閉まる音と同時に、そう一人ごちた。


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