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 ――――戦場での死なんて、案外、あっけないものだ。

 

 一瞬の判断ミス。ほんの少し集中が途切れただけで、あっけなくそれは訪れる。頭の上にぶら下がった剣の紐が、運悪く切れて落ちてくるように。

 

 ああ、そんな程度で簡単に終わりが来てしまうんだなと――――ヴィヴィアン・インヴィンシブルは刹那の中で思った。

 

 幾重にも降りかかってくる反物質の黒い尾を前にして――――それを避けるべきか、迎撃するべきか、そんな一瞬の迷いがその結末を招いた。


 迎撃するべきだと――――頭上から振り下ろされる黒い尾に対して、ヴィヴィアンが〝エクスカリバー〟の斬撃をもって防ごうとした時、突然視界がぼやけて迎撃が遅れてしまった。能力の連続使用が招いた疲労と集中力切れ。初歩的なミスだった。そんな初歩的なミスが、致命的な命取りになることなんて分かり切っていたはずなのに、実際に初歩的なミスを犯してみるまで、本当の意味でそのことに気がついていなかった自分自身に、ヴィヴィアンは腹が立った。


 頭上の尾を斬撃で迎撃したまではよかった。しかし、横薙ぎに払われた尾に対しての反応が遅れてしまった。


 ああ、もうっ。


 こんな時にまで、自分自身を叱責できることは彼女の美徳であり、同時に彼女の悪徳であったと言えるだろう。常に自分に厳しい規律を定め、常に華麗さと優雅さをもって行動することを自身自身に定めてきたヴィヴィアンにとって、こんな幕切れは最悪の最後と言えた。


 みっともなく、情けない。華麗でも優雅でもない最後だった。

 

 その遅れは致命的だった。


 回避が間に合わないことは直ぐに理解できた。

 

 そもそも、すでに限界を迎えていたのだ。

 

 遅かれ早かれ、こううなっただろうと――――

 ヴィヴィアンは自分に言い聞かせた。


 絶体絶命という訳ではなく、これで終わりなんだと素直に受け入れることができた。怪獣殲滅の作戦行動の際に、常に最前線(フロントランナー)を務めてきたヴィヴィアンにとって、それが訪れることは何ら不思議なことではなかった。普段は強がり、精一杯の去勢を張っていたとしても、心の隅ではそれを恐れていた。死の恐怖を克服できるなど、いたいけな少女には到底無理だった。

 

 自分は、いつか戦場に散るんだろうと――――

 

 今まで散って行った数多くの仲間たちと同じように。

 

 だけど、それでも、その瞬間が訪れた時に思ったことは――――とても単純だった。

 

 未練と後悔。

 

 ヴィヴィアンは、心から死にたくないと思った。

 

 少女は目を瞑った。


 迫り来る、死と刻印された〝黒い尾〟を視界から消し去った。せめて散り際くらいは潔く、淑やかにと願ったが――――それでも、死の恐怖からは逃れられなかった。


 怖かった。


 死にたくなかった。


 もっと生きていたかった。


 もっといろいろなことをしたかったと思った。


 買い物をしたり、お洒落をしたりしたかった。


 おいしいものを食べたり、友人たちとティーパーティをしたかった。


 それに、できれば恋というものをしてみたかった。

 

 でも、結局はなにもできなかった。


 オードリーの通信からが入っていた。死の恐怖から逃れるために目を瞑る前、海の水を操作しようとしたマヤの姿も確認できた。


  大切な二人の仲間が、まだ必死に戦ったいた。


  二人には、素直に生きてほしいと思った。


「あーあ、ほんとう、わたくしの人生って――――――」

 

 そう呟いて、自らの短い人生にヴィヴィアン・インヴィンシブルは幕を下ろした。

 最後の瞬間に、自分の名前を必至に叫ぶあたたかい声が聞こえてきた。


 走馬灯のかわりに。


 その声を聞いた瞬間に――――


 なぜだか、ヴィヴィアンは気が抜けしまった。


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