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「ヴィヴィ、五秒後九時方向に六発――――その後、転送したポイントに回避して」
「了解です――――〝エクスカリバー〟」
華麗に空中を舞うヴィヴィアンが、オードリーに指示された通りに攻撃を行う。自身のネクサス能力〝エクスカリバー〟によってつくりだされる不可視の斬撃をもって、〝トーキョージュピター〟に攻撃を与えていく。
目に見えない刃が〝トーキョージュピター〟を六回切り刻み、そしてヴィヴィアンは即座に回避行動に移る。ヴィヴィアンの攻撃を受けた〝トーキョージュピター〟は、一瞬のタイムラグのあった、その後――――
攻撃を受けた方角に向けて〝黒い触手〟を――――〝反物質〟の〝対消滅エネルギー〟を発射したが、その空間にはすでにヴィヴィアンの姿はない。
「ターゲット・ロック――――いっけえええ」
オードリーのネクサス能力〝スターストライプ〟――――自身の周囲に展開させた淡い緑色の粒子。加速された粒子を亜光速で打ち出す砲門から放たれる陽電子のレーザーによって、反物質のレーザーは全て相殺された。
〝黒〟と〝緑〟の砲撃がぶつかり合った衝撃は――――絶大だった。
海が割れ、砕けた建物の残骸が飛び散り、水飛沫が蒸発する。そんな衝撃に巻き込まれないように、ヴィヴィアンは必死の旋回を行ってその場を離脱していた。
「――――はぁはぁ、」
ヴィヴィアンは五感を極限まで研ぎ澄ませ、針の穴をも通すほどの集中力をもって回避行動続ける。僅かなダメージも受けないように、細心の注意を払って、攻撃と回避を繰り返している。
しかし長時間に渡って極限状態を維持し続けいるため、しだいにヴィヴィアンの息は切れはじめていた。〝エクスカリバー〟による斬撃もオードリーから指定されたポイントとのズレが出始めていた。そして、そのズレは戦場においては致命的なズレだった。
「ヴィヴィ、次は三時方向に四発。退避ポイントはここよ」
「はい。さっさと送ってくださいな」
ヴィヴィアンが攻撃と退避ポイントを確認した。
「〝エクスカリバー〟」
目に見えない斬撃が〝トーキョージュピター〟を四度切り刻み――――すかさず反撃が返って来る。
「斬撃の位置が微妙にずれてる?」
オードリーが修正した反撃予測地点を伊号マヤに送信する。
「マヤ、一発そっちに行くから、よろしく」
「了解」
オードリーの〝スターストライプ〟が相殺し損ねた〝黒いレーザー〟がオードリーを追い抜き、太平洋へと突き抜けていく。オードリーたちの後方で防衛網を張っている伊号マヤは、オードリーから送られてきた反撃の位置情報を確認して、両手を前に突き出した。するとマヤの足元の海が動きだし、膨大な量の〝海〟が、空中に浮かび上がる。そして宙に浮かぶ海は、急速に冷えだしてその形を変えた。空に浮かぶ海は、まるで伊号マヤに掌握された粘土細工のようで、そして出来上がったのは〝氷の彫刻〟で――――それは〝巨大な盾〟だった。
〝氷の盾〟が、反物質の砲撃を受けとめて消滅した。
これが、伊号マヤのネクサス能力――――〝クラミツハ〟。その基本能力は、〝水流操作〟と〝氷結〟。
空気中の大気を氷結させることと、水流を操作して液体の流れや形を変えることができる。他にも、近くに雨雲さえあれば雨を降らせることさえ可能であり、様々な状況に応じて応用のきく便利な能力であり、海上での戦闘に置いては圧倒的な地の利を誇ることから――――『日本神話』に出てくる水神〝闇御津羽神〟の名を冠している。
能力の〝希少性〟や〝重要性〟だけでいえば、オードリーの〝スターストライプ〟や、ヴィヴィアンの〝エクスカリバー〟よりも上位に位置する能力ではあるが、膨大な量の液体を操作するには高度な集中力を要し、さらにそれを氷結させるとなると数秒の時間を必要とすることから、今回の作戦においては、オードリーの相殺し損ねた反撃のみを防ぐというバックアップに徹していた。
☆
「ずいぶん、疲れが見えて来たわね? これでもうぶっ続けで二時間になる。とうぜんと言えば、とうぜんか?」
戦闘の状況を把握しながら、艦橋にいる龍驤ナオコがそう呟く。
「何か変わった事はない?」
そして、この戦闘状況をモニターしている〝ヴァリス本部〟の〝中央作戦室〟に尋ねた。
「今の所、変化はありません。〝VK値〟も変動なしです」
作戦司令室オペレーターの国生ヒトミが答えた。
「対象の直径は?」
「現在、〝九キロメートル弱〟です」
「出現時の約三分の一ってところね。さて、このまま何も起きずに終わってくれるといいんだけど?」
ナオコはそう言って、モニターに映る〝最前線〟を見つめた。
作戦は問題なく行われているが、サングラスの奥の彼女の瞳は決してこの状況を楽観視してはいなかった。
先ほどからヴィヴィアンの攻撃の精度はだいぶ低くなり、防御との連携にも明らかなズレが出始めていた。集中力の低下によって、ヴィヴィアンの想像力と精神力によって創られる不可視の刃にもバラつきが出始め、攻撃の箇所、そして回数ともに誤差が生じてしまう。そしてそのズレによって〝トーキョージュピター〟の反撃予測も難しくなり、今ではオードリーとマヤの二人がかりで攻撃を相殺し続ける、そんな状況が長く続いていた。
反物質のレーザーを相殺させずに、ただ回避だけを行うという方法もあった。しかし現状、ヴィヴィアンの反物質のレーザーに対する回避には遅れが出ているため、オードリーはヴィヴィアンに直撃する手前で反撃を相殺している。オードリーは、ヴィヴィアンを守ることに専念せざるえず、そのほかのポイントへの反撃はマヤが担当するようになっていた。
やはり相殺することをメインとして考え、盾を二枚にして正解だったと――――ナオコは心の中で思った。しかし、予想以上にヴィヴィアンの消耗は激しい。
何度も対消滅エネルギーの爆縮に巻き込まれ、その度少にしずつ〝ネクサス・スーツ〟を通じて、ヴィヴィアン自身にもダメージが蓄積されている。それに、最前線で攻撃と回避を繰り返すことへの消耗は、体力的にだけでなく精神的にも尋常ではないはずだった。
このままでは、最後までもたないかもしれない――――
龍驤ナオコは、スケジュールを繰り上げることを決定した。
「補給チーム、今直ぐ補給ポイントに移動してちょうだい」
そうして、戦況は次のステージへと――――第二ラウンドへと移って行った。




