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「まぁ、こんなものでしょうね? これで、基本的な空中戦闘機動は、い・ち・お・う――――マスターしたと言ってよろしいでしょう。けれど、まだまだ不細工な飛行なことにはかわりはありませんわ」


「はぁ、はぁ、――――はい、ありがどうございばじだ」

 

 ミライは、顔を真っ青にしながらお礼を言った。あれから三時間ほど、休みなく空中戦闘機動の訓練を行い、龍驤ナオコも顔負けのスパルタ指導を受けたミライは息も絶え絶えといった感じだった。


「さぁ、そろそろ推進剤も限界でしょうし戻りましょう」


「はい」

 

 ヴィヴィアンが低速で新横須賀港へ向かい、ミライもそれに続いた。


「先ほど、どうしてわたくしがあなたに訓練をするのかと尋ねたでしょう?」


「はい」

 

 ヴィヴィアン静かな声で徐に話をはじめた。

 

「わたくしは自分の故郷も、自分の国も守れずに、この〝ヴァリス〟にやって来たんです。もちろん私の国に怪獣が出現した時、わたくしは今よりもずっと幼く、わたくしに戦場に出れるほどの能力があったわけでもありませんが、それでも戦いもせずに故郷から逃げ出したことには変わりません。わたくしは、そんな自分が許せないんです。安全圏でのうのうとしていた自分が情けないんです」

 

 背中越しにヴィヴィアンの言葉を聞きながら、ミライは何を言葉にすればいいのか分からずにいた。ヴィヴィアンのこの告白がどこに向かっているのかもふくめて。


「だから、今度こそわたくしは全てを守りたい。そう、誓ったんです。今度こそ、って。でも、それすらできなかった。半年前に出現した怪獣に、わたくしたち〝ヴァリス〟に所属する〝ネクサス〟の多くが、はじめてできたわたくしの仲間たちが、戦場で散って行きました」


「それって、ミサキが言っていた?」

 

 ミライはミサキとの会話を思い出して言った。


「ええ。どうやら、お聞きになったみたいですね?」


「うん。そのせいで、ミサキは戦場に出られなくなったって。自分のことを――――逃亡者だって」


「逃亡者。まぁ、そう思いたくなるのも無理はないのかもしれません。半年前に出現した怪獣の殲滅作戦行動で、セカンドチームは壊滅。その唯一の生き残りが――――島風ミサキなのですから」


「ミサキが、セカンドチーム唯一の生き残り?」


「ええ。怪獣殲滅において、セカンドチームの役割は殲滅の補佐と支援。〝念動力〟や〝飛行〟などの補佐的な能力をもった〝ネクサス〟が多く所属していたのがセカンドチームでした。殲滅を行う上で要となる〝フィニッシャー〟がいなかった。それでもレベル7の〝テレポート〟能力者のミサキが、上手く纏めていた実績のあるチームでした」


「そんなチームが壊滅なんて?」


「ミサキのせいではありません。いえ、誰のせいでもない。しいて言うならば、その時、国連の要請で〝欧州戦線〟に遠征に出ていた、わたくしたち〝スターソード〟のせいでしょうね? 私たちが残っていればセカンドチームが壊滅することも、多くの被害が出ることもなかったはずですわ」


「そんなの、ヴィヴィアンのせいじゃ、誰のせいでもないはずだ」


「分かっていますわ。だけど――――」

 

 ヴィヴィアンは一旦空中で制止した後、振り返ってミライを見た。


「〝ノブレス・オブリージュ〟」


「―――――?」


 それは聞きなれない言葉だった。


「〝ノブレス・オブリージュ〟。まぁ、〝力あるものの責務〟といったところですわね。わたくしたちの国の〝騎士道〟、あなたの国の〝武士道〟にあたりる考えかたですわ。わたくしには〝怪獣〟と戦うだけの力がある。だからわたくしは、常にその力と責務に忠実であり、それを全うしたいと思っているんです。けれど、それができない――――」

 

 ヴィヴィアンは、悔しそうに唇を噛んで続ける。


「だから、考えてしまうんです。考えずにはいられないんです。次から次へと、この指の隙間からこぼれ落ちる砂のように色々なものが失われていく。あの時こうしていれば、わたくしが正しく力を使い、責務を果たしていればと。考えずにはいられないんです」

 

 震えたヴィヴィアンのその声には、プライドの高さも傲慢さも微塵も感じられなかった。そしてミライはようやく気がつくことができた。今までの彼女の棘や険のある辛辣な態度は、ミライに向けられたものではなく、責務を果たせない自分自身と、仲間の死の影に向けられたものなのだと。


「だから、お願いです葦舟ミライ、死ぬことだけは許しませんよ」


「ああ、絶対に生きて帰るよ。僕は、ヴィヴィアンの言葉には絶対服従だから」

 

 ミライは、ヴィヴィアンが気の抜けると評した無防備な笑みを浮かべてそう答えた。


「だけど、ヴィヴィアンって素直じゃないんだね。そんなに優しくて素敵な女の子なのに?」


「な、な、な、何を、急に言っているんですか? ―――――――」

 

 ヴィヴィアンは、顔を赤くして声を荒げた。


「わたくしが素直じゃないなんて、そんなことはありませんわ。わたくしを、からかっているんですか? ちょっと、その小生意気な笑みを消しなさいっ。少しくらい空中戦闘機動が上手くなったからって、調子に乗っているんじゃありませんわ。このスカタン。わたくしは、まだあなたを〝スターソード〟のメンバーと認めたわけじゃないんですからね? だから、その笑みを―――――」

 

 そうして、二人はゆっくりと港へと戻って行った。

 


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