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「っていうかヴィヴィアン、これから何を始めるの? まさか、本当に決闘とかじゃあないよね?」


〝ネクサ・スーツ〟を纏って夜空に飛び出した二人は、太平洋の海の上、空中で停止して向かい合っていた。足元の海は夜の闇に包まれて、まるで底なしの闇が淀んでいるように見えた。反対に夜空には一面の星々が瞬き、綺麗な三日月浮かび上がっている。他にも北極星、夏の大三角形などが濃紺の夜空を彩っている。


「ゴホンっ。今から、わたくしがあなたに空中戦闘機動の訓練をして差し上げます」

 

 ヴィヴィアンは胸を張り、腰に手を当てて堂々と言った。


「訓練? ヴィヴィアンが、僕に?」


「わたくしでは、何かご不満かしら?」


「不満なんて、僕もヴィヴィアンに訓練してもらえるなら嬉しいけど。でも、急にどうして?」


「理由なんてどうでもよろしいでしょう? とにかく時間がもったいないんですから、直ぐに始めますわよ。準備はよろしくて?」

 

 ヴィヴィアンは言いながら、ミライの鼻先にびしっと指を突きだした。


「訓練の前に一つ、わたくしの言葉には――――〝絶対服従〟です。よろしくて?」


「よ、よろしいです。お、お願いします」

 

 ミライは、おそるおそる言った。


「まずは〝ホロ〟に表示させている〝航空計器〟を全てオフにしなさい。〝ネクサス・スーツ〟による空中戦闘機動は体感が全てです。一瞬の遅れが、そして迷いが、対怪獣殲滅では命取りになります」


「でも、こんな夜に〝航空計器〟もなしで飛んだら――――」


「わたくしの言葉には?」


「絶対服従でした。航空計器を全部オフにします」


 ミライは、ヘッドギアから映し出されるホログラフの航空計器を全てオフにした。


「よろしい。〝ホロ〟をオフにしても、必要な情報は、全て〝アラート〟で知らせてくれますし、〝計器〟は視界の隅に待機しています。スーツのOSが必要に応じた情報だけを映してくれますから、それだけを頼りにして飛べば問題はありません」


「りょ、了解です」


「まずは私が手本をお見せします。葦舟ミライ、こちらに来なさい」

 

 言われるままに、ミライはヴィヴィアンのすぐ近くまで飛んで行った。

 ヴィヴィアンはミライに背中を見せた。


「わたくしの腰に手を回して、しっかりと固定しておきなさい」


「えっ、ヴィヴィアンの腰にって、いいんですか?」

 

 ミライは狼狽えたよう言って、ヴィヴィアンのくびれた腰を眺めた。そしてスーツの隙間から僅かに見える丸みのおびた小ぶりなお尻を見て、いけないと首を横に振った。


「余計なことを言っていないで、早くなさい」


「はい」


 言われるままにヴィヴィアンの腰に手を回した。


「コラっ、どこを触っているんです? 腰といったでしょう? わたくしの腰は、もっと下です。そこは、違う。そこは、お尻です。もうっ、このスケベ猿っ」


「すいません」


 スーツ自体は、〝タイタニウム〟という特殊な素材でできているため、スーツのどこを触っても触り心地は変わりないのだが、ミライは慌てて手の位置を下げたり上げたりして、なんとかヴィヴィアンの腰に手を回してがっちりとつかんだ。


「しっかりとロックしましたか?」


「はい、しっかりと固定しました」


 ミライは、ヴィヴィアンを背中から抱きしめるような形になっていた。


「いいですか? 今から、あなたのスーツの制御をわたくしのスーツに同期させます。コントロールは全てわたくしのほうで行いますから、あなたはただ私の空中戦闘機動を肌で感じていなさい。よろしくて?」


「了解です」


「では、行きますわよ」

 

 そう言うと、ヴィヴィアンは二人の頭上に輝く満天の星空を目がけて、一直線に上昇して行った。あっという間に高度を上げて、高高度に達する。そして更に高度を上げ、北極星を目指すようにどんどんと高みへと上っていく。


 そして、その後――――ミライを背に乗せたヴィヴィアンは、スラスターを全開にして直滑降で海へと向かって落ちていく。


「よく聞ききなさい、葦舟ミライ? たとえ夜の闇で海が見えていなくても、海まで接触時間はスーツが教えてくれます。後は、自身のスーツの性能を知っていれば――――」

 

 アラートが海面との接触を告げる直前、ヴィヴィアンはスラスターを逆噴射させ、さらに絶妙なテクニックを駆使して、海面を滑るような低空飛行へと移った。水飛沫や水煙を上げながら再び海面を離れて空へと上がり、ヴィヴィアンは、『ループ』、『シザーズ』、『ブレイク』、『ヴァーティカル・クライム・ロール』と、次から次に〝マニューバ〟を決めてみせた。

 

 それは、まるで夜空の下でダンスを踊っているように華麗で優雅だった。

 

 月明かりに照らされ、満点の星が輝く夜空の下は――――


 ――――ヴィヴィアン・インヴィンシブルのステージだった。



 ☆



「どうですか、感覚はつかめましか?」

 

 一通りのことを実戦してみせると、ヴィヴィアンが振り返って尋ねた。


「たぶんですけど、〝ホロ〟には頼らないでいけると思います」


「なら、今度はお一人でやって見せてください。だけど、その前に一つだけアドバイスを――――」


 ヴィヴィアンは人差指を立てて続ける。


「葦舟ミライ、あなたはわたくしのように飛ぶ必要はありません。そもそも飛ぼうと思って飛べるようなものでもありませんし、スーツの特性だって違い過ぎます」

 

 そう言いながら、ヴィヴィアンはミライの手を取って空中でくるりと一回転した。ダンスでリードをするみたいに。


「あなたは、あなたのステップを踏んで、あなたの踊りを好きなように踊ればいい。わたくしを真似る必要はありません。さぁ、この美しい星空の下でわたくしに見せてください。あなただけのの空中戦闘機動を」

 

 ミライにはヴィヴィアンのその言葉が、この星が降りそうなほどの夜空で一番かの輝きを放っているように思えた。


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