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「ベビーフェイス、少し付き合えよ」

  

 ヴィヴィアンとの話を終えて教室に戻ると、島風ミサキがミライのことを待っていた。二人は校庭の中庭に無言で辿りついた。ミサキがゆっくりと振り返り、そして、心苦しそうにミライを見つめた。


「お前、トップチームの、〝スターソード〟のメンバーになったって、本当か? どうして、お前みたいなのが、死にたいのかよ?」

 

 ミサキは叫ぶように言った。その声は、ミライを責めてめているようにも、自分自身を責めているようにも見えた。ミライはなんて答えたらいいのか分からずに、ただ無言でミサキのことを見つめていた。


「なぁ、戦場に出るのが怖くないのか? 死ぬのが怖くないのか? 今回の作戦で前線に出るのは〝スターソード〟のメンバーだけなんだぞ?」


「知ってる。分かっているよ」


「分かってねーよ。お前は何も分かってねーんだよ。お前は何一つ分かってない、赤ん坊と同じなんだよ、ベビーフェイス。お前みたいなのが前線に出たって、無駄死にするだけなんだよ? いいか? 〝上位ランカー〟だって、怪獣の前じゃまるで無力なんだよ。あいつらは、いくらだってやってくる。人をゴミみたいに扱って、紙屑みたいに引きちぎるんだ。俺たちは、あいつらの餌ですらねーんだよ。そこらへんを飛んでる羽虫と一緒なんだよ」

 

 今にも泣きそうになりながら、島風ミサキという少年がミライに告げる。自分自身も、まるで何を言っているのか分かっていないような口ぶりで、ただ湧き上がる衝動のままに、でたらめに言葉を扱った。


「見ろよ、ベビーフェイス」

 

 ミライの顔の前に手を出した。その手は震えていた。よく見ると、ミサキの体全体が凍えたように震えていて、今にもその場に崩れ落ちてしまいそうだった。影の差した表情は弱々しく、まるで迷子になってしまった子供のようにさえ見えた。


「俺は、ランキング八位の〝ネクサス〟だった。セカンドチームのリーダーだった。怪獣殲滅補佐数4体の記録まで持ってたんだ。だけど、半年前に出撃した怪獣の殲滅作戦で、そのたった一回で――――俺は、もう戦場に出れなくなった」

 

 ミサキは蒼白とした顔を身震いさせた。


「怪獣って聞くだけで怖いんだよ。体が震えて仕方ないんだ。あいつらの前にもう一度出たらって、そんなことを考えるだけで、この体が言うことをきかなくなる。だから、俺は逃げたんだ。今の俺は、ただの逃亡者だ」


「ミサキ?」

 

 ミライは初めて島風ミサキの名前を呼んで続けた、自分の話をするために。


「ミサキ、僕は〝アトミック・ボンバー〟って、怪獣が殲滅された〝首都決戦〟の地で、消滅した東京で唯一の生き残りなんだ」

 

 ミライは、自分の過去を語った。


「ものごころがついた頃から、僕はサナトリウムで暮らしていた。僕の周りの世界はものすごく平和だった。ものすごく平穏な生活だった。世界中で怪獣が出現していて、世界中でたくさんの犠牲者が出て、〝ネクサス〟っていう子供たちが怪獣と戦っているんだって話では聞かされていた。ヒーローたちが、みんなのために戦っているんだって、僕は思ったよ」


「ヒーローなんかじゃねーんだよ。俺たちは――――」


「うん。少しだけど、ミサキの言ってることが分かるよ。今なら、その意味が分かる。短い間だけど、この〝ヴァリス〟で生活して、いろいろな人がいて、いろいろな考え方があるんだなって分かった」

 

 そう語るミライの表情はどこか清々しかった。この青空のように。


「だから、今度は僕がみんなの役に立ちたいんだ。僕に何ができるかなんてわからないけど、それでも僕はこの場所にいるみんなの役に立ちたちたい。そして、怪獣に怯えている世界中の人を守りたいんだ」


「怖くないのか?」


「怖いってことが、よく分からないんだ。実感がないっていうか、感じ方が分からないんだ」


「怖いってことが分からないって? 何だよ。反則じゃねーか。何だよ、それ?」

 

 ミサキは空を仰いた。

 そして、再びミライを見つめた時の表情は、少しだけ清々しかった。


「分かったよ、ベビーフェイス。頼むから生きて帰って来いよな?」


「うん。必ず生きて帰って来るよ」

 

 ミサキが拳を前に突きだした。

 ミライもそれにならった。


 燦々と輝く太陽の真下で、二人は拳を突き合わせた。


「だけど、ちょっと待て? 葦舟、お前――――さっき〝消滅した東京の唯一の生存者〟って言ったよな?」


「そうだけど、それがどうかしたの?」

 

 ミサキは怪訝な表情を浮かべた。

 そして、告げるべきかと迷った後――――――



「〝アトミック・ボンバー〟を殲滅した〝首都決戦〟の地、東京での唯一の生存者は――――――伊号マヤなんだよ」


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