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「今見てもらったのが、自衛隊が行った対怪獣殲滅作戦の映像よ」

 

 サングラスをかけた龍驤ナオコが厳しい声音で告げた。航空母艦での訓練を急ぎ引き上げて、〝海上都市新東京〟に戻ってきた〝スターソード〟のメンバーは、休む暇もなく〝ヴァリス〟本部のブリーフィングルームへと移った。


 長机が並んだ部屋の中で、〝スターソード〟の五人は、届いたばかりの自衛隊と怪獣の会敵映像を見た。


「こんな、こんなのって?」

 

 ミライはその映像を見つめながら、愕然と言葉をこぼしてした。

 それは本当に一瞬の出来事であり、一方的な殲滅、いや虐殺だった。


 

 作戦開始の一二○○――


 招集された連合洋艦隊の航空母艦に艦載された、〝戦術核ミサイル〟を積んだ〝戦闘機〟が次々と発進し、旧東京に出現した〝トーキョージュピター〟への核ミサイル攻撃を開始した。ミサイル着弾後、一瞬、目の前で太陽が昇ったような眩しい光に包まれ、遅れてきた爆発音とともに、巨大なキノコ雲が上がった。

 

 しかし次の瞬間、キノコ雲を吹き飛ばし、一瞬で核爆発がもたらした黒い霧を霧散させてしまう程の、すさまじい衝撃が巻き起こった。黒い球体である〝トーキョージュピター〟から、真っ直ぐに延びる〝黒い触手〟のような何かが、戦術核ミサイルを発射した戦闘機に向かって一直線に襲いかかり、その触手を回避する間もなく絡め取ってしまうと、戦闘機は淡い光の中で煙のように消えてしまった。

 

 瞬き一つの間もなく、発進した戦闘機二個中隊――――二十四機が壊滅した。司令部は、発進した戦闘機の反応が全て消えてしまったことと、今まで沈黙していた〝トーキョージュピター〟が動き出したことで、完全に混乱状態に陥った。連合艦隊及び、第一、第二戦車大隊は、戦況を確認する間もなく、〝トーキョージュピター〟に一斉射撃を行い、それが致命的な仇となった。攻撃を受けた〝トーキョージュピター〟は、攻撃を与えた対象に〝黒い触手〟を伸ばし、次から次に展開された兵器群を絡め取っては、淡い白い光の中で煙のように消滅させていった。

 

 そうして、太平洋艦隊及び、第一、第二戦車大隊は全滅。かろうじて生き延びることができたのは、後方に配備されていた護衛艦一隻のみだった。



「見て解るように、東京上空に現れた怪獣、個体名〝トーキョージュピター〟は、攻撃を受けると、自らに攻撃した対象に向けて、ほぼ自動(オート)で反撃を行うと思って間違いないわ。今のところ、旧東京上空から動く様子もなく、今までの怪獣に共通していた、出現後に一番手近な人口密集地を襲撃するという特性も適用されない」

 

 映像を巻き戻したり一時停止をしたりしながら、龍驤ナオコが怪獣について説明をした。


「何です? この黒い触手のようなものは? まるでエレガントではありませんわね?」

 

 ヴィヴィアンは顔を顰めてそう漏らした


「それよりも、戦術核ミサイルで無傷ってのが厄介だね?」

 

 オードリーも厳しい顔つきで出現した怪獣を分析する。


「中央作戦室の分析結果によると、今回の怪獣は―――未知の〝高エネルギー体〟であることが判明したわ」


「未知の〝高エネルギー体〟?」

 

 ミライは間抜けな声で聞きなれない単語を繰り返した。


「そう。つまりエネルギーの塊を、〝VK領域〟によって、無理やりあの形に留めているということ。そうね? つまり卵の黄身を、〝VK領域〟という〝卵の殻〟が守っていると考えれば、まぁ、分かりやすいわね」

 

 ミライはなるほどと思いながら、その黒い卵を真っ直ぐに見つめた。よく見ると、黒い卵の表面は黒一色という訳ではなく、濃い黒や、薄い黒、灰色などが入り混じって、斑模様を描いていた。その模様が、どことなく太陽系の惑星である〝木星〟を思わせた。


「そして、戦術核ミサイルをも防いでいしまう、高出力、高濃度、高密度の――――三高が揃った〝VK領域〟。その内側のエネルギーの正体は、おそらく〝反物質〟による〝対消滅エネルギー〟だと考えられるわ」


「〝反物質〟? 〝対消滅エネルギー〟?」


 ミライはまるで話についていけなくなり、せめて説明されたことだけは覚えておこうと必死になってナオコの言葉を繰り返し、頭の中に叩き込んだ。


「ええ。〝対消滅〟とは――――〝粒子〟と〝反粒子〟が衝突し、〝エネルギー〟ないし〝他の粒子〟に変換される現象のことを指す。そして、それを行うのが〝反物質〟。私たちの住んでいる宇宙には、ほとんど存在しない物質ね。そして、〝反物質〟と〝物質〟が衝突することを〝対消滅〟と呼ぶの」


 物質と反物質がぶつかり合って起こる現象が――――対消滅。

 

 ミライは徐に自分の拳と拳を合わせてみた。


「その際に生まれるエネルギー量はすさまじく膨大。たった〝一グラム〟の〝反物質〟が、物質と衝突して生まれる〝対消滅エネルギー〟の量は、およそ〝百八十兆キロジュール〟。つまり〝TNT爆薬換算約四十三キロトン〟。ちなみに、広島に落された原子爆弾〝リトル・ボーイ〟が記録した爆発力は〝約十五キロトン〟よ。つまり、あの反物質の塊であるあの怪獣に触れられたら、その瞬間に消滅してしまうってことね」


「触れられた瞬間に――――消滅?」


「そうよ。つまりあの〝触手〟は、攻撃されたら、攻撃を返す〝自動砲台〟のようなものだと思えばいいわ。〝反物質〟による〝レーザー砲台〟。それもものすごく高速で、しかも精密なやつね。オードリーの〝スターストライプ〟に近いわね」


「で、対策はあるの?」


 オードリーが尋ねる。


「もちのろんよ。じゃなきゃ、あなたたちをここに呼んだりしない」


「だったら、難しい説明は省いて、それを説明してくださいな」


 ミライと同じく、訳の分からない〝科学講座〟に飽き飽きしていたヴィヴィアンが欠伸混じりに言った。対策があると言った龍驤ナオコの言葉を受けて、ようやく近況を解いたヴィヴィアン。その様子には、戦術指揮官としての龍驤ナオコの手腕を信心から信頼しているという様子が見てとれた。


「じゃあ、ここからは実践講座よ。この〝反物質のレーザー〟はただ一点だけ、オードリーの〝スターストライプ〟の性能とは、根本的に違っている部分がある。それが〝貫通〟という性質を持ち合せていない点よ」


「〝貫通〟しないレーザー?」


 ミライが首を傾げる。


「要するに、触れたものを〝消滅〟させて、そこでおしまいってわけね。簡単な話、何かをぶつけて相殺させてしまえば、こちらに被害はない。もちろん、〝対消滅〟が起こる際のエネルギー量は絶大だから、巻き添えを喰らったらただじゃ済まないけどね」

 

 ナオコは、ここが本題だと指を前に突き出して続けた。


「何故か、この〝反物質のレーザー〟は、消滅のエネルギーを〝爆発〟させて外に広げるんじゃなくて、〝爆縮〟させて内側に留める性質を持っている。だから〝爆心地〟にさえにいなければ、消滅はしない。小さな〝ブラックホール〟みたいなものね。だったら話は簡単、オードリー、あなたの〝スターストライプ〟で全て相殺してしまえばいい」


「ピース・オブ・ケーキ。なんだ、簡単じゃん」


 オードリーは自信満々に言ってのけた。


「しかし、防御の対策は万全でも、殲滅はどうするんです? 延々と打ち合いをやっているわけにもいかないのでしょう? こちらも攻撃を与えなければならないのですし?」


「そこは、ヴィヴィの出番よ。あなたの〝エクスカリバー〟で〝トーキョージュピター〟を攻撃し続けてちょうだい」


「だから、その攻撃がいたちごっこなのではと、申し上げているんですわ? わたくしの華麗なる〝エクスカリバー〟と言えども、回避を前提とした攻撃では、〝トーキョージュピター〟の〝VK領域〟を突破して本体にダメージはあたえられません」


 ヴィヴィアンがぴしゃりと言って続ける。


「そもそも、その反物質の怪獣は生きていて、今まで殲滅した怪獣と同様の攻撃が有効な攻撃になりえるんです? 今見せられた映像のように、分かりませんで出撃して、全滅しましたでは、洒落になりませんし、結局、通用せずに逃げ帰ったんじゃ、エレガントじゃありませんわ」

 

 わがままなお嬢様よろしく、ヴィヴィアンは自分が疑問に思っている点や、納得できない点、そしてはっきりと理解できない点を、ナオコに尋ねた。


「あの怪獣が生きているかどうかは分からない。〝生物〟なのか〝無機物〟なのかは、今のところ不明よ」


「だったら、いくら攻撃を加えても無意味なのでは?」


「それは、ノープロブレムよ。この怪獣〝トーキョージュピター〟はね、〝反撃〟を行うたびに、その〝体積〟が減っているの」


「体積が減っている?」


「ええ、これを見てちょうだい。これが、自衛隊の攻撃を受ける前の〝トーキョージュピター〟。そして、こっちが自衛隊を全滅させた後の〝トーキョージュピター〟。気がついた?」


「一回り以上、小さくなっていますわ」

 

 比較した映像で見ると、それは一目瞭然だった。自衛隊が攻撃を与える前と、自衛隊が全滅した後の〝トーキョージュピター〟では、その大きさがまるで違っていた。

 

 空気が抜けてしぼんでしまったみたいに。


「分析の結果。この反物質体の怪獣は、今蓄えている以上のエネルギーを自らの体内で作り出すことはできないと考えられるわ。だから、〝VK領域〟の中にあるエネルギーを、全て使い切ってしまえば、〝トーキョージュピター〟は空っぽになり、それ以上こちらに反撃を加える手段を失うはず。要するにボンベに入っている量の水しか発射できない。ならば、ボンベを空にしてしまえばいいってことよ」


「それなら、ずいぶんと楽な殲滅になりそうですわね」

 

 ヴィヴィアンもようやく納得がいったように頷いて、白金の髪の毛を撫でた。


「全滅した自衛隊には悪いけれど、勇み足で出撃してくれて助かってところね。何も知らずに攻撃していたらって思うとゾッとするわ。下手したら、こっちが全滅していたわ」

 

 龍驤ナオコが冷たい声音で非情に告げた。


「そんな、こんなに人がたくさん死んだのに?」


 ミライは、ナオコの衝撃的な言葉に表情を歪めて呟いた。


「どうして、わたくしたちの出撃を待たなかったんです? 防衛線だけを張っておけば、こんなことには、それにいくら核兵器があるからって、これじゃあ、あまりにも情けなさすぎます」

 

 ミライの言葉に同調したという訳ではないだろうが、ヴィヴィアンも苛立ちを隠さずに、口惜しげに言った。


「どんな軍にもプライドがあるんだよ。自分たちの国は、自分たちで守っていう、単純だけど当たり前のプライドがね。もちろん自衛隊にだって、それはあるはずだよ」


 軍での生活が長かったオードリーが静かに告げた。


「そんなちっぽけなプライドで全滅して、いったい何になるっていうんです?」


「だけど、上から出撃を命令されたら、それを拒否する権利なんて一兵士には無い。ヴィヴィだって分かっているでしょ?」


「それは、そうですけど――――」


「それに結局のところ、私たちは、まだ世界で信用を得ていないってことなんだよ。今まで私たちが怪獣を殲滅してきた場所の多くは、自分たちの国か、軍が出動できないほどに統治を失った国ばかり。そういう場所だからこそ、私たちを受け入れて歓迎もしてくれた」


「それじゃあ、わたくしたちの存在の意味は何なんです? いったいどれだけの怪獣を殲滅すれば、わたくしたちは認められるのですか?」

 

 オードリーの言葉に反論を返すヴィヴィアンの表情は、とても切迫したもので真に迫っていた。そんなヴィヴィアンを見つめて、ミライは「不思議な人だな?」と思っていた。彼女は自分の存在を認められたいのか、それとも自分たちが蔑にされたことを怒っているのか、はたまたまるで別のことでむきになっているのか、ミライにはそれが分からなかった。それでも、ヴィヴィアンが無残にも散って行った自衛隊の兵士たちに心を痛めていることは容易に見て取れた。


「とにかく――――」

 

 そして、二人の間に割って入るようにナオコが口を開いて続けた。


「少なくない数の犠牲者が出たおかげで、この怪獣への対策を立てることができた。私たちは、その犠牲の上に立って、今回出現した怪獣〝トーキョージュピター〟への殲滅作戦行動を行うことを、肝に銘じないさい」


 厳しい声音で告げられて、少女二人は正面に向き直った。多くの犠牲があったことを改めて認識したオードリーとヴィヴィアンのその表情は、すでに少女のものではなく、戦うものの精悍な顔だった。


「今回の殲滅作戦行動は、トップチーム〝スターソード〟による単独作戦とします。セカンドチーム、サードチーム及び補給チームは、後方の安全圏、航空母艦での支援に徹してもらう。作戦の内容は単純明快、至極簡単よ」

 

 ナオコは映像の出ているスクリーンを指したり、映像を差し替えたりしながら作戦の概要を説明する。


「基本的に前線に出るのは、オードリーとヴィヴィアンの二人だけよ。ヴィヴィアンが〝アタッカー〟となって目標を攻撃。そして〝ディフェンダー〟のオードリーが、目標からの反撃を全て相殺。この連携を繰り返し行ってもらう。サブの〝ディフェンダー〟として、マヤがオードリーの後方にて待機。ハルカとミライは、さらに後方で待機。不測の事態に陥った時に前線に出られるようにしておくこと」


「ちょっと待ってください、このスケベ猿――――いえ、葦舟ミライを出撃させるなんて、正気とは思えません? 死にに出すようなものですわ」


「ヴィヴィアン、あなたの意見は聞いていない。私の命令と作戦内容に従えないのならば、ここにあなたの居場所はない」


「そんなっ、くっ。わ、分かりました。従います」

 

 ヴィヴィアンが立ち上がって行った抗議は、バッサリと却下された。そして彼女は燃えるような碧眼でミライを睨み付けた後――――ぷいっと横を向いて着席した。ミライはあまりの気まずさに、生きた心地がしなかった。

 

 そして龍驤ナオコが最後に告げた。


「いい、みんな? これより〝トーキョージュピター〟への殲滅作戦行動、オペレーション〝バイバイ・ジュピター〟を発令する。作戦決行は三日後。二十九日の午前七時――――○七○○。夜明けと共に開始する。明日の一日は完全休養よ。しっかり鋭気を養って、オフを楽しむこと。だけど、学校にはしっかり来なさいね。さぼりはお仕置きよ」

 

 そうして怪獣殲滅作戦行動、オペレーション〝バイバイ・ジュピター〟が発令された。

 そんな慌ただしい出撃前の緊張の中、ミライは真っ直ぐにヴィヴィアン・インヴィンシブルを見つめて、拳を強く握った。



「アクションを起こさなければ、リアクションは返ってこない」


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