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同時刻――一五○○。
怪獣出現の報告は、日本の総理官邸にも通達されていた。壊滅した〝首都東京〟に変わって、暫定的に首都として役割を果たしている〝神戸〟の地では、自衛隊の派遣がすぐさま決まっていた。東京より西側に怪獣の進行が始まれば、今度こそ日本という国が消滅することは必死であり、何よりも自分たちの身が危ないと分かった内閣、議会、官僚の満場一致をもって、その派遣が決められた。
「あんな化物どもの手を借りなくても、我々の保持している戦力だけで怪獣など殲滅できる」
「その通りです総理、今直ぐにでも自衛隊の派遣を決定しましょう。防衛大臣?」
「はい。ただ今、防衛事務次官及び、統合幕僚長が同席して、怪獣の出現及び、殲滅作戦の会議が開かれて入ります」
総理官邸から繋がった防衛相の戦略室には、防衛事務次官、統合幕僚長、陸海空の幕僚長が全て出席していた。統合幕僚長がホットラインで繋がっている総理官邸に向かって自信を漲らせた言葉を吐く。
「自衛隊二個大隊と連合艦隊をもって、必ずや怪獣殲滅を成功させてみせます。こちらには〝虎の子〟がありますので」
「国連には、こちらから手を回しておく。頼んだぞ」
「かしこまりました」
おそらく長い日本の議会の歴史の中で、党派や政治思想、主義主張の垣根を越えて団結し、内閣や両院の議員、各省庁の官僚、財界までもが手を取り合って一つの決定を下したのは、これが初めだっただろう。それが、たとえどのような決定だったとしても。
☆
僅か数時間で組織された自衛隊による対怪獣殲滅の部隊――――第一、第二戦車大隊、連合艦隊が投入されることとなった。そしてこの決定は〝ヴァリス〟に通達されることはなく、日本政府及び一部の国連加盟国の独断で行われた。その背景には、〝ヴァリス〟主導のもとに締結された大量破壊兵器の使用を禁止する〝京都条約〟があり、これ以上の核の汚染を防ぐことによって、人の住めない国や地域、土地を広げないという条約の大原則があった。
過去、各国は数度の怪獣出現によって自国の軍を維持できなくなり、その受け皿として国連が各国の軍を、〝国連軍〟として統合するという決定が下されていた。その際に自衛隊も国連軍の一部に編入されることとなった。そして、その時すでに国土のほとんどを失っていたアメリカ合衆国の艦隊、ハワイ、ホノルル諸島に司令部を持ち、太平洋及びアジア周辺と中東の海を担当海域としていた〝第五艦隊〟も、国連軍に編入させることとなった。最終的に再編された国連軍の〝連合艦隊〟の司令部は、神戸の防衛相に置かれることとなっていた。
そして編入のごたごたの中で持ち込まれた大量の〝戦術核ミサイル〟が、再編された〝連合洋艦隊〟に眠っていた。
だからこそ、日本政府及び一部の国連加盟国は、〝ヴァリス〟の手を借りることなく、自分たちの手で怪獣を殲滅できるとの認識をもっていた。その認識自体は間違っていなかった。十五年前の〝首都決戦〟の際に、怪獣の殲滅を成功させたのは、首都そのものを吹き飛ばし消滅させる程の核兵器であり、これまでも核兵器が何体もの怪獣を殲滅してきた。
だから今回、それをもって怪獣を殲滅しようと考えるのも無理はなかった。
もともと、汚染された東京の土地にこれ以上汚染が広がったとしても、誰も住むことが適わない焦土なのだからと考えたとしても。
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翌日――一二○○。
自衛隊による核兵器使用の対怪獣殲滅作戦が実行され、その僅か一時間後――――
第一、第二戦車大隊及び、太平洋艦隊は壊滅した。




