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「〝VK領域〟拡大します。標準値を大幅に超えて臨界点を迎えます。怪獣出現まで残り十五秒――――」

 

 ヴァリス本部の作戦司令部中央作戦室。ずらりと並んだモニターの前に座っていたオペレーターの一人、国生ヒトミが、声を上げてカウントダウンを開始した。


「拾、玖、捌、漆、陸」


 中央作戦室正面の巨大なスクリーンに、オペレーターたちがモニターしていた映像と情報が映し出され、すぐさま他の中央作戦室のメンバーに情報が共有される。


「伍、肆、參、貳」


 カウントダウンと共に、中央作戦室のメンバーの緊張が高まっていく。そして、ごくりと唾を飲む音さえ聞こえてきそうな静かさが充満していく。オペレーターの中には怪獣の出現を前にして、どうか、これが嘘であってほしいと両手を組み合わせ、何かに祈りを捧げているものもいた。


「壹、零―――――――――――〝怪獣出現〟しました」


 しかし無常にも怪獣の出現がアナウンスされ、巨大なスクリーンに無機質な赤い文字で――――〝出現〟と表示された。


「場所は、完全封鎖指定区域〟。〝旧東京〟です。映像出ます」


「これは?」


「いったい、これは何なの?」


 中央作戦室がどよめき立った。衛星のカメラによって映しだされた映像には、〝怪獣〟と思えるような物体は映ってはいなかった。その変わり、かつて東京だった大地の上に――――


 ――――〝黒い球体〟が存在していた。


 その突如出現した黒い球体は、それまで東京上空を覆っていた黒い雲が一つに集まり、形や質量を手に入れたようだった。まるで、黒い卵のように。


「これは怪獣なの?〝VK値〟の観測間違いなんじゃないの?」

 

 オペレーターチームのリーダーであり、中央作戦室室長の宝生ヒロミが詳細を確かめる。


「〝VK値〟に間違いはありません。今までの最高値を記録しています。間違いなくあの黒い球体は、〝怪獣〟です」


「それじゃあ、これは怪獣で間違いない?」


「そんなっ? 半年前に出現した怪獣の数十倍以上ですの大きさでよ?」

 

〝PKDインダストリアル〟が開発した、怪獣出現を観測する〝VKメーター〟は、軌道衛星上に打ち上げられた人口衛星に実装されたものであり、約六十基の衛星によって地球上のありとあらゆる場所、どんな位置に怪獣が出現しても、即座に位置情報を観測できるようにその広大な観測網を張り巡らせている。今回観測された怪獣は、旧東京を覆い尽していた黒い霧のような雲が一つに集まり、凝固したような姿形をしており、その直径は約十五キロメートルを誇っている。間違いなく、過去最大の怪獣だった。


「あんな巨大なもの、いったいどうやって殲滅すれば?」

 

 中央作戦室に絶望の声が響き渡る中――――


「中央作戦室に通達します。怪獣出現を司令官室でも確認。誤認及び位置情報の誤差認められず。直ちに警戒警報を発令。司令官室、中央作戦室とのドッキングを開始します」

 

 司令官付きのオペレーター、常盤リンコのアナウンスが中央作戦室に響き渡った。そして中央作戦室後方の無人の空間の上部から、巨大な部屋が下りてきた。〝ヴァリス〟の司令官室は遮蔽してスライドする構造になっており、中央作戦室とドッキングすることによって、全ての管理権限と、全ての通信や火器管制のシステムを司令官室が制御する機能を有していた。


「ドッキング完了。パスワード入力完了。長門イソロクの生態マトリクス認証クリア。管理権限を中央作戦室より譲渡完了。CIC――――オールシステム・オンライン」

 

 中央作戦室とドッキングした司令官室。

 長門イソロクが席から立ち上がった。


「全員、狼狽えるな」

 

 そして、覇気のある低い声でオペレーターチームを一喝する。


「現時刻、七月二十四日、一五○○をもって――――この中央作戦室を総司令室とし、怪獣殲滅行動に移る。ただちに龍驤少佐に連絡を取れ」


「はっ、はいっ。いえ、了解」

 

 国生ヒトミが上ずった声で不慣れな返事する。今回の怪獣出現は、彼女がこの〝ヴァリス〟に所属してから、初めての出現であり、戸惑いや怖れがあったとしても無理はなかった。国生ヒトミは短く切った髪の毛を震わせ、その表情は蒼白としていた。


「これより、レベル5の怪獣警報を発令。旧東京に出現した怪獣を〝未詳〟から、コードネーム〝トーキョージュピターに〟変更する。全職員に通達の後に、速やかに殲滅作戦行動に移行しろ」

 

 長門イソロクは大きく腕を突きだし、手を広げた。

 

 その手の先には、巨大スクリーンに映る〝トーキョージュピター〟の姿があった。

 そして、長門イソロクはその広げた手を握り、〝黒い球体〟を潰すように力を込めた。


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