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――――〝マンハッタン・クイーン・ビー〟


 アメリカ合衆国、ニューヨーク州、ニューヨーク市、マンハッタン区に襲来した――――〝蜂型〟の怪獣。全長は四十メートルほどの中型に位置する怪獣だが、飛行能力を備えた個体であり、対怪獣殲滅において、〝ネクサス〟の優位性である〝空中戦闘機動〟が有効な殲滅方法にならない、非常に危険性をもった怪獣だった。


 個体の外見や生態としては〝オオスズメバチ〟によく似ており、黒と緑の毒々しいストライプ模様をもっている。巨大な複眼は空中戦闘機動の〝ネクサス〟を容易く補足し、剥きだしの大顎はコンクリートのビルを容易に砕く。二対四枚の翅で機敏な飛行をしてみせる姿は、まさに〝女王蜂〟と言っていい――――〝飛行種〟の怪獣。何よりも恐ろしいのは、本来毒針をもっているはずの〝腹部〟から産みだされる〝働き蜂〟である。〝マンハッタン・クイーン・ビー〟と酷似した、三メートルから四メート程の〝個体〟を産みだす、脅威的な繁殖能力である。


〝マンハッタン・クーン・ビー〟の襲来後、その怪獣はマンハッタン区で一番高いビル――――『エンパイア・ステート・ビル』の上で繁殖を開始した。毎分五十匹の速度で産みだされる〝働き蜂〟に、マンハッタン区はあっという間に包み込まれ、〝マンハッタン・クイーン・ビー〟襲来から数時間で百万人を超す死者を出した。〝働き蜂〟は強力な毒針をもっており、普通の人間ならば刺されただけで絶命し、肉体が強化されている〝ネクサス〟といえども数分で死に至る。しかもこの猛毒は強力な酸性の毒であり、コンクリートや鉄を容易に溶かす。


 特殊素材〝タイタニウム〟による、分子配合マトリクスの結晶であり――――現在の科学技術で最も軽く、最も硬いと言われる〝ネクサス・スーツ〟をも、時間をかけてではあるが溶かしてしまう。



「私が援護して道をつくるわ。各員、〝働き蜂〟を確固撃破にしつつ、本体に接敵――――」


 オードリー・エンタープライズの掛け声が、黒い蜂に包まれた都市――――〝マンハッタン〟で響き渡る。ローワー湾沖に停泊した航空母艦から発進したトップチーム〝スターソード〟が、〝マンハッタン・クイーン・ビー〟殲滅のために空を駆け、目標への接敵を試みる。マンハッタンは、ニューヨーク市を流れるハドソン川の中州『マンハッタン島』が大部分を占める地区であり、目標である『エンパイア・ステート・ビル』は、ニューヨークを代表する摩天楼の一つで、その周りを数多くの超高層の建物が群れをなすように聳え立っている。


 航空母艦から発進した〝スターソード〟のメンバーは、ハドソン川の河口から川伝いに、超低空飛行で目標を目指していた。


「先陣は私です。スケベ猿、しっかりついてきなさい」

 

 事前の作戦会議で、目標までのルートと定めた〝チェルシー・ウォーター・サイドパーク〟を見つけて、ヴィヴィアン・インヴィンシブルが水飛沫を上げて飛翔してみせる。彼女は青いドレスを纏ったような優雅な飛行で、公園内を横切って行く。しかしヴィヴィアンのすぐ後ろを飛行する葦舟ミライは、不安定な飛行で、なんとかついていくのが精一杯といった様子だった。


「ミライ、ヴィヴィから離れすぎないで。マヤ、ミライのバックアップをしつつ〝働き蜂〟の攻撃に気をつけて。絶対にミライを無傷で本体までつれていって」


「了解」


 最後尾である殿(しんがり)につき、作戦を取り仕切るオードリーの指示に――――伊号マヤが短く了解の返事をする。灰色のネクサス・スーツ〝橘花(きっか)〟を身に纏った伊号マヤは、ミライのすぐ後ろにつきながらあたりの警戒に務めた。

 

 前方のヴィヴィアンを必死で追っている葦舟ミライは、次から次に頭の中に入ってくる情報や、オードリーの指示を頭の中で理解することだけで精一杯で、了解の返事を返すこともできずにいた。速度、高度、推力、風向き、風速、方位、目標までの距離、当たりの障害物、チーム各員との距離、作戦行動との誤差――それらの情報が、飛行中でも乱れることのない〝ホログラフ映像〟の〝航空計器〟に表示され、視界に映し出されている。

 

 戦闘航空機動をものにしている他のメンバーは、航空計器をオフにして目視による飛行を行っているが、緊急事態や、目標の発見、アンノウンの接近、その他レーダーが危険を感知すると、オートで情報が出るように設定されていた。

 

 航空計器を気にしながらなんとかヴィヴィアンの飛行についていくミライは、背中には対怪獣用の〝アンチマテリアルライフル〟を背負い、いつでも構えられるように、緊張状態を維持していた。

 

 そして次の瞬間、ホログラフの至る所から〝接敵〟を告げる〝緊急警報(エマージェンシー)〟が表示され、警報が鳴り響いた。


「〝働き蜂〟に発見されたみたい。数は、およそ〝三百五十〟――――ヴィヴィは前方、進路の障害になる対象のみ撃破。援護は私が行う。マヤ、あなたはミライを守って」


「言われなくても――――」


「了解」


「ミライ、君は隊列を乱さないように飛行して――アンダースタン?」


「りょっ、了解」


「〝エクスカリバー〟」


〝ソード・ユニット〟を装着したヴィヴィアンが腕を振り、鮮やかな剣戟で〝働き蜂〟を次から次に切断していく。


「一気に行くわ」

 

 ヴィヴィアンが前方のみの敵に的を絞っているのに対して、オードリーの〝スターストライプ〟は、広範囲の敵を薙ぎ払うように一掃する。両手につくりだした砲門の数は八つ。圧倒的な火力で、隊列飛行を行うチームに〝働き蜂〟を寄せ付けず、チームは摩天楼を縫うように飛んで目標の本体―――――〝マンハッタン・クイーン・ビー〟へと距離を詰めて言った。


「本当に次から次へと鬱陶しいですね? まるでエレガントじゃありませんわ。これじゃあ、怪獣殲滅じゃなくて害虫駆除」


「まぁね、怪獣というよりは怪虫だね。だけど、ヴィヴィ、〝働き蜂〟の撃墜ペースが下がってるよ。このままだと、今日も撃墜スコアは私の勝ちだね」


「うるさいですね。わたくしの〝エクスカリバー〟は、脳筋なあなたの能力とは違って、私の能力は華麗で繊細なんです。ですが――――」

 

 ヴィヴィアンは挑発に乗せられたように、切断の能力を限界まで引き伸ばし、今までよりもより大きく、より切れ味のいい剣を空中につくりだした。


「踊りますわよ」


 そして、多彩なマニューバを駆使して剣舞を踊る。まるで剣の竜巻が通ったように、目視で確認できる前方の働き蜂の全てが撃墜されていた。


「お見事。さぁ、どんどん行こう」


「これくらい当たり前です。造作もありませんわ」


 華麗な剣戟と、圧倒的な火力による撃墜競争が激化する中、チームは、ようやく『エンパイア・ステート・ビル』に辿りついた。摩天楼の壁を直線上に駆け上がり、最長部443.2メートル――――かつて世界最大の高さを誇った巨大なビルの先、その頂上に取りついている〝マンハッタン・クイーン・ビー〟を目指した。


「いい、ミライ? 〝働き蜂〟は全て私たちに任せて。君には、一匹たりとも近づけさせない。君はライフルを構えて、引き(トリガー)を引くだけ。簡単なミッションだよ?」


「了解」


「これが終わったら、一緒にプロテインでも飲みましょう」


 オードリーがミライの緊張を解すように声をかけ、ミライはその言葉に答えるようにライフルを構えた。ずっしりと重い、ミライの身長ほどに大きなライフル――――長く巨大な銃身は、まるで大砲のよう。そして、黒光りするボディは息を潜めた獣のように見えた。


「もう直ぐ頂上です。一発で決めなさい――――スケベ猿」


 ヴィヴィアンの声が届くと同時に、摩天楼の上空へと到達した。ヴィヴィアンはミライが空中で停止できる空間を確保するために、両手を水平に広げて回転の剣戟を放つ。オードリーもミライが頂上に到達する直前に追い抜いて、ヴィヴィアンの援護に回った。ミライの右脇にヴィヴィアン、左脇にオードリーがついて、伊号マヤガ全体のバックアップに移る。


 ここまでは、事前の作戦会議の通りだった。


 ライフルを構えたミライがスコープを覗き込み、狙いを定めて〝マンハッタン・クイーン・ビー〟へと向かって行く。


「いけるっ、目標までの道は、オードリーがつくってくれている。このまま速度を上げて――――」


 そして、急いたミライがライフルの射程距離まで詰め寄り、引き金を引こうとし一指に力を込める。


「ミライ、急ぎすぎないで。落ち終いて目標との距離を保って」


  オードリーが功を焦ったミライを引きとどめようとするが――――



 ―――――ギシシシシシシシシアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア



 それよりも早く、〝マンハッタン・クイーン・ビー〟が近づくミライを補足した。そして、二対四枚の翅を大きく振動させて乱気流を産みだした。


「う、うわああああああああああああ」

 

 乱気流に呑み込まれるミライ。まともな飛行を維持できなくなり、紐の切れた凧のように風に流される。


「どうしよう? どうしよう? まずは、姿勢制御システムを作動させる? ダメだ、どうして? バーニヤの故障? なんで体勢が上手く維持できないんだ? このままじゃ墜落する。スラスターの推力を最大にして、違う。そっちじゃない?」


 ミライは風に煽られながら空中で身体をバタつかせるが、まるで溺れる子供のようにみっともない姿を露呈させるだけだった。もがけばもがくほど、深みにはまっていくようだった。


「ミライ、焦らないで? 飛行の制御はスーツが自動でしてくれる。落ち着いて体制を整えれば、問題はないはずよ」


「そんなこと言っている場合じゃありません」

 

 冷静なオードリーを横目に、ヴィヴィアンが最悪の状況を告げる。

 

 今の一瞬で迎撃の手を緩め、ミライと距離のできてしまった三人は、これまでにない数の〝働き蜂〟に囲まれてしまっていた。そして、まだまともな飛行を維持できていないミライに、本体である〝マンハッタン・クイーン・ビー〟が接近していた。

 

 多くの配下たる〝働き蜂〟を引き連れて。


「ミライ、ミライ、聞こえている? とにかくその場から離脱して――――」


「あーもー、鬱陶しいですね。とっとと道を開けなさい」


 オードリーとヴィヴィアンが、能力を最大限に駆使しながらミライの元に駈けつけようとするが、〝働き蜂〟の毒針に貫かれ、そして本体である〝マンハッタン・クイーン・ビー〟の大顎によって噛み砕かれていくミライの姿が――――


 ――――そこにはあった。


「――――――――――っ、あれ?」


 臓物ごと引き抜かれたミライの下半身が、噛み砕かれたスーツの残骸と共に地上に落下していく。

 その後で、首を残した上半身が――――ぐしゃり。



「ミラ―――――――――――――――――――――――――イ?」


 

 その声が届くことともなく、そして、最後の断末魔さえなく――――

 

 

 葦舟ミライの生命反応が消滅した。

 

 ミライの視界の全てが真っ黒に染まった。



 MISSION FAILED

 The END OF A SIMULATION



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