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赤と青の〝英雄〟が大空を駆ける――――
白と赤を基調とした〝ネクサス・スーツ〟を身に纏うオードリー・エンタープライズと、深い青一色の〝ネクサス・スーツを身に纏ったヴィヴィアン・インヴィンシブル〟が、海上で戦闘訓練を行っていた。
カタパルトから射出後、見事なアクロバット飛行を見せたオードリーに対して、先攻するヴィヴィアンは一直線に太陽を目がけて駆け抜けた。して、二人は艦から発射された〝標的〟を追って行く。
彼女たちが追っている標的は、ランダム軌道で空中を飛行する〝機械の的〟だった。そして標的の射出と同時に、航空母艦をエスコートする護衛艦から、〝艦対空ミサイル〟が発射される。
対怪獣を目的とした〝空中戦闘機動〟――――それは怪獣殲滅戦において、あらゆる戦闘状況に対応するための、怪獣への対抗策であり、〝ネクサス・スーツ〟の基本戦術だった。
「まずは、わたくしからやらせていただきます」
〝インメルマンターン〟――ピッチアップによる百八十度ループ、百八十度ロールを順次、あるいは連続的に行うことで、縦方向にUターンする空中戦闘機動の一つを華麗に決め、艦上空で一回転して向きを変えたヴィヴィアン――――
自身が身に纏っている青のネクサス・スーツ〝アヴァロン〟の腰部に装備されている、翼のように鋭利な兵装――〝ソード・ユニット〟を腕に装着して、流れるように振るった。
「切り裂きなさい――〝エクスカリバー〟」
ヴィヴィアンの美しい掛け声とともに、彼女を追跡していたミサイルと、空中を動き回っている標的が一瞬で真っ二つに切り裂かれた。激しい爆発音と共に、次から次へと海の藻屑と化していく。
これが怪獣殲滅数三体、殲滅補佐数四体、ネクサス・ランキング二位のヴィヴィアン・インヴィンシブルの能力――――
――――〝エクスカリバー〟
その基本能力は〝切断〟。ヴィヴィアンの任意の場所に、不可視の剣を作りだし、一瞬のうちに目標を切断する能力。創りだす剣の大きさや、発生させる刃の数はヴィヴィアンの思うが儘であり、自由自在。
切り裂く対象が多ければ多いほど、刃の大きさは小さくなり、一か所に集中させるほど、刃の大きさ切れ味がすさまじくなる。
能力名は、彼女の故郷に伝わる『アーサー伝説』に登場する〝選定の剣――――〝エクスカリバー〟が由来となっている。
「やるわね、ヴィヴィ。次は、私の番っ――――」
オードリーは、ヴィヴィアンの〝エクスカリバー〟が大方の目標を切断し終えたのを確認した後、空中での待機を解いて、自身に向かってくるミサイルを確認した。
そして、両手を大きく広げて〝砲門〟を開いた。砲門とは言っても、巨大な大砲やミサイルが彼女の〝ネクサス・スーツ〟に搭載されているわけではない。それは、彼女にとっての砲門という意味である。
オードリーの広げた両手の周りに、淡い碧色の光が現れる。右手に三つ、左手に三つ――――〝VK領域〟でつくりだした粒子を加速させた、〝陽電子の塊〟。
それが、彼女の〝砲門〟だった。
「ターゲット・ロック―――――――――いっけええええええええ」
その言葉を合図に、両手から陽電子のレーザーが放たれる。自身に向かってくるミサイルた、ヴィヴィアンが撃墜し損ねた標的、そして〝エクスカリバー〟では撃墜できない距離の標的を次々と落していく。
「――――撃墜完了」
オードリーは満足そう頷いて、スーツの上からでも身に着けている赤いマフラーを空で棚引かせた。
これが、怪獣殲滅数五体、殲滅補佐数四体を誇り、ネクサス・ランキングに一位に君臨する、オードリー・エンタープライズの能力――――〝スターストライプ〟
その基本能力は〝レーザー〟。
〝VK領域〟によってつくりだした粒子を、極限まで加速させて打ち出す〝陽電子のレーザー〟。亜光速で打ち出されるレーザーは百発百中を誇り、彼女一人でも大艦隊とも渡り合えるほどの圧倒的な戦力を有していることから――――オードリーは、〝大提督〟の異名をさえ持つ。
オードリーによってつくりだされる粒子は、彼女の身に纏うネクサ・スーツ――――〝ラプター〟を動かす動力源でもあり、他のスーツの何倍もの機動力と、圧倒的な飛行時間を実現する。陽電子の砲門は五十門まで展開可能であり、これは〝星条旗〟の星の数に由来している。そして〝スターストライプ〟とは、星条旗の意味でもある。
「ヴィヴィ、次は大きな〝鴉〟が来るわよ」
「わかってますわ」
「私が足止めするから、ヴィヴィアンが止めを刺して」
「言われなくても」
赤と青の英雄は即座に連携の体勢に入る。そして艦から発進した大型の〝標的〟が三機、二人に目がけて突き進んでくる。
ソビエト連邦の戦闘ヘリコプター『Mi-24/35 Mk.III スーパーハインド』。各国から払い下げになった機体を、訓練用に使用している〝ヴァリス〟――――実際に、ミサイルや機関銃を積んだ兵器が、撃墜の対象となることで生まれる危険性や緊張感が、実際の対怪獣殲滅の場では経験として役に立つことから、このような訓練法が取られている。
自動操縦の『スーパーハインド』は、装備したミサイルを発射し、機関銃を乱射しながら二人の少女を撃墜するべく空を駆ける。そして、三機の『スーパーハインド』を援護するように、護衛艦からの艦砲射撃も加わった。火線のハリネズミが、二人に襲い掛る。
「――――さぁ、わたくしと一緒に踊りなさい」
しかし、そんな迫りくる〝機械の鴉〟を前に――――ヴィヴィアンはまるで恐れることもなく一筋の青い閃光となる。多彩な空中戦闘機動を取りながら、迫りくるミサイルを次から次へと撃退しつつ、標的に突き進んで行く。その華麗で、美しき姿は、青いドレスを身に纏い、舞踏会で優雅にステップを踏むようでさえあった。これが、『アーサー王の』生まれ変わりとも喧伝され、たった一人の騎士団――――〝輪舞の騎士〟の異名を持つ、ヴィヴィアン・インヴィンシブルの空の輪舞にして、最速の空中戦闘機動。
「今日もヴィヴィはご機嫌だね」
ヴィヴィアンの背後を、オードリーのレーザーが高速で抜き去り、『スーパーハンド』への道を繋いでいく。空の各所で巻き起こる、激しい爆発や硝煙によって目の前が黒く染まり、『スーパーハインド』が目標を見失う。その一瞬を逃さず、ヴィヴィアンは三機の間を縫うように飛行した。
そして、両手に装備した二対の〝ソード・ユニット〟から放たれる、不可視の剣戟――――
燃え盛る空を駆ける二人の少女は、真っ二つに切り裂かれて海へ落ちていく鉄くずとなった『スーパーハインド』を余裕の表情で眺めた。
「――――ご苦労様。今日の訓練はこれで終了よ」
二人のヘッドギアに、艦橋の龍驤ナオコから訓練終了の通信が入る。
「ナイス。いい動きだった」
オードリーが撃墜を決めたヴィヴィアンにハイタッチを求める。
「これくらいどうってことありません。当たり前です。だけど、今回もスコアは、あなたのほうが上――――」
「まぁ、能力の相性もあるしね」
「それに、こんな鉄屑をいくら切り刻んだところで無意味です。怪獣の皮膚は鉄よりも硬く、わたくしやあなたの能力でさえ、簡単にはダメージを与えられないのですから」
ヴィヴィアンはハイタッチに応じずに、乱れた髪の毛を直しながらお澄まし顔でそう告げた後、ぷいと背中を向けて帰還の路を辿って行った。
行き場のなくなった手を眺めたオードリーは――――「…………まぁ、いつものことか」と、ヴィヴィアンの後を追った。
「確かに、ヴィヴィの言う通りなんだけどね? でも、何もしないよりはマシというか、訓練でもして体を動かせていいと思うんだけど、こういう所が、私はマッチョなのかな?」
一人呟きながら、オード―リーも艦へと戻っていく。そして、シャワーを浴び終わったら――――「プロテイン飲まなきゃ」と、マッチョなことを考えていた。




