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「――――レベル1〝ユーバー〟?」


「……………………」


 校庭のグランドを走っているミサキが言った。体操着姿で並走しているミライは、がっかりと肩を落としながら頷いた。

 

 現在の授業は体育の長距離走。


 ヴィヴィアン・インヴィンシブルに頬を叩かれた最悪の転入日からは、ちょうど一週間が経っていた。


「ってことは、ほとんど〝無能力〟ってことか?」


「…………そうなんだ。ここ数日、ずっと検査続きで…………血を抜かれたり、電流を流されたりしてたんだけど、それがようやく終わって結果が出たと思ったら、〝レベル1〟の〝ユーバー〟って言われたんだ」


「そりゃ、ご愁傷様…………」


 ミサキはかうように言って、ひらひらと手を振ってみせた。

 

 授業でも習った通り、〝ネクサス〟には、それぞれ特殊な〝能力〟が備わっている――――それぞれの〝能力〟によって〝能力名〟がつけられ、能力の強さによって〝レベル〟分けがされている。レベルの最大は〝7〟であるが、他に類を見ない程の能力や、その〝ネクサス〟だけのオリジナルの能力には、特別な〝能力名〟が与えられる。


 そして、ミライの能力〝ユーバー〟とは、〝超人〟という意味であり――――常人よりも強靭な肉体や身体能力、回復力をもっている〝ネクサス〟のことを指す。しかし他の能力とは違って地味であり、花がないことが否めない。それに加えて能力が〝レベル1〟では、ほとんど普通の人間と変わらなかった。


「だけどベビーフェイス、考えようによってはラッキーだぜ?」


「ラッキーって、何でさ?」


「いいか? レベル1のユーバーなんて、戦場じゃまるで役立たずだ。やることと言ったら、せいぜい後方からの支援か補給、後は整備ぐらいだ」

 

 その言葉に、なおさらミライはがっかりした。


「ってことはだぜ? 殲滅の前線に出なくて済むんだ。死ななくて済むだろう?」


 島風ミサキは当たり前のように言った。


「だけど、それじゃ、せっかく〝ヴァリス〟に来たのに――――」


「なぁ、葦舟、もしかして、お前、〝ヒーロー〟にでもなりたい、なんて思ってるんじゃないだろうな?」

 

 ミサキは細い眼をさらに細めた。


「いいか、ベビーフェイス? 〝ネクサス〟なんて、怪獣殲滅のための使い捨ての〝兵士〟――〝駒〟の一つだ。前線に出れば、ほとんどの奴が戦死する。俺がこの〝ヴァリス〟に来たとき、生徒は今の十倍はいた。それが、今じゃご覧のありさまだ。クラス分けの必要すらなくなっちまったんだ。いいか? 最前線で戦えるのは、オードリーやヴィヴィアンみたいなランキング上位の奴らだけなんだよ。その上位ランカーだって、あっけなく死んじまう――――」


「でも、だからって、ただ後ろの方で見てるだけなんて」

 

 ミライのその言葉に、ミサキは我を忘れたようにミライの胸倉につかみかかった。


「見てるだけじゃねーんだよ。後方支援や、補給だって、立派な任務だ。前線で戦うだけが、戦争じゃねーんだ。いいか? 死んだら何もならねー。何にもならねーんだよ――――」


 ミライは何も言い返すことができずに、ただ呆然としていた。


「はい、そこまで――――」

 

 手の叩く音が聞こえ、二人があたりを見回すと――――体操着姿のオードリーが、直ぐそばに立っていた。そして遠くの方では、他の生徒が二人の様子を見守っていた。


「私ね、男の子同士の喧嘩(ファイト)って大好きなんだけど、一方的なのは嫌いなの。とくに、一方的に自分の感情をぶつけたりするのって。ミサキ、あなたの気持ちはよく分かる」

 

 オードリーは首を横に振った。


「ううん、この場所にあなたの気持ちが分からない子なんていない。だけど、あなたのように卑屈になって、誰かに当たり散らすようなやり方は――――私の正義に反する」


「また……正義かよ? 正義、正義、正義――――」

 

 ミサキは胸倉をつかんでいた手を解いた。

 そして、オードリーを弱々しく睨みつけて叫んだ。


「――――その正義で、いったいどれだけの人を、どれだけの仲間を救えたんだよ?」


 島風ミサキは踵を返した。


「逃げるの?」


「ああ、俺は――――〝逃亡者(エスケーパー)〟だからな」


 そして、どんどん、島風ミサキの背中は小さくなっていった。


「ごめんね、別に悪気があってあんなことになったんじゃないと思う」


 オードリーは困ったように笑って両手を広げてみせた。


「きっと、僕のせいだよ。後方支援や補給のことを、ただ〝後ろで見てるだけ〟なんて言ったから――――」


 ミライは思い出してそう呟いた。


「そうだね。今の島風ミサキは、後方支援及び補給チーム――――〝パラダイス・バード〟のリーダーで、レベル7の〝テレポーター〟だから。そして、かつてのランキング八位」


「ランキング八位? それって、上位ランカーなんじゃ?」


「そうだよ。だけど今は、ただの〝逃亡者〟って、自分で思い込んでる。誰も、そんなこと思っていないのにね」



 オードリーは、もう一度だけ呟いた――――


 ――――――――――〝逃亡者〟と。

 


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