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流血の王   作者: 東上尊
1/1

プロローグ

 

 戦乱の時代。

 多くの城が焼かれ、多くの人が死んだ。 

 エルドラース2世は、国を焼き払い奪うことによって領土を広げ続けていた。

 敗戦国の王族は男子であれば即刻死刑、女子であれば奴隷へと落とされる。


 エルドラース王にはすでに10人以上の王女や王妃が奴隷として召しだされていた。容姿が格別良いものを選別し

 情婦の館などと呼ばれる屋敷に囚われているのだ。力で奪い、力で屈服させる。それがエルドラース王であった。

 

 エルドラース王のもう一つの特徴としては、国の王である御自ら戰場に出向き戦うことが知られている。

 王位継承権第3位であった身の上から戦場に出向くことも多くなり、気づけば万騎兵を授かるほどの実力者となって行った。

 その頃のエルドラース王国はまだ領土も少なく、強国と呼ばれる国々に囲まれている小国であった。

 しかし、エルドラース1世の死後始まった王位争いでエルドラース2世、現国王が王位を継承すると腐敗貴族を弾圧し。軍事強化を行った。

 その中でもエルドラースの領土拡大の功労者と呼べる者達がいる。それはエルドラース王国最大の武力として世に名をしらしめる者達。

 後にエルドラース五将軍と呼ばれる将軍たち5人の万騎兵長パラディンたちである。どこからともなく連れてきた彼らは他の万騎兵を

 寄せ付けない武力を持ち、他国の万騎兵3大隊がよってかかってもかなわない化け物じみた連中であった。彼らの名前が本当の意味で恐れられるようになるのは

 二度目の国攻めであった。五将軍がひとつの地に集結し、一斉に攻撃を開始したのだ。5万以上の兵力差を物ともせず、彼らは国を僅か3日で落としてしまう。

 その出来事をきっかけにエルドラース王国の五将軍を知らぬものはいなくなった。

 

 そして現在、エルドラース王国は勢力を拡大しまた一つ、大きな国を滅ぼしていた。

 かつて豊富な果実と水産業で栄えた王国、エストニア。その国の一隅、雲が下に見え高さのある山の断崖で、俺、ルシウス・フォーン・クライスは

 滅び行く国の末路を遠目に眺めていた。 

 

 


 

「こんなに綺麗な月が輝く夜に、まるで地獄のような風景だね」

 


 濃い煙の間を薄い月明かりが指す。

 黙々と燃え続ける王城はまるで暗闇に残された火種のように輝いている。

 黒い灰と夜の暗闇を思わせぬ程に輝きを放つ街。肌寒いはずの夜風は暖かく、まるで火がすべてを飲み込み食らっているかのようだ。


 

「人はすごいね。あんなに脆弱なのに、あんなに弱いのに、世界を滅ぼしてしまう力を持っている」

「君こそ人を滅ぼしてしまうほどの力を持っているじゃないか」

 

 と、俺の隣で色白の肌と黄金の髪とメガネをかけた青年が言った。

 彼の名前はルフォン、俺の初めての相手だ。

 無論、初めてと言うのは血の盟約を交わした初めての人間ということだ。

 俺は、この世界で数少ない吸血鬼、最上種、王の血を受け継ぐ者。

 眷属であれば誰もがひれ伏し敬意を示す存在。


「俺一人が強くても戦争には負ける。戦争の基本は数だ。その後にようやく戦略や個の武力が関わってくる。それに僕はそんなに僕人身を評価しているわけではないんだよ」

「なぜそんなのことを思うのかね~最上種の君に誰が勝てると言うんだい?」

「その最上種の両親を殺したのは人間だよ? それはつまり、俺だって両親のように殺されてしまうかもしれないということだ」

「あの人間は後に魔王となった異端者でしょう? あんな化け物そう簡単に生まれるわけがない。今現在この世界であの魔王に近い力を持っている

 存在などいやしないよ」


 首を左右に降って否定するルフォン。


「まぁーそうだが……しかし」

「ルシウスはもう少し自分の力を信じたほうがいいぞ? 本気を出せばあの五将軍だってかる~くやれるはずなんだからさ」

「いや、かる~くなんて言うが結構疲れそうだぞ? あの五人は、遠目から前に見たがかなりやばそうな連中だった」

「やっぱそうですか? 俺も昔戦って見ましたが、腕一本軽く持って行かれました。俺も負けじと片目を奪ってやりましたけどね~」

「お前……いつの間にそんなことをしてたんだよ……」

「一年位前に二三日いなかった事あったでしょう? その時にちょっとね」

 

 そういえばそんな時期もあったな。

 どういうわけか腕を失って再生治療を受けていた。その時は遊びが過ぎたっと言っていたが、その時か。

 

「お前が腕を失うって事は相当な腕だったんだろう?」

「はい、かなりやばいやつでしたよ。夜じゃなかったら俺死んでましたね」

「そうか……お前はそんな連中を僕が倒せると思っているわけだな?」

「もちろん。貴方の力はまったく底が知れませんからね~」

 

 俺はそんなルフォンに苦笑いを浮かべた。


「俺に期待しすぎだ」

「いえいえ、正当な評価ですよ」

「まぁいい、この話は終わりだ。どうやら偵察に向かわせたアルドラーンが戻ってきたようだ」

「そのようですね~何やら知らぬ者の匂いも一生にこちらに近づいているようですが」

「あぁ、これは人間の匂いだ」

 

 微かに人の血の匂いが感じられた。吸血鬼は数キロの先の匂いも嗅ぎ分けることができた。

 それに音にも敏感で耳をすませば近くにいる者の心臓の音も聞くことができる。

 吸血鬼は五感に優れているのだ。


「ルシウス、君への捧げ物かもよ?」

「偵察任務中にそんな無駄な事はしないだろう。息のあった人間でも見つけて助けたのであろう」


 さぞつまらさそうにルフォンは言う。


「でしょうね~あぁーつまらぬ」

 

 まもなくして紅蓮の髪の毛をした若い男が目の前に現れる。その手には若い桃色の髪をした少女が抱えられていた。

 

「アルドラーン、その少女はなんだ?」

 

 アルドラーンはひざまずくと頭を下げた。


「燃えていた王城に取り残されていた者でございます。隠された通路に逃げ込もうとした時兵士に襲われ辱めを受けようとしていたので

 私が助けた所存、おそらくこの国の王族関係者かと思われます。よろしければ我らの城にて保護したくここに連れてきた所存であります」

 

 アルドラーンの言うとおりその少女は王族の誰かだろう。身につけたドレスや手入れされた美しい髪の毛がその風格を漂わせている。

 意識は失っているようだが、見るところ大きな怪我もない。


「いいだろう。許す」

「感謝します。陛下」

「で、どうだった? この子の他に生存者は」

「私が出向いた時にはすでに城は落ちておりました。大勢の兵士が城に流れ込み、男は殺され、女は連れていかれました。

 最上階にて私はこの少女を保護し、後は……」

 

 首を左右に振ってアルドラーンは口を閉ざした。


「よい、わかった。これより我らはこの地を離れ、我が地へと戻る」

 

 その日、エストニアと呼ばれた国は滅び、エルドラース王国の支配下に落ちた。

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