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「あら、おばあさまのお部屋は見終わったの?」

 朱理さんはお仏壇の前に座っていた。

 目尻に、泣きはらした跡がある。

「日向様にね、お怒りを鎮めて下さるようにお願いしたんだけどね……」

「その日向様について聞きたいことがあるのですが……」

 一瞬驚いた顔をした朱理さんは、しかしすぐに微笑み、僕を畳の部屋に案内した。

「もう時間がない。率直に聞きます。日向様はどのように亡くなられたのですか?」

「日向様は……あくまで聞いた話だけど、ものすごい高熱を出して、亡くなられたそうよ。さながら平家物語の清盛のごとく……」

 やはり……日向は知夏と同じようにして死んだのだろう。

 下がらない原因不明の高熱、戦時中の民衆からの怨念。

 知夏が浴びているのは日向の怨念ではない。当時の民衆の怨念だ。

 しかし……わからないことがある。

 なぜ語辺 日向は、怨念を受けたのか?

 呪いや守護をかけるには、強い念と真名が必要不可欠。

 民衆はどうやって日向に呪をかけた……?

「あの……日向様の真名ってわかりますか?」

 朱理さんは悲しそうに首を横に振る。

「歴代の語辺家当主の真名帳があるけど……ごめんなさい、語辺家当主以外に見せてはいけない決まりで……」

「ですよね……」

 そりゃそうだ。他人に真名を見せるやつはいない。

「色々ありがとうございました。そうだ……白黒の折り紙鶴を知りませんでしたか?」

「折り鶴……?たしか……ちぃの部屋に……」

 手がかりの中、最後の一つがやっと引っかかった。



     卍



 鶴は机の上に飾られていた。

 羽にシワができている。知夏は見たのだろう、自分の真名を。

「ごめんな、語辺」

 僕は語辺の意志にのっとって、中に書かれた文字を読ん――


そうか。


 そういうことか。

 だから篭の鳥だったんだ。

 だから救得は守りたかったんだ。

 だから彼女は呪を受けたんだ。

 わかったことがある。

 語辺 日向と語辺 知夏、おそらくこの二人の真名は同じ――


 日向


 彼女は真名をそのまま名付けられた、当時の語辺家への怨みをそらすためのスケープ・ゴートだったのだ。





     卍



 祖母に言われたことがある。

 救う手立てを手に入れることは、救える人が増えることであると同時に、救える人と救えない人がはっきり分かれるということでもある。

 一度力を使えば、それは一生ついて回り、救えない人を見て苦しむことになるのだ、と。

 それが嫌なら力なんて欲するな。それでもいいのなら求めろ、と。

 言霊は人を傷つけるだけではない。守り、救い、癒すこともできる。

 ただ、祖母はもう一つ言った。

 助けられる力がそこにあって、助けられる者がそこにいて、そこから逃げ出したとき、それは、その後悔と苦悩は一生ついて回る、と。

 僕の祖母の部屋、押し入れの最奥部にしまってある木箱を開く。

 入っていたのは、一本の筆と手紙。

 手紙にはただ一言、『姓へ。それでいい』とだけ書かれていた。

 僕は、自分と向き合わねばならない。自分の意志で踏み越えたのだと、これからも力を使い続けるのだと認めなければいけない。

 これから語辺がするように。僕よりもずっと辛い思いをしなければならない彼女のために。






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