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欠けるとか、抜けるとか…人は足りないものに魅了される。
感情の欠落した人間、重みの無い少女、人間性の失われた――
失われた、損なわれた、欠けた、抜けた、貧する、落ちた、不完全、未完成……。
足りないものは、時に風流を醸し出し、感情移入を誘い、時に心を揺らがせる。
満月より三日月。
完璧より不足。
日本人ならではとも言える、美しき欠乏。
しかし、いくら詭弁を並べ立てたところで所詮、不足は不足。未完成は未完成、不完全は不完全でしかない。
要するに、慈しみ、愛でられるのはあくまで第三者。
欠落に関して言えることは、第三者にとっての美麗なる見解が絶対に当事者の自覚と交わらない、ということだ。
第三者は当事者の苦労を知らない、とは言わない。
しかし、第三者は当事者の苦悩を理解してはいない。
当事者以外、つまり僕たちが、少なからず辻褄合わせのされた物語の主人公よろしく、一方的で一方通行な優しさを浴びせること、それこそが意図せぬ偽善だと、僕は、経験者は語るのである。