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狂人への手紙を・・・  作者: アザとー
狂人への手紙を・・・
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拝啓、アル中ドノ

アザとーお得意の甘デレを期待した人、回れ右!

本当にただ、アザとーの身近な人物を描いただけです。

なお、本文中にやや不適切な表現がまま見られるのはアザとー家でのスラング的な使用であり、現実的な言葉とはやや意味合いが違うことを、あらかじめお断りしておきます。

拝啓 秋深まり冬の声を朝晩に聞く季節、アル中ドノにおかれましては酒量にますますの拍車がかかっているようで何よりでございます。

 酔夢の中のことであり、なおかつあなた様にとっては些少なことだとは思いますが、今度は何をやらかしたんですか? オヤジから泣きの入った電話がありました。

 詳細など聞きたくはありません。ただ一つだけ訊ねたいことがあります。

 三十も過ぎて老親を叩きのめすのはいかな心地のするものなのか、ぜひともわれわれ凡庸な人間にも判り易く解釈いただければ、それ以上は……


 書きかけた便箋をべりっとはがしたマコトは、それを真っ二つに裂いた。紙片をさらに重ねては細かに裂いてゆく。

 こんな手紙など本当に出すつもりはない。精神安定剤代わりに書きなぐっただけだ。

 傍らに置いた携帯が鳴る。取れば少し沈んだ末弟の声。

『親父の話……』

「ああ、聞いたよ」

 どう話を続けようとしてもため息しか出ない。それは電話の向こうも同じこと、スピーカー越しに不快なため息が吹き込まれた。

 彼らを悩ませているのは両親と共に実家で暮らしている中弟の破綻的な性格だ。

 財布の中に金があれば十万の単位をたった一晩で使い果たす。おまけに酩酊して暴れては警察にご厄介になるという生活を、もう何年も繰り返している。

 今回は警察こそ呼ばなかったものの、既に定年も過ぎた父親に殴りかかったらしい。

「どうする、見舞いに行くか?」

『いや、俺は店を休むわけには行かないし、兄ちゃんだって……』

 二人とも実家を離れた身、仕事も家庭もある。新幹線で二時間は物理的にも遠いが、精神的にはもっと遠く感じる。

『それに母さんが許さないだろうよ、そんなことは』

 それもまた二人の悩みの種であった。

 プライドが高く、身内にまで妙な見栄を張る彼女は今回の件を二人に知らせるつもりは無いのだろう。現に、前歯を折られた不明瞭な声で電話をかけてきたのは父親だ。それもこっそりと……

「確かに、俺たちに電話したのがバレたらオヤジは怒られるんだろうな」

『もう素人には無理だ。専門の、病院にでも入れたほうがいいんじゃないのか?』

「そうだな、十分にアル中だ。治療を受けることが出来るレベルだろう」

 往々にして酒飲みというのは飲むために言い訳をするものだ。有名な『酒飲みの歌』のように花見だ、入学式だ、雨が降るから……何かと正当な理由をつけては飲みたがる。その中で一番多く使われ、なおかつ効果的なのは「むしゃくしゃするから酒でも飲まないとやっていられない」だ。

 マコト自身、酒は好きだ。だからその心境も解らなくは無いが、中弟はその度を越えている。だれかれの見境なしに議論を吹っかけてはちょっとした反論に引っかかり、激昂して家を飛び出す。

 曰く「あんなにものを知らない馬鹿を相手にするとストレスが溜まる。飲まなきゃやっていられない」だそうだ。

 そんな言い訳を自分自身に言い聞かせてまで飲まなくてはならない精神状態が、真っ当であろうはずが無いだろう。

「それでも、二~三日酒を一滴も飲まない日があるからアル中ではないんだとよ」

『本人が言っているのか?』

「いや、お袋だ」

 これもまたおかしな話だ。アル中だからといって24時間のみ続けることなど出来ない。かならず飲むことを我慢する時間というものがあって、その長短に個人差があるのは当然だろう。

『お袋もおかしいよな』

「ああ、それは否定しない」

 息子に暴力を振るわれ、怯える毎日を過ごしているのは他でもない、彼女なのだ。

『そんなにいい母親ぶりたいかねえ?』

「ちょっと違うな。お前、DVって解るか?」

『ああ、なるほど』

 暴力癖のあるカレシと別れられないなど、よくある話だ。

『でも、あれってオトコとオンナの話じゃねえか。普段暴力を振るうヤツがころっと甘い言葉を囁いたりするから、愛情が深いゆえの行為だと勘違いしてしまうっていう……それに、そういうときのセックスってやたらと燃えるから依存してしまうんだろ?』

「DVの本質はそこじゃない。意識的にしろ、無意識的にしろ、あれは一種の洗脳だ」

 毎日暴力で肉体的に痛めつけられ、怯えて神経をすり減らす日々は『極限状態』といえるだろう。そうして弱りきったところに与えられる『飴』はどれほどに甘いことか……

 そうやって依存を刷り込まれた被害者は「私がいないとこの人はだめなんだ」と思い込むようになる。実は自分こそが加虐者無しではいられないほどの依存に陥っていることすら知らずに……

「もちろん、俺の素人考えでしかない。だが母さんは明らかにおかしい。」

『ああ、ヒキコモリがちらしいな』

「だから……不人情だと思うだろうが長いこと実家には帰っていない。俺も子供達だけは守ってやらなくちゃならないからな」

『俺のところは子供がいなくて良かったよ』

「最後に実家に行ったのって、いつだ?」

『三年前かな? でもそのときもホテルを取って、家には泊まらなかった。俺は兄ちゃんには縁を切るって、ずっぱりと言ってあるからな』

「きっと俺たちは、世界一の親不孝者だろうな」

『仕方ないさ。あの兄ちゃんに関わったら、本気で人生つぶされる』

「それが解ってるのはこの世で俺とお前の二人きりだけだ」

『まあ、そのうち飲もう。兄ちゃんの愚痴をつまみにさ』

「アル中をつまみにするとか、お前も相当に悪食だな」

 空しい笑い声を交わして、マコトは電話を切った。


これ、ジャンルは何にすればいいんですかね?

一応『その他』にはしてあるけど、『文学』?

う~ん、おこがましい!

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