episode 2 日向 夕陽
こんにちは。日向夕陽です。名前が矛盾してると良く言われます。
今日は入学式です。
校長先生の長い話を聞きなが隣に居る友人たちを眺めて時間を潰しているところです。
まず私の右側。
この女の子みたいな顔立ちの幼い少年は青山光昭、通称あおです。熱心に校長先生の話を聞いているこの子が私より成績が低くてこの高校にギリギリで受かったなんて、本当に世は末ですね。
その彼を挟んで向かい側にいるのは彼の幼なじみの萩村隼人、通称はやとです。金髪に染めた髪をワックスで逆立てている、言わば不良の真似をしている彼でも案外優しいとこもあります。今はパーカーのフードを被って寝息をたてていますが、本人は多分バレていないとでも思っているんですね。ちなみに成績は私より少し下です。
最後に私の左側、ポーッと天井を見上げている私の幼なじみ、クール男の白川宏樹、通称ひろき。顔だけはかっこいいから女子に良くモテます。バレンタインのときなんてチョコレートが持って帰れないからって食べきれなかったのは他の男子にあげてました。乙女の気持ちなんて考えたことないんでしょうね。ひろきも私より成績は少し下です。
「―――諸君たちのこれからの活躍に――」
そうこうしているうちに入学式が終わってしまいました。今からクラス発表があるみたいなので、みんな体育館を出て行きます。
「あの校長の話なげー・・・」
「はやとは寝てただけでしょ。そのまま目を覚まさなかったらどうしようかとわくわくしてたのに」
「んだとっ!」
「まぁまぁ落ち着きなさい」
はやとがひろきに掴みかかろうとしていたので慌てて止めに入ります。なんだかこのポジションが定着してしまったのが少し不満です。
「ほ、ほらっ!掲示板あそこみたいですよっ」
そんな私たちを見て慌てているあおを見ていると可愛いと思ってしまう私がいます。本当に女の子みたいです。
あおの指差す方向を見ると、たくさんの人垣が築かれていました。
「うひゃー、ありゃすげーな」
「そうだね、はやとの頭には負けるけど」
「どういう意味だ!?」
「アホらしいってことだよ」
「ちょっと、いい加減にしなさいっ!」
入学式終わった直後なのにすごく疲れました。この二人を止めるには生半可な体力じゃ話になりません。
「どうします?待ちますか?」
苦笑いしながら提案してくるあお。自分では止められないと自覚しているのでしょう、目でごめんなさいと言っているように見えます。
「んー、いや、奥の手を使おう」
「奥の手?」
一体なんだろう?少なからず嫌予感がするのは相手がひろきだからだろうか。
「ゆうひ行ってきて」
「嫌よっ!ていうかなんで私!?」
「えーっと・・・やる気の差かな?」
「こんなことでやる気でないわよっ!!っていうかなんで疑問系!?」
凄く疲れる。
澄ました顔で毒づくのでこちらの体力が根こそぎもっていかれるような疲労が沸き上がってきました。
「仕方ないな、じゃあ奥の手第二弾」
「まだあるの!?」
さっきから私しかつっこんでいません。他の二人に目で助けをこうと、はやとは視線を逸らし、あおは涙目で頭を下げてきます。
そんな私の願いを神は受け取ったのか、ひろきがはやとに視線を向けました。
「じゃあはやとが行ってきて」
「へっ!?俺!?」
いきなり指名されたはやとは素っ頓狂な声を上げました。私は先程のお返しとばかりにざまーみろ、と舌を出します。
「ほら早く行ってきてよ」
「嫌だよっ!自分で行けっ!!」
「よく考えてみてよはやと」
いきなりはやとの肩を掴み、シリアスな声で囁きかけるひろき。これには私もドキドキしてしまいます。
「な、なんだよ」
「あそこにはたくさんの人、もっと言えば女子がいるんだよ?」
「――ッ!!」
激しく同様するはやと。そんななおとに甘い誘惑を囁き続ける。
「あそこに行けば触ろうが、ぶつかってそれから知り合うが思いのまま。けどここにいればそのチャンスを潰すことになる。はやとはそれでいいの?」
白々しい。そう思ったが口にはしない。
「はやとはそれでも男なの?」
(あんたも男でしょ!)
トドメとばかりに言い放つひろき。なんだか銃で撃たれたような効果音が聞こえた気がしたけど気のせいかな?
するといきなりはやとが「ふふふふ」、と陰鬱な笑い声をあげだした。
「そうだな。ここでやらなきゃ男じゃねぇ。俺のバラ色ロードは目の前だ〜!!」
「意味わかんないよはやと。ほら、行ってらっしゃい」
ひろきに背中を押されると「待ってろよ美少女〜!!!」と叫びながら人垣に飛び込んでいった。
「アホだな」
「アホね」
「な、なおと君・・・」
あおだけが心配そうにしているけど、多分頭を心配しているんだと思う。可哀想なはやと。
それから数分後、何故か暗いオーラを纏ったはやとがトボトボと帰ってきた。
「ど、どうしたの?」
こういうときは真っ先に心配するあお。躊躇いがちに聞いてみると乾いた笑い声を上げながらはやとが口を開いた。
「・・・かわいい子を見つけたんだよ。それでぶつかって大丈夫ですか?って聞いたんだよ」
「それで?」
絶対面白がっているひろきが催促する。私も頬が緩んでいるのがわかる。
「それでさ、手を伸ばしたら・・・」
ごくん、と唾を飲む音が聞こえた。多分あおだろう。
「はたかれて、『触らないでよナリヤン』って」
「結論を言うと?」
「貶されました・・・」
ぷっ。も、もう無理。
「ぷっ。はははは」
「笑うなってゆうひっ!!ひろきも何腹抱えてうずくまってやがる!!」
「は、はやと君。あまり無謀なことはしないほうが・・・」
「どういう意味だ、あお!?」
良心で言っているのだろうけど、まったくフォローになってない。
それがまた可笑しくて数秒私は笑い続けた。