建設的な自傷行為
こちらのタイトル、内容で気分を害する方がいらっしゃったら申しわけございません。
ただ、こちらは最後まで暗いままバッドエンドではありませんので、ご安心ください。
今日、鳩のフンが制服にかかった。
これまでの人生で、こんな不幸は一度も起きたことがなかったから「よしっ」と一度ガッツポーズする。
偶々それを見ていた通りがかりのOLのお姉さんは、思いっきりしわを寄せ変態を見るような目で去って行った。そんなに足早に逃げて行かないでも、「貴女を追いかけたりしませんよー」なんてことは、言わない方が利口だろう。下手なことを言って、本当に警察に通報されたらたまったものではない。
昨日は、たまたま靴の中に小さな棘のようなものが入っていたらしく、親指から血が出ていた。一昨日なんかは、ズボンのチャックがあいているのを電車の中で発見して赤っ恥をかいた。
時々、さすがにそれは勘弁してくれと思ったりすることもあるが、自分に不幸が降りかかるたび俺はある種の達成感を覚えている。俺が怪我をしたり痛い目に遭ったりするたび、徐々に救える人間がいる。これもすべて無駄ではないのだと思えば、いっそ良くやったと自分を褒めてやりたい気持ちにすらなる。
意気揚々という感じで、高校の門をくぐる。
もちろん、周囲からはぎょっとした目で見られたりもしたが、今日は寄り道していつにもまして時間に余裕がない。みんな教室へと急ぐのに夢中で、名前も知らない通りすがりの俺へ声をかけてくる人間なんてありはしなかった。
「よう」
「はよっ、遅かったな……って、お前今度は朝から鳥のフンつけられたのかよ!」
「まぁな」
「あーあ。確か、この前に暑いって脱いだまま部室に忘れて行ったパーカーあったろ?あれでも着て来いよ」
「んー?だけど、これから行ったんじゃあ、一限目に間に合わねぇよ」
「つっても、次の授業は別棟の教室で遠いし、次は英語の小テストだろ?とりに行く時間ねぇぞ?」
「あーそういや、今日がレポートの期限だって忘れてた」
「おい。あれって各自研究して、その結果をまとめる奴だから、写すことも出来ねぇじゃん」
「……やっちまったな」
「ばか、他人事のように言ってないで、もう少し慌てなさいよ」
後ろからポカりと頭を殴られて、こんな事をするのは一人しかいないと振り返る。
振り返った先には、予想した通り一つ年上の幼馴染がいた。長いポニーテールが背中で揺れて、少しつりあがり気味の目がこちらを見上げていた。こいつは、とうに俺の方が身長をぬかしているというのに、いつまでもこうして年下扱いをしてくる。どうして違う学年のこいつがいるのかと聞いたら、たまたま隣の教室で授業があるのだという。
「はいっ、お財布」
「えっ、お前財布まで忘れてたの?」
「あー、そう。定期のなかに多少入っているから大丈夫だと思って、気にしてなかった」
「だから、ちょっとは慌てなさいってば。お母さんが、今日は珍しくコンビニでレポート用紙買うって早く出たのに、財布忘れていったって慌ててたのよ」
「お前、なにやってんだよ。そもそも、レポート用紙すら買ってなかったのかよ……」
「……どうも、ありがとな」
「いいえー」
「お前、優しい彼女がいて幸せだなっ!」
「そんなんじゃねぇよ」
友人に向けた否定の言葉は、なぜか歩き去った彼女の背中に向かっていた。
鳥にフンをつけられた時や、今日が期限のレポートを忘れたと気付いた時よりよっぽど深いため息が零れ落ちた。
その日は、もう散々だった。
どんなに頑張っても思い通りにいかないし、むしろ狙いとは全く異なる方に進む。まったく勉強していなかった英語小テストは、先生の都合で先延ばしになった。たまたま忘れていた授業の資料集は、試験が間近だというのに出番がなく終わった。レポートだって、あまりに提出率が悪くて、もう一週間期限が伸びることとなった。こんなにいいことが続くと気になることがあり、教室の窓からおそるおそるグラウンドを窺って後悔した。
年上の女子生徒たちの体育風景なんて、本来だったら嬉しいはずなのに、グラウンドの端にみなれたポニーテールを見つけて青ざめる。転びでもしたのだろう。幼馴染は、痛そうにすらっとしたその足を水場で洗っていた。よくよく目を凝らすと、何をやったのか白い足に紅い色が散っている。こんな、体育に力を入れているわけでもない学校で、どうしてそんな怪我が出来るのか。年齢の違う幼なじみの珍しい恰好に喜ぶ余裕もなく、とっさにその光景から目をそらした。
カタカタ震えだす自分の手を抑え、何とかホームルームを終えた教室から飛び出した。
サクサクと歩くたびに枯葉が音を立てるのが少し苦手で、可能な限り避けて通る。
秋も終盤に差し掛かった時期にこれをするのは大変なんだが、どうも自分の足で葉を踏む感覚が苦手なのだ。植物とはいえ、元々は生きていたもので。何より、乾いたようなあの音に、瀕死の生き物をわざわざ踏んで歩いているような気持になって居た堪れない。
考えすぎだと言われるし、「間違った方向に格好つけるなよ」なんて、見当違いの言葉をもらったこともある。これは別に優しさをアピールして女の子にモテようとしているのではなく、ただただ苦手なのだからしょうがないだろうと反論したい。
俺からすれば、これは高所恐怖症や閉所恐怖症なんかの軽いバージョンで、なおかつ季節限定というだけの感覚なのだ。苦手なものを無理に食べ嘔吐する人のように、自分の意志ではどうしようもないのだから、間違った見解を押し付けないでほしい。思い起こしてみれば、幼馴染のあいつと小学生の頃に下校していて、そんな話をした記憶がある。あの時は、猛スピードで自転車が枯葉を踏んづけていくのがあまりに嫌で、そんな話をしたんだった。あいつは、別に共感なんてしてくれなかったけれど、「ふーん、よくわかんないけど、今の自転車はちょっと嫌だったね」なんて言って、特に馬鹿にすることもなかったと唐突に思い出した。
つらつらそんな事を考えながら歩いていたら、向かいから来たカップルにぶつかりそうになって慌てて避ける。こちらは慌てているというのに、相手は話に夢中でこちらの様子に気付いた様子もなくて、謝って損をした気分になる。
「もうっ、そんなこと言って、人の言うこと聞いてないのはいつもそっちじゃない」
「えー?違うだろ。俺の方が、何時も言い負かされているし」
「絶対、違うから。そっちは何も言わず、勝手に決めつけてるだけじゃない!」
「あーそうですね。ごめん、俺が悪かった」
「何、その適当な謝り方!」
まるで、ついこの間きいたような会話で、思わずどきりとした。
嗚呼、こんな風に感傷に浸っている場合ではないと、止まっていた足を進める。ちらりと振り返ったカップルたちは、気づけば先ほどの言い争いも忘れたように、仲良さ気に腕を組んでいた。
俺はそんな姿を見て、普通のカップルとはこんなものなのかと消化しきれない思いを覚えた。
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週が明けて、バイトしたり友達と遊んだりしたけれど気分は一向に晴れなかった。
早くしなければと、気ばかりが焦る。俺には特別な使命があり、それにはタイムリミットがある。そのくそったれな使命は、早く果たさなければ一生後悔することになる。それが分かっているのに、なかなかこれまでの自分のやり方は手ぬるかったようで、結果は芳しくない。
ここいらでそろそろ、本気で事を起こさないとまずい。
被害はどんどん拡大しているし、命に係わるのも時間の問題だ。あいつを救うには、それしか手がないのだと思えば、選択の余地はない。こんな奇天烈な状況、友達にも相談できない。
気づけば俺は、授業の終わった夕焼けのさす裁縫室で、一人取り残されていた。
今日一日、どう過ごしていたのかよく覚えていない。徐々に濃くなる茜色は、普段だったら何とも思わないのに、言い知れぬ不安を胸に湧き起こさせる。
「…………」
目の前にあるミシン針を見つめ、これはなかなかの凶器になりそうだと考えを巡らした。
何せ、そろそろ本格的に行動を起こさなければ、手遅れになりそうで恐ろしいのだ。彼女が辛そうな表情を浮かべるたびに、早く早くと気が急いてしょうがない。
……もう、『いつか取り返しがつかない事になるのではないか』と怯えながら過ごすのは、我慢の限界だ。最近では、良く眠れない日々が続いており、頭もうまく回らなくなってきた。
「俺が……どうにか、しなきゃ」
少しずつ、震える手を針に近づける。
そんな時、突然背後から話しかけられて、肩が思いきり跳ねた。
「―――やだ、眠り姫じゃないんだから、ミシンで指何て刺さないでよね」
確実に、指が縫い付けられるわよと彼女から言われ、骨や爪まで関係なくダカダカと縫われる様を想像して自身がガタガタと震えた。いくら針を見つめていたからと言っても、そんなことまで考えていなかった。ちょっと血が出る様しか浮かべていなかったのに、途端にスプラッタ映像が浮かんだ。
「な、なんて恐ろしいことを言うんだお前は!」
「いや、やけに熱いまなざしをミシンに送っているから、血迷わないように注意しただけよ」
「注意の仕方が、絶望的に間違ってるっ」
彼女にはそういったが、ほんの少しの気の迷いなど一瞬で吹き飛ぶような破壊力があった。何せ、こちらは気が急いて藁にもすがるような心持なのだ。なんだってしてやると思っていた「昨日の晩の自分はどこに行ったのだ」と、弱気になった己を叱責する。
こいつには、うすうす俺の行動の意味を気づかれていた。
以前に問い詰められたこともあるのだが、「怪しい人間に騙されてるだけじゃないっ!」なんて本気にとらえられなかった。
「俺が……不幸になれば、」
「なに、まだそんなおとぎ話みたいなこと信じてるの?」
呆れたようにため息交じりに吐かれた台詞は、どうも胸にいたくて眼差しをきつくする。
何か言い返してやろうと思ったけれど、口を開くより先に言葉をかけられ黙り込む。
「大体、あんたが不幸になる分だけの幸福って、どんなジンクスよ」
「……」
『運命の使者』だとか名乗った存在は、俺が不幸になった分だけ彼女に幸福が訪れると言っていた。俺にちょっと棘がささっただけなら、雨の日に車に水をひっかけられないだとか。俺がお気に入りのちょっとお高いジーパンを駄目にしたら、彼女は普段なら高くて手の届かない化粧品のサンプルをもらっただとか。
質は違えど、「信頼と実績があるでしょう?」と笑った運命の使者殿の言葉を否定する気にはならなかった。確かに、俺の不幸に対する彼女の幸福は脊髄反射並みだったし、俺の辛さや悲しみと同じくらいの量だけの幸福が起こっていた。聞けば、あいつと一緒にいた時に起こった『事故』も、もともと俺が死ぬ予定だったのだという。「それを、無理やり運命を君たちが捻じ曲げちゃったから、こっちは焦っているんだよねぇ」なんて言っていた時は、「ふざけるなっ」なんて怒鳴り返した。
けれど、あの男が言ったことに現実味が出れば出るほど「どうするかは君次第だよ」なんてにやけた面が目によみがえる。黒くて長いローブを羽織った男は、かろうじて声と微かに覗く口元で性別とおおよその年齢が分かるのみで情報はゼロだ。
あの日も、気づけば下校途中の俺の前に現れて消えた。
我ながら、あんな不審者を信じるなんて頭がおかしくなったのではないかと思ってしまうけれど、これ以上耐えられそうにない。
「俺は……お前に借りがあるから」
「もう!あんたのせいじゃないって言っているのに、まだこんな怪我気にしてるの?普通に動く分には問題ないし、大丈夫よ」
「っだけど!」
「悪いのは猛スピードできた車の方だし、あんたは下手をすれば死んでたかもしれないんだから、これくらいで済んでラッキーだったと思わなきゃ」
「……っ」
今から一年前、下校中に暴走自動車と接触なりそうになりこいつを巻き込んだ。
バスケをしていて、期待の新人だなんて一年の頃から持て囃されていたのに。自転車で二人乗りしていた俺は、車を避けきれずに後ろに乗せていたこいつに怪我をさせてしまったのだ。こいつは「スカートだから歩いて帰る」なんて言ったのに、バイトの時間が迫っていた俺は、「わざわざ跨がなくても、横向きに乗ればいいだろ」と説き伏せ半ば無理やりこいつを後ろに乗せた。
その結果、自転車をこいでいた俺が軽傷で、バスケをしているこいつが足首を痛めて部活をやめざるを得なかった。なんて神様は残酷なんだろうと思いもしたけれど、それ以上にくそったれなのは自分自身だろうと、グダグダ悩むのはもうやめた。
―――本当のことを言えば、『運命の使者』と名乗った存在が、どんなものでもよかったのだ。
単なる貧乏神であろうと、無慈悲できまぐれな人ならず者であろうと。俺にとっての関心ごとは、相手の言うことを聞いていれば「彼女が幸せになる」という一点のみだった。
「だって、だって……お前にどうやって、償えばいいのか分からないんだっ」
「あんなこと、もう気にしなくてもいいのに。最近は、自転車にすら乗っていないんでしょう?」
「気にしないなんて……そんな訳に、行くかよっ!」
彼女は、馬鹿をやった俺のせいで怪我をした。
そんな彼女が今苦しんでいるのに、何もできないのかと絶望していた俺にとってこの事は希望の光のように思えた。どんなに苦しんだとしても、こいつを助けたい……。いや、俺自身が、この罪悪感から逃れたかったのかもしれない。
バスケ部の連中は、みんな冷たいまなざしで俺を見るのに、当人であるこいつだけは、責めるようなことを口にした事すらないのだから。
「第一、私が人を不幸に落としてまで自分が幸せになりたがり、へらへらしている人間だと思っているの?それって、だいぶ失礼な話だと思うけれど」
「―――ごめん」
たしかに、彼女の言うことももっともなのだが、そこは上手く俺が彼女の前から姿を隠せばよいと安易に考えていた。
彼女の将来を、俺がぶち壊したのだ。特に夢も就きたい職もない俺のかわりに、彼女が苦しむだなんて、どうすればいいのか分からなくて夢を見ては悪夢にうなされる。俺が死ねばよかっただなんてことは到底思えないが、少なくとも怪我をするのは俺で良かった。……いや、俺が良かった。
「お前は何にも悪くないのにっ」
「あー、もう!うるさいうるさいっ。私は、あの時あんたが死んだ方がよっぽど嫌だったんだから、しょうがないじゃない」
「何言って……」
「あの時、私はわざと転んだのよ!」
思いもかけない言葉に、目を見開く。
どうして彼女がそんな事をしたのか、理由が全く分からなかった。第一、あの時は本当に一瞬の出来事だったから、そんなことが本当に出来たのかも疑わしい。いくら運動神経が良いとはいえ、あの状況でとっさに車を避けるなんてできる訳がないだろう言おうとしたところで、思いもかけない人物が現れた。
「―――あぁーあ、本当にそういうの困るんだよね。内緒だって言ったのになぁ」
「何よ。貴方だって、私が言うこと聞けば『彼には手を出さない』なんて言っていたのに、約束を守らなかったでしょう?『運命の使者』さん」
「あー、バレちゃった?」
「なんだよ、どういうことだよ。なんでお前が、『運命の使者』と顔見知りなんだよ!」
「このローブ男は、最初に私の前に来てあんたをかばったら、私の将来を駄目にするぞって脅しに来たのよ」
「いやだなぁ、僕はただちょーっと大人しくしていてくれないかと、交渉しに来ただけじゃないか」
「そのせいでひと一人の命が脅かされるなら、立派な脅しになるのよ」
「ど、どういうことだよっ、ちゃんと分かるように説明しろって!」
混乱のあまり思わず叫んだ俺に、彼女は憎たらしいほど冷静な声で説明してくれた。
どうやら、元々彼女は小学生のころに自転車との接触事故により死ぬ運命だったらしい。それなのに、たまたま自転車に引かれる直前で俺が話しかけたことにより、予定外に助かった。それならばと、俺が高校に上がってから事故死するシナリオに書き換えたところ、今度は子どもの頃とは逆のことが起こってしまった。
「まったく、二回も三回も運命を変えてしまうなんて、君たちには困ったもんだよ」
「そもそも、運命を狂わせたから、もう一人の命を奪うなんてことしようとすること自体が間違っているのよ。人間、そんな簡単に諦めつかないし、幼馴染を事故死させるから『邪魔するな』なんて冗談じゃない」
「……確かに」
「ましてや、一度は命を救ってくれた恩人だなんて聞かされて、放っておくわけないじゃない」
彼女の言葉が、とんでもなく正論に聞こえてしまう。
何が悲しくて、わざわざ大事な幼馴染を見捨てなければならないのか。俺だってこんな事を言われたら、必死に助けようとするだろう。彼女に事情を聞かされて、ほんの少し心が軽くなった。
「あーあ、もう僕には手におえないから、二人とも仲良く幸福と不幸を分け合っていけばいいよ。どうせ、邪魔したってうまくいきそうにないしさ」
「何だそれ。そんな道があるなら、最初っから言っとけよ!」
「いやいや、人間は欲深いから、どうせ自分だけ助かりたがるだろうと思ったのに、当てが外れたんだ」
「……なんか、とんでもなく馬鹿にされたわね」
「……もういい。疲れた」
「あれぇー、困らされているのはこっちなはずなのになぁ」
ぽりぽりと頬を掻く姿は、いやに人間臭くて逆に違和感を覚える。
どうも目の前の存在は、普通とは程遠い存在に思えてならないのだ。
「とりあえず、こいつの事を助けてくれた件に関しては、感謝しと」
「まぁ、そうね。私もその件に関しては、お礼を言ってもいいわ」
「うーん、ことごとく君たちは、こちらの予想を裏切ってくれるよね。まさか、罵られはしても感謝されるとは、想像もしてなかったよ」
「罵られてもしょうがないことをしていたって、自覚はあったのね」
幼なじみの嫌味に負けることもなく、『運命の使者』はへらりと笑って見せた。
それからあいつは「まぁ、頑張ってねぇー」なんて言いながら帰って行った。扉が閉じた瞬間に、今後はどうすればいいのか聞こうと追いかけたが、曲がり角などないはずなのに忽然と姿は消えていた。確か初めて会った時も似たようなことがあり、あんな奇天烈な言葉も信じてしまったのだと思い出す。
「消えた……」
「まぁ、元々自分の用事がおわればとっとといなくなっていたし、また用事ができれば勝手に来るでしょう」
「そんなもんか」
「そんなもんよ」
なんだか、これまでの切迫感が一気になくなり気が抜けてしまった。
飄々とした感じで、この幼馴染はずっとあんなインパクトの絶大な存在との交渉を黙っていたのだから恐れ入る。昔っから何かと叶わない面の多かった奴だが、まさかこんな所でまで上手だったのかと驚かされる。
結局、自分の辛さなんて自分で背負うしかないし、運も天任せという事なのだろう。現在の状況で、どう動くかが大事になってくるのだ。
「……とりあえず、これからはお前が怪我したり、不運に見舞われないように見張っておくことにする」
「うーん、そんなこと言ったら、一生張り付いてなきゃダメそうね。お互いにいい歳して独り身だったら、相手に困らないって面で言えば、悪くないのかしら」
「えっ……」
意味深に微笑んだ幼なじみは、それから次の言葉を紡ぐことはなく。
やっぱり、こいつにはかなわないのかと肩を落とした。
お付き合いいただき、有難うございました。
もしよろしければ。『こんな夜は~』も投稿しておりますので、合わせてお付き合いくださると嬉しいです。
次話は、とある事情から恋人と別れる決意をした女性の話です。




