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ツマにもなりゃしない小噺集  作者: 麻戸 槊來
互いの想いを推しはかる羊
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毒薬  後編

久しぶりの投稿ですが、ちょっと長いので前、後編に分けてます!


婚姻関係を結んでから数か月が経過し、そろそろ王妃という座にも慣れ始めてきた。夫婦のプライベートルームで一人、蝋燭の明かりと同じくらいのかすかな期待を抱いたまま報告書を開く。


いまだ自分の息のかかったものに妹たちを探させてはいるものの、消息がつかめることも亡骸が発見されることもない状況が続いている。何度目かになる「進展なし」という報告に落胆の息を吐くと、仕事から帰っていた夫はうんざりした様子で持っていた報告書を取り上げた。


「あら、おかえりなさい」


「いつまでそのように、喪に服しているつもりですか」


内容を読むまでは、半信半疑だったのだろう。目を走らせるたびに険しくなるしわを見つめ、これを見るのも何度目だろうかと頭の端で考える。そうでもしなければ、決まって口論に発展してしまうのだ。ゆらゆら揺れる蝋燭の明かりが、彼の感情を表しているようだった。


「……貴方は仮にも一国の王なのですから、もう少し言葉に気を付けてください」


死んでなんかないと言ってやりたいけれど、言い争うのも馬鹿らしくて、感情を押し殺した声で相手を責めた。

夫は普段私にやさしいし人当たりもよいのだけれど、こと妹の話になると機嫌を損ねる。他人からすれば政略結婚を嫌がったわがままなお姫様かもしれないけれど、私にとっては不慮の事故に見舞われたかわいそうな妹でしかないのだ。


もしも、本当に政略結婚が嫌で逃げ出したのだとしても、ここまでしなければならないほど思いつめていたというのなら、いっそ変わってあげればよかったかもしれないとまで考え始めていた。―――それほど、彼女の不在は大きな痛手となっていた。


「それを言うなら貴女も王族として、そろそろ前を向いてはいかがです」


いい加減にしろと言いかねない口調は、いやに気に障ってしまう。

本当は、私だってわかっているのだ。これだけ探して消息すらつかめないということは、相手がそれだけ本気で隠れようとしているという意思表示であり。もしもそんな考えを起こしたのだとしても、到底妹だけでそんな芸当ができるはずがないことなんてわかっている。


それでも、自分がほのかな想いを抱いていた近衛騎士と知らない間に恋仲になっていた……または、人生をかけて協力するほどの関係になっていたなんて信じたくはなかった。何せ、主人である私より妹を選んだのだ。彼の気持ちなんて、火を見るより明らかだろう。


どうしても、認めたくなかったことを指摘されて、我慢してきた思いが思わずこみあげてくる。


「私は所詮、王族という配役をいただいた役者でしかありません。舞台を考えるのも創るのも他者がすること。せいぜい、与えられた配役にうように動かせていただきますわ」


皮肉も込めて、微笑みを浮かべてみせた。

私が王族という立場にいるのは、生まれた落ちた場所がたまたま此処であっただけだし、王妃という座に落ち着いたのも運命のいたずらでしかないと考えている。

そして、夫が望んだ玉座ですらも、与えられた単なる『称号』でしかないのだと思い知ればいい。願わくば、たとえ彼が妹に裏切られたように感じているのだとしても、一向に心配する様子をみせないことを刹那でもいいから悔いてほしい。



私はいくら夫に恋心を抱いていないとしても、結婚した今は戦友のような関係にならなれるかもしれないと考え始めていた。もともと夫はとても穏やかで優しく、妹と違って扱いにくいと言われていた私へ対しても、変わらず丁寧に接してくれている。だからこそ、いくら夫が私に優しくしてくれていても、双子の妹をないがしろにされているように感じてしまう今は、素直になることが出来ないでいた。


「―――ディセントラは、まだあの男のことを想っているのか」


夫の口から洩れた獣のような低いうなり声が、言葉なのだと気付くのに一瞬を要した。

どうして、妹にすら打ち明けなかった気持ちを知っているのかということや、わかっていたからあんな態度をとっていたのかという驚きに包まれていた私は、何も言葉を返すことが出来ないでいた。



それを真実だったから言葉が出ないのだと勘違いした夫は、さらに驚くべきことをまくし立てる。どうやら、妹たちは本当に結ばれ、今は隣国の田舎で穏やかに過ごしているらしい。その場所というのも、夏場は険しい山をいくつも越えなければたどり着けない場所で絶好の隠れ場所なのだという。

奇しくもあの時は夏で、冬であれば凍った湖の上を進めるのに、肝心の氷は姿すらない。実際の光景を目の当たりにしたことがない私だと、船で行けばよいのではないかと思うのだけれど、船が通るには浅瀬があったり、流木が行く手を妨げることでうまく進めないのだという。


そのため、巨大な湖を避けるにはだいぶ遠回りをしなきゃいけない地形となり、往復も困難だと聞き、あの妹が進める訳がないだろうと端から除外していた場所だった。



―――ふいに、見たこともない湖面の近くを必死に進む二人の姿が目に浮かんだ。汗をにじませ、手に手をとり微笑みながら先を急ぐさまは、豪華な調度品に囲まれているより輝いてみえた。


そんな己の妄執にくらりとめまいを覚え、思わず椅子へ手をついた。

夫が来るまで座っていたのに、知らぬ間に立ち上がっていたようだ。己の鼓動がうるさく感じる。


「じゃ……あ、あの子たちは生きているの?」


「えぇ、残念ながら」


ひょうひょうと冷酷かつ恐ろしいことを言い放つ男に、これまでにない殺意を覚えて鋭くにらんだ。この男は、妹たちの行方を知っていながら黙っていただけではなく、彼女たちを侮辱するようなことを口にしたのだ。姿を消してからずっと心配し探していた私には、到底許せることではない。


「何てことを!いくらアマリリスを愛していたのだとしてもっ、あの子たちを逃がすのに苦労したのだとしても、そこまで憎まなくてもいいでしょうっ!」


「貴女は、何をおっしゃっているのです?」


「この期に及んで、まだとぼけるつもりなのっ」


呆けた顔で小首をかしげていたかと思えば、刹那の間にその目は普段と異なる業火の炎に染まっていた。


「……貴女が、名を偽ったりするから悪いのです」


突然向けられた憎しみともとれる感情に、思わず息をのんだ。前々から、妹や初めて会った時の話をするといらだった様子を見せる夫だったが、こんなにもはっきりとした負の感情を向けられるのは初めてだ。しかし、私だって身に覚えのないことで責められるいわれはない。


「何のこと?」


「貴女と隣立って未来を迎えるために、地獄のような戦場に身を投じたのに……。宝石のごとく大切に胸へしまいこんでいた名が、別人のものなど冗談じゃない」


怒っていることは確かに伝わってくるというのに、その理由がわからない。

忌々しくてたまらないといった様子で口にされた言葉に、心当たりはなかった。


「何を言って……」


「嗚呼、そうですね。貴女様にとってたまたま利用したその辺の騎士のことなど、記憶にすら残っていないのでしょう」


自嘲気味に笑うさますら、怒りを隠せてはいない。

何を言われているのかわからないのに、まっすぐに見据えてくる瞳にどくりと鼓動が悲鳴を上げた。何せ、妹と違って私はさまざまな悪戯をして、無理を通してきた。周辺にいる使用人を困らせるなんて日常茶飯事だったし、ちょっとしたおふざけのつもりで二度と顔を合わせなくなった者もいる。


最近でこそ、だいぶ落ち着いてそんなことはしなくなったけれど、心当たりなんて上げだしたらきりがない。すべて思い出そうとしたら、短い虫の一生など簡単に費えてしまうだろう。



瞳を泳がせ、目まぐるしく思考を働かせる私に焦れたのか、吐き捨てるように言葉を発せられて肩を震わす。


「ではっ、介抱され大空へ飛び立った小鳥の代わりに、心を奪われた哀れな騎士とでもいえば……思い出していただけますかな?」


ところどころ、語気が強くなるのを無理やり抑え込むようにして握られたこぶしは、その力を示すかのようにぶるぶると震えていた。ともすればそのこぶしが私の身に襲いかかるのではないかと恐ろしくて、固く握られたそこから目をそらすことが出来ないでいた。




何時も守ってくれる近衛騎士は、夫婦の時間である深夜にまで近くに控えていない。

王族とはいえ、プライバシーを守るためにある程度距離を置いているのだ。大声で助けを求めればすぐに駆けつけてくれるだろうけど、注視した青筋の浮かんだこぶしからは、赤い血が流れてきて声すらあげられない。『英雄』である夫に過度な護衛は必要ないと思われていたが、……じゃあ、その英雄に傷つけられそうな今はどうすればいいのだろう。


きっと、私がこぶしを握ったところで傷つけることすら難しいだろうに、あの腕にはどれだけの力が秘められているのか計り知れない。あんなものを力任せに向けられたら、簡単に私は命を落とすだろうと、鈍った頭で考える。怯えているのに気付いたのかもしれない。まるで子どもの機嫌を取るかのように、猫なで声で話しかけてきた。


「嗚呼、すみません。怯えさせるつもりはなかったのですが、あまりに私の気持ちを姫様が無視するので声が大きくなってしまいました」


「あなった、は……あの時の?」


確か記憶が正しければ、あれは我が国と貿易国の戦いが激しくなる少し前のことだった。相手が欲を出したのか、今までの三倍近い金額をふっかけてきたため、父や民たちの怒りがピークに達して戦いにまで発展したのだ。


あの時ばかりはさすがに私も、日々色濃くなる戦いの様子に怯えていた。そんな中、まさか自身が治療した小鳥を空に返したいからと、訓練にいそしむ騎士たちを護衛としてよびよせるなんて我がままできなかった。あの小鳥は特別翼が美しかったから、ほんの出来心で捕えようとして、傷つけてしまったという負い目があり何としても空へと返したかった。


……だから、とても戦力になるとは思えない通りすがりの騎士を捕まえて、立ち入るなと言われていた庭まで小鳥を逃がしに行ったのだ。あいにく自分の近衛騎士はお父様に呼び出されて席を外しており、当時の私はそれが最良だと信じて疑っていなかった。まさかそれが、こんな結果を導き出すとは思いもしなかった。


「ようやく……ようやく思い出していただけましたか、我が君」


感無量だという様子で膝をつき、そっと私の両手を握る。

恭しい様子はまるで神に祈る信者のようだというのに、醸し出す空気は神聖さとは真逆を行く。固く握られていた手は、いまだ彼の血で汚れている。ぬるりとした感触を伝えてくる液体も、恐ろしいものとしか認識できない。


「戦火に包まれるこの国で、小鳥をやさしく介抱する貴女はまるで、私の目には女神のように映りました。そして、名を教えて頂いた栄誉は戦場に赴く私に光を与え、何としても貴女を……ひいてはこの国を守るのだと決意させられたのです。―――それなのに」


再び瞳のなかにどろりとしたものがうごめくのを見つけ、びくりと手を引こうとしたけれどうまくいかない。どうにか彼との距離を開けられないかと身をよじるが、かかとが音を鳴らすだけで反対に引き寄せられてしまった。


「死に物狂いで戦い、この国へ勝利を与えた褒賞は深い絶望感でしたっ!」


身を割くような叫びは、びりびりと痛いほど肌を刺激する。

それはまるで、彼がこれまでみてきた戦場という地獄を集約したかのような、深く暗い嘆きだった。何故、高々私のことくらいでそのように嘆くのか理解できないでいた。


「どうしてっ、どうしてですか!なぜ貴女はあの時に、偽りの名を告げたのですかっ」


いっそ、違うと否定してしまいたかった。

あれは単なる懺悔の気持ちから起こした気まぐれで、本当にやさしいのはいつも妹だった。彼女は自分が不利な状況に立たされても、笑って人助けするような子だったから、何時も比べられるたびに窮屈な思いをしていた。


「もしもあの時に本当の名を知ることが出来ていたら、まっすぐに貴女の元まで私はたどり着くことが出来たというのに」


勘違いも甚だしい。たとえ彼に本当の名を告げていたとしても、周囲に「心優しいのはどちらか」と問うていれば、間違いなくアマリリスと言葉が返ってきたことだろう。それだけ私たちの性格は違っていたし、自分でもあの子の方がよっぽど人間として優れていることなんてわかりきっていた。


「貴女が、あの近衛騎士に心奪われていることは気づいていました。……だから、わざとあの男と彼女が近づくように仕向け、ようやく目の前から消すことが出来たというのにっ。貴女は一向に私のことを見ようとはしない!」


あまりに夫が哀れに思え、涙が一筋零れ落ちた。

その一粒が呼び水となり、どんどんあふれて止まらない。彼はとんでもなく優しい人で、勤勉な努力家だというのに……どうしてこんなにも歪んだ気持ちを抱えてしまったのだろう。いくらきっかけが悪くとも、夫婦としてそれなりにかかわってきた日々は、幸せと言って差し支えのないものだった。



胸に残るしこりと言えば、最愛の妹であるアマリリスが消えた事と、未消化なままの恋心ぐらいなものだった。ましてや、わざわざ選ぶほど夫も妹を気に入っていたのだと思っていたから、こんな意固地で優しさも可愛げもない女が相手で申し訳ないとすら思っていたというのに……。


真実は、不思議なほど恋に狂った男の暴走と、国や民を捨ててまで愛を選んだ妹夫婦という何ともあべこべな話だった。


「もう……怒ればいいのか、嘆けばいいのかすら分からないわ」


いつまでこの人は、私を仮初の花嫁として扱うつもりなのだろう。

結婚してからそれなりに経過しているというのに、まるで私の近衛騎士のように他人行儀な接し方をし、対等な立場に立てた試しがない。それでいて、ひとたび彼の怒りを買えば萎縮して呼吸すら危うくなるのだから、これで本当の夫婦と言えるのかと問われれば自信がない。


「勝手に一人で決めて、勝手な思い込みから行動して……」


「嗚呼、ディセントラ。許してください。私は玉座を抱き、百の敵にも臆しない英雄王などと呼ばれているくせに、貴女の気持ちを得ることが出来ず狂ってしまったのです」


自己弁護と責任の押しつけとも取れる言葉に、眉を寄せ頬をぬぐう。

確かにきっかけは私だったかもしれないけれど、こんなにも私たちの関係がゆがんでしまったのは、何もこちらだけのせいじゃないはずだ。


「……自分が狂っていることを、人のせいにしないでちょうだい」


「すみません」


すぐに謝って見せた彼は、本当に玉座へ座る者と同一人物なのだろうか?

自信にあふれ、威厳のある姿からは想像できないことなのに、考えてみれば私の前ではこれが常だった。だから、こちらは格好いい夫の姿なんて早々見ることがないし、家臣たちになめられないよう政務には極力顔を出さないようにしていた。



何せ、自分の妻一人黙らすことが出来ないなんてうわさが流れてしまえば、大変だ。彼には父以上に、この国をうまくまとめられる素質があるのだから、頑張ってもらわなくては。


「これだけは確認させてもらうわ」


何処か怯えた様子すらのぞかせる彼の瞳を見据えながら、ゆっくりとその頬へ手を添えた。


「私の半身は、元気でいるのね?」


「……はい」


「貴女の『妹は』、元気です」と、微かに不服そうに口にしたそこには、自惚れてもいいのなら嫉妬が混じっていたと思う。私の手についた血が、彼の頬を赤く染める。


「アマリリスは、好きな人と幸せにやっている?」


「はい」


「近いうちに会える?」


矢継ぎ早に重ねた質問に、彼は一瞬口ごもった。

それでも至近距離から、逃げは許さないといった強い意志を持ち問いかけると、渋々といった顔でうなずいて見せる。


「仰せのままに」


その言葉に満足した私は、今度こそにんまりと笑って見せる。

まさかそんな反応を返すとは思っていなかったのだろう。夫はどこか呆けた様子で、私の名前を呼んでくる。


「何かしら、『あなた』?」


「ま、だ……私を、夫と呼んでくれるのですか?」


どう答えたものかと、少し悩んで空を仰ぐ。

確かに彼の行為も発言も許しがたいし、どれだけ私が心配したのかと文句を言いたい気持ちはある。けれど、妹たちが無事だったことや、案外私はこの人に愛されていたのだということで、怒りよりも先に安堵が浮かぶ。


「あなたは、すべてが明るみに出たら離縁するつもりでしたの?」


「まさか!そんなっ……そんな、つもりはありません、が」


どうにも煮え切らないようすで目を泳がすのは、彼が反省しているからだと信じたい。

さぁ、これからどうしたものかと思考を巡らせながら、何か言わなければ始まらないだろうとおもむろに口を開いた。


「私は―――」


そんな一音が落とされた刹那、ぴんっと空気が張りつめたのを感じた。

全神経を耳へ集中させていると、明らかにわかるその表情は、「待て」を食らった犬のようにも、罪状を言い渡される罪びとのようにも見える。切望と絶望……それから期待のまじった何とも言えない表情を受けて、どうしてか私の背筋をぞくりとしたものが撫でていく。


「私は、あなたを許すつもりなんてありません」


さっと青ざめた顔色をみとめ、今度こそ唇に笑みを刻む。

本当に傷ついたし、悩んだ。これは、一生分に匹敵するのではないかという程の心労をかけられたし、妹……ひいては私たち家族ですらも笑いものにされた『屈辱』は忘れていない。


「いくら私が最初に不誠実な態度をとったのだとしても、妹たちをそそのかして、我々王族を辱めたことに変わりはないんですもの」


……そうでしょう?っと、音もなく問えば、ただでさえ悪かった顔色がとうとう人形のように不健康なものへとなっていく。普段は貴婦人にすら羨まれる血色をしているのに、唇は紫色になり戦慄いているようだ。


「や、やはり……あ、貴女様は、別れるっと、おっしゃいますか?」


戦場では、鬼神に敵なしと言われ。外交の腕も誉めそやされているはずの夫は、何の策略も見えない言葉を投げかけてくる。元来、私は気が強くて、人にへつらい従うのを苦手としてきた。それでも、妻という立場や妹のことを思って、結婚以来しおらしく振舞ってきたというのに。

まさか相手のほうが、分が悪く隠し事をしているなんて思ってもいなかった。微かに私の中で、形勢が逆転する音が聞こえた。


「いいえ?まさかそんな事するつもりは、御座いませんよ」


夫がした事にはいろいろ気に入らない点もあるけれど、彼の代わりとなる存在を今さら探すのも大変そうだし。これまでのように清楚な妻として我慢しないでもいいのなら、それに越したことはない。



―――私は、ぼんやりとした妹とは違うということを、その身をもって知ればいい。

可愛くも愚かな私の半身を利用し、おこがましくもこの私を得ようとしたことを、一生をかけて後悔させてあげよう。


「ねぇ。頑張って二人でこの国を守っていきましょうね、モンクシュッド?」


歴代で最も多くの功績をあげた賢王。そんな称号が欲しければ、いくらでもくれてあげよう。ただ私の望んだとおりに、この国を繁栄させ、意に沿うてくれさえすればいい。


「っ貴女様の御心のままに」


煮え切らず失礼だと思っていた夫は、とことん愉快な男だったようだ。

自分がどんな女に誓いを立てたのか知らないモンクシュッドは、最後まで私を神聖な者のように崇めていた。




モンクシュッドの別名はトリカブトだったりします…(笑)


次話は、記憶をなくした奥さんと旦那さんのお話です。

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