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ツマにもなりゃしない小噺集  作者: 麻戸 槊來
素直さを忘れた馬
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団結する不良

……あと数分が、間に合いませんでした。

久しぶりに暗い雰囲気がないとは思いますが、下調べが不充分かもしれません。ご了承ください。また、この話はフィクションです。


最初に、全話が確認できるようあらすじページを作りましたので、よろしければご活用ください。


俺らの間ではネイキッドが主流で、格好いいオリジナルの単車を作ることに日々力を尽くしている。ふかすときの世で言うシナリに向いているのは旧車であるため、己が目指す形を得るには相当労力をかけているのだと、理解してくれる人間は少ない。


ようやく手に入れた単車を改造するのみならず、自分好みの低音を醸し出すには、相応の努力が必要となる。なかには盗みを働く輩もいるようだが、うちの人間にそんな奴は存在しない。


自らの力で手に入れて、自分の手で自分好みに仕立てるから価値があるのだというのは総長の教えだ。バイトをはじめ金を稼ぐのはなかなか骨が折れるが、うちの『紅風隊』の中でもそれを実際に行っている人間が多くいるから腐らずにいれた。金髪にピアス、それから派手な服装はネックだが、OBの勤め先をはじめ、理解ある職場で働くことにより他の連中よりも障害は少ない。


そんな恵まれた環境が、特に俺らの『紅風隊』に対する誇りになっていた。



俺自身もようやく自分の単車を手に入れたところで、仲間に披露したくてしょうがなかった。

特に俺が手に入れたバブと呼ばれるホークは、独特のシナリをみせるため人気がある。今は遠出した帰りで、夜も更けてきたところであるため大型トラックの間を縫うように走らせている。普段は仲間と風を切り、警察サツをまくのはなかなか気分がいいくらいなのだが。


今日ばかりはそうも言っていられない。時間をちらりと確認して、先頭を走る人に声をかける。


「総長、もうすぐ日付が変わりますっ」


「馬鹿野郎っ、諦めてるんじゃねぇ!

 『紅風隊』に、こんなところで諦める奴ぁ必要ねぇ!」


「すんませんっ」


尊敬する人に怒鳴られ、肝が冷える感覚を味わう。


時刻を伝えたことでさらに加速した後ろ姿に遅れぬように、ギアを上げる。

先を急ぐあの人の前にたてる人間など、まずいないだろう。単車と一体になったような走り方をするあの人は、意のままに操ってスピードを上げていく。


一部の人間には改造車というだけで眉をしかめられたりするのだが、あの人の愛車はいっそ芸術品のように綺麗だ。数年前であれば「綺麗」なんて言葉口にするだけでも照れ臭かったし、単車は格好良くてなんぼだと思っていた。



―――それなのに、あの人が走っている姿を初めて見たときは、ぞくぞくするような感覚をおぼえた。


何もあの人が走っている姿に惚れたのは俺だけではなく、『紅風隊』の者の多くはその風を切る姿に憧れ魅かれたのだ。

ここに所属することを許されてからは、その信念と腕っぷしに惚れ込んだ。こんなに仲間を大切にし、理想をその力と統率力で叶えていく姿勢にこの人に命を預けようと心に決めた。きっと、相手をぶちのめす力や技術ではなく、その走りに魅せられてグループに入りたがる野郎なんて他では少ないだろう。だから、俺はこの人の後ろを走れることを誇らしく感じている。


「よし!ご苦労だったな。お前らも、とっとと家に帰れっ」


「うっす!ありがとうございましたっ」


総長の家が見えたところで、俺らは解散させられた。

今回は正式な集会ではなく、総長が困っていると聞いて駆け付けた連中ばかりだ。あまりに人数が多く厳選されたことを思えば、どれだけ総長が慕われているか分かるというものだろう。都合のつかなかったものたちなどは、力になれないと悔しがっていた。去っていく後姿を見送ってから、俺たちは個々に散っていった。






✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾






いささか急いだ調子で、扉を開ける音がする。

本当は起きている間くらいは鍵を開けて待っていたいのだけれど、不用心だと怒られて以降鍵は必ず占めることにしていた。


「今日は、やけに早いのね」


思わず独り言を漏らしてしまうくらいに、これは珍しいことだった。

常であれば、いつ帰ってきたのか分からないようなことも少なくはない。男の子であるし、体格もよくなった。それでも心配になってしまうのは、どんなにやんちゃをしていようと息子であるが故だろう。


ずいぶん前から、開きっぱなしになっていた家計簿に目を落とす。

あからさまに待っていると、どうしても気になるらしく怒られてしまうのだ。……だから、気になりつつもたまたま起きていただけなのだと言った風を装う。


「あ、おかえりなさい」


「……おう。おら、食いたいって言ってた菓子買って来たから、有難く食え」


「あら、ありがとう」


まさかこの子が母の日を覚えているとは思わず、目を丸める。

昔は少ないお小遣いの中から花やプレゼントを買ってくれたものだけれど、今年はてっきり忘れられている物だと思っていた。つい、顔が緩むのがわかる。数日戻らないと宣言されて、心配していた矢先の帰宅だけでも嬉しかったのに。くすぐったい気持ちを抱えながら素直に受け取る。


しかし、中をのぞいてさらに驚いた。確かに自分が気になっていたもので間違いないのだが、まさかこんなおまけがついているとは思わなかった。


「支店は東京にもあるのに、わざわざ京都まで言ってくれたの?」


箱についていたのは一輪のカーネーションで、本店で購入した場合のみついているとテレビ番組で放送していた。おまけに箱の中身を見てみれば、母の日限定で販売しているものだ。


番組を見た時点で、本店に行き直接購入するしかないと女の子のアナウンサーが言っていた。

人気のこれを手に入れるのは、相当骨が折れたことだろう。通販では手に入らないと聞き、興味は持ったものの諦めていたから喜びもひとしおだ。



「俺はもう、寝みーから寝るぞ」


夜遊びが基本の息子だと思えば、こんな時間に眠たいなんて久しぶりに聞いた気がする。本当は一緒に食べないかと声を掛けたかったが、それならしょうがないとその背を見送る。小さな頃などママ、ママと後ろを追いかけてきたものだが、大きくなったのだと考え深い。一時期はすっかり変わってしまったと嘆いたこともあるが、考えを改めなければいけないようだ。


眠そうにあくびをする姿を見れば見るほど、頑張ってくれた事がわかり笑みが零れる。ぼりぼりと頭をかきむしるさまを見つめていると、突然息子が振り返った。


「ああ、母ちゃん。今度は、もっと早めに言ってくれ」


ダメもとで食べたいと口にしただけなのに、それを叶えてくれたのみならず、次もあるのだと思わせる言葉。生意気なばかりで、母親を家政婦か何かぐらいにしか思っていないのではないかと、疑ってしまったこともある。


それでも息子を可愛いと思ってしまうのは、こういう瞬間があるからだ。


「本当に、ありがとう」


心を込めてもう一度お礼を口にすると、息子はにかっと昔と変わらぬ笑みを浮かべた。




誤解があっては嫌なので書かせていただきますが、作者は決して不良グループを馬鹿にしている訳ではありません。むしろ、無抵抗の存在を傷つけたり、相手選ばず傷つける方がよっぽど最低だと思います。清く正しく、ひねくれればよいと思う。


次話は、ラーメンが主食の探偵と病弱な女性の話です。

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