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ツマにもなりゃしない小噺集  作者: 麻戸 槊來
あちらこちらへ跳ね回る兎
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ご乱心の勇者様

改稿させていただきました(2019/10/30)



漸くくだらない時間から解放されて、王城のなかあてがわれた部屋へと向かっていた。外装がきらびやかな城はどうもおさまりが悪くて、悪趣味なギラギラした調度品の数々もここの主の本質を表しているように思える。見た目にばかりこだわって、使い勝手が悪いところなんて、ふんぞり返っているこの主にそっくりだと忌々しく眉をしかめる。


中庭へ差し掛かったところで、いきなり隣にいる彼女が「風に当たりたい」と言ったので付き合うことにする。疲れをにじませた横顔へ、思わず言葉を投げかけたのは無意識のことだった。


「俺が、君を苦しめるものをすべて片っ端から壊していったら……きっと君は怒るよね」


「何を馬鹿なことを言っているのよ、あんたは仮にも勇者様でしょ」


俺が考えているまま口にしたら、隣にいる少女に怒られてしまった。

あまりにひどいあいつらの彼女ヘ対する態度にしびれを切らして、二人っきりになった途端に問いかけてしまっただけなのに……。くだらない接待のなか向けられた圧力を、彼女がだいぶ重荷に感じている事が分かる。あいつらは自分の都合でしか物事を考えようとしない。


何故、あんな屑どもに優しくて、俺には厳しいのだろう。

まぁ、表面的な作り笑いをされるよりよっぽどいいのだが。もう少し、笑顔を向けてくれてもいいと思う。今だって、どこか疲れをにじませながら、力なくあきれた表情をして俺を見ている。


「だってぇ。ちょっと利用された俺達でも腹が立つのに、君は家族を人質にずっと脅されてきたんでしょ?」


それを聞いた時は、魔物より先にあいつらの首を落としてやろうかと考えた程だ。

俺のお気に入りに手を出すなど、100年どころか1000万年早い。

俺やほかの仲間を魔王討伐に選んだ時もずいぶん強引だったが、大半の奴は食うに困って金でわが身を売ったのだ。これまで危ない橋だってわたってきているし、わが身をまもる手段がある。下手をすれば魔物と戦っている途中に死ぬかもしれないが、皆それなりに腕に自信があるためできた選択だろう。―――しかし、彼女は違う。


彼女は巫女という立場とその力を見込まれて、無理やりこんな茶番に付き合わされているのだ。



事実を知ったときに、俺をはじめ仲間たちの間に明らかなる殺意が生まれた。

みんな、いくら望んでも手に入らないものが、『普通の幸せ』という尊いものだと知っている連中ばかりなのだ。仲間は、魔物に家族を殺された者や、もともと孤児だった者もいて、家族とは縁遠いものもおおい。そんな俺たちにとって、彼女に対する城の奴らの扱いは許せるものではない。

こんな茶番をあいつらが思いつかなければ、きっと彼女は今頃家族と笑って食卓を囲んでいたはずなのだ。それにもかかわらず、偉そうにふんぞり返ったやつらとの会食など、いくら豪勢でもありがたくもなんともない。


これだったら、ほかの仲間たちとわいわい食う飯のほうが何万倍もうまい。

今日の会食に招かれたのは、この旅の責任者的役割を果たしている巫女である彼女と、勇者である俺だけだった。


『どうせなら、狸おやじたちの事なんて気にせず美味いもの食ってこい』と言って仲間には送り出されたのだが。あんな奴らを目の前にしたら、料理を味わう気すら失せた。こんな状況を予想していたであろう仲間も、王家とおなじ豪勢な食事を食べることができなかったというのに、うらやむ素振りすら見せなかった。



彼女も殆ど手を付けていなかったため、部屋に帰ったら一緒に何か食べさせよう。

普段だったらよく食べる彼女は、会食の後だけは毎度『食欲がないから』と言って水すら口にしようとしないが、精神的に疲れている時に空腹だとよくないだろう。

今日こそ、果物だけでも食べさせようと心に決める。


そんな事を考えていた俺の思考は、彼女の声によって戻された。


「―――脅されたって言っても、大した事を私はしてないわよ」


「そうだね。居もしない魔王を倒すため、魔物たちと戦う俺たちの後ろをちょこちょこ君はついてきただけだ」


巫女と崇められていても、少し回復魔法が使えるだけで、自身を守ることすらできない彼女。それでも、あいつらが巫女である彼女をより『神聖なものである』と国民に思わせて、さらに彼女を利用しようとしているのが分かるのだ。これ以上行けば、一生彼女はこの国に飼い殺されることになるだろう。……そんな事になれば、きっと俺たちが我慢できない。


「ちょっと、あんたケンカ売ってんの?」


「まさか、そんなことしないよ。

 ただ、あまりに君の扱いがひどいと感じただけさ」






✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾






―――だから壊したいと思っただけ。


事もなげに言う、この男は何なのだろう。

確かに、悪政だと評判の悪い国王たちの策略で魔物たちを統べるもの。魔王という存在を作り上げ、恨みをそちらに向けさせている。これが茶番だという事も、国王たちの私利私欲を満たす手助けをしているだけに他ならないことも知っている。

この国には、魔王討伐への出資という名目で多くのお金が落とされているはずだ。


だからといっても、彼も分かっているように私にはなんの力もないのだ。それで何かを望めというほうが、酷だと思うのだが…。国民には悪いとは思うし、情けないとも思う。けれど私は、巫女といえども所詮は彼らの駒でしかない。駒が主を捨てて自分の思うままに動いてしまえば、簡単に最悪の結果を迎えるだろう。


私を、こんな状況に追い込んだ人間たちに恨みがないとは言えないが、少なくとも勇者を含め、一緒に旅しているみんなには感謝している。



戦闘では何の力にもならない私を、いつも必死に守ってくれて、過保護と言える程気遣ってくれているのが分かる。

それだけで充分だと思わなければ、きっと罰が当ってしまう。


……だからいいのだ。


「―――私は、だいじょうぶよ」


彼がこんな言葉で満足するか分からないけれど。

そう言ってほほ笑むしか出来なかった。






君は何も分かってない。

俺たちは君が望みさえすれば、この世界だって与えてあげるのに…。


(この湧き上がる衝動を考えたら、一番魔王にふさわしいのは、俺かもしれない)


次話は、夢を追う彼とそれを見守る彼女の話になります。

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