耳に住む妖精
私は妖精が原因だとしか思えない聞き間違いを、よくしています。
恋愛色のない…あれな感じのお話です。
友だちと買い物に行った所で私たちを凍りつかせるような事があった。
「ぎゃあぁぁあ!
まだ、あしょぶのぉ〜ばぁばぁぁあ」
あまりの暴言に、私は思わず通り過ぎた親子を振り返った。
私が振り返る原因になる言葉が聞こえたのであろう友人も、同じタイミングで首をそちらへ向けていた。 不思議と今の言葉に反応している人は私たちだけで、尚のこと今の言葉が気にかかってしまう。
今の言葉を発したのは、まだ歩き方もおぼつかない小さな子どもで、それを向けられていたのはその子のお母さんだ。しかし店内ですれ違ったお母さんはまだ若く、30代の後半どころか20代でも通りそうな女性だった。
本当の年齢はわからないし、女性は化粧で化けるともいう。
けれど先ほどの女性は、パッと見ただけでも整った顔立ちをしたお姉さんといった様子で。とても『ババア』などと呼ばれる人ではなかった。そもそも、実の子であったとしてもあんまりな言い草に引きつる頬を抑えられない。
―――子どもとは恐ろしいものだ。
小さなあれくらいの幼児にかかれば、十代の女子高生ですら、オバサンになってしまうのだろう。 そう考えれば、女子大生である私たちでさえ他人事ではない。華の女子大生と呼ばれる頃でも大した魅力があるわけでもなく。明らかに、その名とブランドの無駄遣いをしている。自分たちが直接言われたわけでもないのに、そう遠くない日々を思って気分が落ち込んだ。
「いくら母親と言えど、あの年齢でババアはないよね…」
「うん、子どもは恐ろしい」
意味もなく沈んだ私たちは、しばらくブラブラと店を回っていた。特別目当てのものがあるでもなしに、何か目を引く物があったら買おうという程度の気持ちでいた。 もちろん品物は吟味しているし、興味があるものもあった。しかし欲しい物すべてを買うわけにもいかずに、あーでもない、こーでもないと話しながら歩いていた。
そこで、ついさっき聞いたのと同じ子どもの声が聞こえてきた。 その上、母親に訴えていることも先ほどと大して変わらず、友人と同時に顔を見合わせる。
「びゃあーかぁー!これほしぃーのぉー!」
「もう一個買ってあげたんだから我慢しなさい!
それに、何でもかんでもバカって言っちゃダメだって教えたでしょっ」
響いた泣き声を合図に、私たちは再び顔を見合わせる。
「「ババアじゃなかったのか」」
ハモった声が意外と響き、すぐそばを通ったおばさんに睨みつけられ、急いでその人から視線をそらした。心のなかで、「あなたの悪口じゃありませんよ〜」と呟きながら、遠回しに伝えるためわざと大きな声で続ける。
「あの子、馬鹿って言ってたんだね〜」
「うん、私たちの聞き間違いだね」
白々しい会話になったが、意図をくみ合わせてくれた友人に感謝する。
幼児のたどたどしいしゃべり方はただただ可愛らしいものだと思っていたけれど、内容にもよるのだというのが共通した私たちの考えだった。
なんだか、単なるあるある話になってしまった気がしますが…。
次話は、純文学風味…を目指して失敗した男女のお話です。