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ツマにもなりゃしない小噺集  作者: 麻戸 槊來
皮肉な視線で見据える龍
16/132

366日



大学の講義が終わり、昼飯を食べようと用意しているとやけに明るい友人がやってきた。こいつは普段から明るいが、今日は人一倍五月蠅く感じる。



「いえーい! 五歳の誕生日おめでとうっ」


「……お前でそのセリフ、三人目だ」


「まぁ自分と同じ事を考えつく人間など、10人はいると言うからね。

 私はお笑い芸人じゃないし、笑いにそこまで体張ってないからいいの」


友人は、会ってそうそう凄まじいテンションで話しかけてきたかと思うと、そんな風に自己完結させた。俺からしたら誕生日を迎える度に言われているからうんざりだ。今日は出会う人間の殆どに、からかい交じりの言葉を頂いている。


なかには、俺のせいで『雪が降ったのではないか』とまで言い出す者もいるから、まったく堪ったもんじゃない。注意しておくが、俺は雪男ではない。


――――だが、友人に誕生日を祝われると言うのは悪い気はしない。何も答えないのも失礼だろうと、言葉を返す。


「……一応、ありがとう」


「五年ぶりの誕生日だもんね! 去年は28日に祝おうか1日に祝おうか迷った結果、何もしないで終わったから、これあげるよ」


突きだされた握りこぶしから出てきたのは、小さな一口サイズのチョコレートが一つだけだった。


「お前は……つい数日前に、バイト代が入ったって浮かれていた癖に。くれるのはこんな物か」


「なによ、いらないなら返して」


「いや、貰っておくけど」


さっそく包みをはがし、口の中でチョコレートをかみ砕く。

今日は朝から散々だったため、文句は言ったが些細な優しさが有難く感じる。珍しく雪が降ったはいいが、遅刻出来ない授業があるのに遅延してしまった。授業始めにある小テストは、成績にも響くため辛い。この教授は厳しいことで有名な人で、遅延であろうと遅刻にされてしまう。


数分遅れただけでもいつも以上に込む満員電車のなか。痴漢に間違われたらたまらないと怯えることはあっても、人のひじが腹にあたった状態で押しつぶされていては、同年代の女の子の近くにいられても嬉しいことはない。

ようやく着いたと思った時には、既に小テストは終わっている時間だった。


小テストが出席代わりになる為、これで今日は欠席扱いだ。

酷い込み具合のなか、足を踏まれたり荷物をひっぱられたりしながら頑張って来たというのに、あんまりだ。雪で遅れても間に合うようにと早めに出たのだが、それはほかの人間も同じであったようで。普段より早く出たのに、乗り継ぎなどしていたら20分近く遅れてしまった。



もう、此処まできたら俺のせいじゃないではないかと、開き直りたくなってしまう。そんな苦労を語って聞かせると、友人は痛々しいと言った表情で俺に再び手を出すように要求してきた。


「……念願の誕生日だったのに大変だったね。可哀想だから、これもあげるよ」


そう言って渡されたのは、手のひらに収まるサイズの可愛らしいデザインの袋だった。バレンタインなどのシーズンにはよく店頭で見かける、小さな包みだ。包装は少し歪だし、きっと手作りなのだろう。中からは甘い香りがする。俺はつい中身を確認もせずに、彼女に問いかけた。


「……これは、食えるのか?」


「わざわざ作ってきたのに、失礼な奴ねっ」


俺の言葉に怒って、彼女はぷりぷりと怒りながら教室を出て行ってしまった。

ふと見えた友人の手には、昨日まではなかった絆創膏があったのだから不安になってもしょうがないと思うのだが…。


だいたい彼女は「今日は授業がない」と自慢していたはずなのに、この雪のなか何をしに来たのかと、そっと一人首を傾げた。




閏年という特別な日に何か残したかったので、簡単に考えたものですが投稿させていただきます。もうあと少しで日付は変わりますが、お誕生日の方はおめでとうございます。

作中の『雪男』は、晴れ男と同じくくりの意味合いです。


次話は、とある妖精と女性が出逢った日のお話です。

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