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ツマにもなりゃしない小噺集  作者: 麻戸 槊來
秘された丑の柄
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忠実なるしもべ



朝の陽ざしに照らされた稲穂色の髪が、キラキラと美しい令嬢が一人すやすやと寝息を立てていた。このサンタマリア家の屋敷でも一番日当たりの良いこの部屋は、冬の柔らかな日差しでも室内を明るく照らしている。


「おはようございます」


「ねむい……」


執事が挨拶をしながら部屋に入ると、一度はベッドから体を起こすがその瞳は閉ざされたまま。グラグラとで舟をこぎながら、今にもベッドに沈み込みそうになっていた。


「あーあ。綺麗な御髪がぐしゃぐしゃだぁ。そのままでは、もったいないですよ」


「んっ」


「はいはい。靴を履かせるんで、こっちへ足を向けてください」


「さむぃ……」


「寒くないように、お湯で温めてから履かせるんで大丈夫ですよ。姫は、その間に顔を洗ってください」


ゆるゆると開かれた瞼からは、アクアマリンと見間違うような透き通った瞳が現れた。

毎日、この空が生まれ変わる瞬間のような胸躍る時を得たくて、苦手な朝も起きることができている。出し抜いたメイドたちからは、後でたらふくお小言を貰うだろうが関係ない。「嗚呼、何と美しいのだろうと」目をそらすことができない。手足のマッサージにも力が入るという物だ。俺が侯爵令嬢であるお嬢様を『姫』と呼ぶことに良い顔をしない人間は多いが、彼女はそう呼ばれるのにふさわしい人間なのだから仕方がない。毎日見ても飽きないなんて、美しいにもほどがある。


「ありがと」


「いいえ、問題ありません」


問題ないどころか、こうして主に尽くせるのはご褒美と言えるだろう。

この世には金のために、刺し殺してやりたいようないけ好かない貴族や金持ちに仕える使用人が多い中、わが身の何と幸福な事か。貧民街の者ならガラス片を踏んでも気づかないのも珍しくないが、貴族らしい柔らかな姫の足にはほくろ一つない。毎日ケアしている甲斐がある。


「っ何が、問題ないことがありますか!」


うっとり悦に入る俺を邪魔するように、入り口が勢いよく開かれた。

普段、礼儀作法にうるさい人間とは思えない勢いだったのに、足音を響かせない歩き方はさすがと言える。


「っち、もう来たか」


「貴方また、ばあやを怒らせたの?」


「さぁ、全く身に覚えがありません」


「でも、いつもと違って髪がぼさぼさだわ。まるで黒い妖精みたい」


唐突に出された単語に、どきりとする。

するりと白い手で撫でつけられた赤い髪は、普段なら整えられて額にかかることなどない。

癖の強い髪はただでさえ清潔感がないと、散々家令に注意されてきたから常に気を付けている。姫が不思議そうに首をかしげるのも、うなずける。決して、お嬢様が小さいころに憧れた『絵本の王子様』に少しでも似せようとした訳ではない。


「どうせなら、いたずらが生きがいの黒い妖精ではなく、善良な野良妖精って言ってください」


「なぁにが、善良なものですか!その出で立ちでは、精々躾けのなってない野犬が良い所でしょう」


「まぁ。ばあやは朝から、そんなに大変だったの?」


「聞いてくださいまし、お嬢様!この男は身支度もろくに整えず私たちを出し抜いて、お嬢様のお部屋まで参上したんですよっ」


「そりゃあ、使用人用の洗面所や井戸前で待ち伏せされていたら、誰だって避けるでしょう」


「そうでもしないと、貴方を止められないのだから苦肉の策です!第一、お嬢様の身支度を整えるのは我々メイドの仕事だと、何度言えばわかるのですっ」


「そんなこと、誰が決めたのです。お嬢様のことを一番理解している人間がお世話するのが、もっとも良いに決まっているでしょう」


「っお嬢様の身支度を一番理解していると言い切るのが、執事であるお前なのが問題なのだと言っているのです!」


血管が浮き上がらんばかりに叫ぶメイド頭だが、こちらの作業を邪魔することがない。

それどころか、姫が使い終わったタオルを受け取るタイミングや、足に施すマッサージをアシストするような動きはさすがとしか言えない。


「……ばあや。そんなに怒っては、またひっくり返ってしまうわ。そうしたら、貴女の庭師である旦那さんも動揺して、家の家宝である『妖精の宿り木』を誤って切ってしまつかも」


この家の敷地にある妖精の宿り木は、国一番の大きさを誇る。妖精たちにとって欠かせない存在である宿り木だが、中でもここの巨木は重要らしく、国の建国以来ずっと貴族たちが近くに居を構えては守り続けてきた。


「起き抜けの姫の近くで、そんなに騒がないでください」


「誰のせいだとっ!」


「……そんなに喧嘩をしたいのなら、二人とも出て行ってくれないかしら。寒いからもう着替えたいわ」


姫の嘆きを受け、それまで壁際に控えていたメイドたちが動き出す。


「あらあら大変。お二人の大切な姫様が凍えていますわ」


「まぁ、そんな事になったらメイド頭は倒れ、エグヴィンさんは屋敷を半壊しそうですわね」


「……起きて早々に屋敷を半壊されたらたまらないから、とっとと出てもらっていいかしら?」


姫のそんな天の声で、俺とメイド頭は部屋を追い出されることになった。






✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾






時間が経過し、街中でのこと。

普段通りに身だしなみを整え、姫を市井へエスコートする栄誉を与えられていた。普段通いなれた貴族街ではなく、市民も行き来するような市井の店裏なんて、姫には到底似つかわしくない場所に我々は居た。


このサンタマリア領は比較的豊かで、他でよく見る孤児や物乞いの類はいない。

まぁ、そんな環境を整えられたから、街中へ出歩くのを許されたともいえるが。勿論貧富の差はあるし、ガラの悪い連中もいる。そんな時のために、俺のような執事兼護衛もできる人間が控えているのだが。幼いころの姫に見染められてから、血のにじむような努力の末にここまで来た。


姫の家は少々特殊なことを生業にしており、普通の令嬢であればおおよそ足を踏み入れない場所にも縁があった。そういう所にも着いて行けるように、彼女の近くには常に腕の立つ使用人が控えるように手配されている。




姫自身も慣れたもので、市井にお忍びでやってきた貴族令嬢といった服装も大変似合っており着こなしている。こんな場所には似つかわしくない御髪はうまく帽子で隠しているし、輝くばかりの肌もうまく見えないようにしている。


「はぁ、今日の姫も可愛らしい」


「―――おい、大事な商談の途中で、呆けているそのあほ面が護衛で大丈夫なのか?」


「あら、失礼ね。お使いもまともに出来ないお宅の駄犬より、よほど役に立つ猟犬よ」


「うちの奴らは、品よくする訓練なんて受けていなくてな。お嬢様が欲しがっている闇商人の情報を引っ張ってくるのも、命がけなんだわ」


「自分の躾不足を、駄犬の力不足と言い換えるのはいかがなものかと思うわ。いつだって悪いのは、まともに躾のできない飼い主ではなくて?」


姫が生き生きと、小汚い男と言いあっている。

裏街を占める元締めだけあって、それなりに稼いでいるはずなのだが、こういった服装の方がなじみやすいらしく大抵この服装だ。何かこちらを見て嫌味を言ってきたようだが、姫の声を聴くことに忙しい俺にはどうでも良い。闇商人を撲滅するための情報集めを依頼されていたのに、まともに果たせなかったのが悪い。


この男だって元々後ろ暗いことをしていたのだし、捕えようとすればいつでもできるのに泳がせているのは利用価値があるからだ。それを理解もせずに姫へ不満をぶつけるなど、見当違いも甚だしい。そんな風に不満を身の内に秘めていたところ、いくつか会話を聞き漏らしていたらしい。急に視線を向けられ、瞬きする。


「お前のところのお嬢様、どうにかならないのかよ」


「おや、うちの姫が何かご迷惑おかけしましたか?」


「俺がちょっと軽口をたたいただけで、ギャーギャー騒ぎたてやがって」


とっさに、目を細める。

姫はこれから起こる事態を予想してか、頭に手をやっている。止められないということは、ある程度の暴言は許容してくれるつもりらしい。そう理解したところで、この男に手加減は不要だと口を開く。


「そんなの……」


「あ?お前、嬢ちゃん以外とも会話出来たんだな」


「―――そんなの、お前が無能だっただけだろ?そっちこそ、くだらない言いがかりつけてうちの姫を侮辱するんじゃねぇよ」


「や、あの……私も少し、言い過ぎてしまったから」


「嗚呼、なんと姫はお優しいのでしょうか。こんな礼儀知らずのならず者にまで慈悲深くていらっしゃる」


「……おい。無礼だったのは認めるが、ならず者は言い過ぎだろうが」


「黙れ無能、お前など姫の視界に入れているだけでも耐えがたいのに、そのダミ声でなに堂々と話しかけてるんだよ。とっとと失せろ」


「エグヴィン、言い過ぎよ!」


「嬢ちゃん……すまん、俺が間違っていた。お前さん意外と苦労してんだな」


「悪いと思ってんなら、とっとと失せろってんだよ屑が」


次第に昔の言葉遣いに戻って、姫に聞き苦しい言葉を聞かせていると分かっているのに止まらない。それもこれもこの男のせいだというのなら、猶のこと憎しみは募る。


「お前、下手すると俺の部下より口が悪いぞっ」


「す、すみません」


「姫、貴女様が謝罪する必要などありません!ええ、そうです。貴女様の声を聞かせることですら、こんな下賤な輩にはもったいなくてしょうがないのに……」


「そうだなっ、嬢ちゃんじゃなくお前が謝れや!」


「うるさいっ黙れってんだカス!」


「もうやだ、こいつら……」


「えっ、私も同類?」


姫と視線を合わせるなんて、腹立たしい。

こんな男がどうして、彼女の視線を独り占めしているのか。


「―――潰すか」


社会的にも、物理的にも。

こいつは使い勝手が良いから残しておいたが、こいつの代わりなどいくらでもいる。


「帰ってくれよぉ、一週間で依頼は片付けておくから」


「明日だ」


「わぁーったよ!三日くれ。三日で、資料をまとめて届けさせるから」


「あら、助かるわ。それなら、エグヴィン『待て』よ」


「かしこまりました」


「何なの、この主従……」


ぎゃーぎゃーうるさい奴の小指の一本でもへし折ってやろうかと思ったが、勘の良い姫に止められて叶わなかった。


「な、なんか寒気が……」


「道を歩くときには、背後に気を付けるんだな」


「それ、依頼をした商売相手に言っていいセリフじゃないからな?」


「うるせぇ。指じゃなく首へし折られたくなかったら、とっとと仕事しろ!」


「なんで、俺の指がへし折られるのは決定事項なんだよ!」


「もう……、話が進まないから行きなさい」


「ちくしょー」なんて汚い叫びを残し、男は去っていった。

姫の耳汚しになる音を最後に残すなど、やはりあいつは早々に消した方が世のため、姫のためな気がする。


「姫……」


「ところで貴方は、いつまでうちの者を利用するつもりかしら?」


唐突に発せられた言葉の意味が、うまく呑み込めないでいた。

勘の良い彼女のことだから、俺があいつに向けた殺意を感じ取って叱られたのかと思った。だが、それにしては表現がおかしい。どういう事かと真意を探ろうと伺うが、まっすぐに見つめてくる彼女の瞳は冷ややかだ。


「さすが姫。真冬の湖面を覗き込んだような、さめざめとした瞳も素敵ですね」


「―――いい加減、うちの執事の猿真似はやめてくださる?」


「猿真似……ですか?」


「そりゃ、そうでしょう。どこの世界に、女主人の身支度にまで乗り込む執事がいるというのよ」


「そうは言っても、敬愛する姫のお世話を何でもさせて頂きたいと、常日頃から思っている通りに動いているだけですよ?」


笑みを深めるこちらに反し、『女』の眉間にあるしわが深くなる。


「両親が王都に行っているのを良いことに、使用人たちに洗脳魔法をかけてだいぶ好き勝手してくれたわね」


「…………」


「貴方はいたずら鼠?それとも黒い妖精かしら」


「―――嗚呼、そこまで分かってしまったか」


口がもぞもぞと動きの悪い中、言葉を紡ぐ。

どうやらこの男は、体を乗っ取られている身でまだ抵抗しているらしい。

事実、先ほど口にしたのは偽りなどではなく、この男は主人である女に怪しい者が近づくのを嫌っている。本当は「すべて世話を焼きたいくらいだ」と思っていたのを、代わりに実行してやっただけだ。


「黒い妖精の方ね。大方、私が持っている『太陽が生んだ奇跡』を狙ってきたのね」


太陽が生んだ奇跡とは、妖精の宿り木から偶然生まれたとされる宝石だ。その力は凄まじく、妖精の宿り木の枝を束ねて使用するよりも、効果が高いと言う。枝一本でも、人間の国など吹きとばせるだけの力が使えるのだ。その威力は計り知れない。


「『太陽が生んだ奇跡』なんて、よく我々の言葉を知っていたな。さすが、最高峰のサンタマリアの名を家名にしているだけはある」


「我々の家宝をつけ狙う輩ですもの。多少の調査は進めさせているわ」


「……もしかして、さっき言っていた資料っていうのが、我々のことだったのか?」


「あら、案外頭が回るのね」


洗脳魔法をつかってもなお、うまく動かせない男の体。

そもそも目の前の女に洗脳が効かないのも予想外なら、周囲がこちらのすることに『違和感を覚え、邪魔してくる』のも通常ならあり得ないことだった。メイド頭はとくに頭が固そうだから、仕方がないと無理やり納得させた。いくら洗脳しようとも、あまりにそれまでの常識を覆すようなことは難しい。完全に洗脳するよりも、この女の寝込みを襲ってネックレスを奪った方が早いと思ったが、まさかここまで洗脳耐性があるとは予想外だ。


「まぁ、本当に頭が回るのなら、『その男』を洗脳して操ろうなんてしなかったでしょうけど」


「それは、この男の戦闘能力のことを言っているのか?それとも。お前に対する忠誠心のことかな」


「彼の忠誠心は疑う必要もないけれど、なにより執事として理想的な人間なのよ。私の前では荒々しい言葉など使わないし、諍いなんて起こさないわ」


「君は知らないかもしれないが、この男の生まれはなかなか悲惨だし、未だに後ろ暗い所も山ほどあるぞ」


「そう。そうやって、私に対して偉そうな言葉遣いもしないわね」


「おや、それは失敬」


思考の癖などから、完全に過去をのぞいたりは出来ていない分も補えていると思ったが。どうやら、長年主従関係にあったこの女には、微かな違和感があったらしい。わずかに纏う空気が変わったのを思うと、どうやらこの女も一筋縄ではいかないようだ。思えば、この男からして規格外だった。洗脳魔法を使っても、ごくまれに表面的なものしか読み取れない者がいる。この男もその身体能力の割に、主に対する忠誠心の強さしか読み取れなかった。


「この男の異常さは、フェイクだったか……」


「いえ。エグヴィンが異常なのは、揺るぎもしない事実だわ」


「―――姫様。何も敵相手に、そんな風に断言しなくても良くありませんか?」


「あら、目が覚めたの?ずいぶん遅いお目覚めね」


思わぬ事態に、喉へ手をやる。

始めこそてこずったが、洗脳魔法を使ってからずっと碌な抵抗もされていなかったのに、今は全くと言っていいほどいう事を聞かない。思わずあてた手も、女へ対する礼の姿勢へ変えられる。執事の鑑といって良い礼儀作法は、まさしく『エグヴィン』が身につけたものだった。


「しばらく体は動かしませんでしたが、姫様のことはずっと近くで見守っておりましたよ」


「貴方がいつまでもそうやって悠長にしているから、私は6度も殺されかけそうになったわよ」


「いえ。寝首を掻こうとしたのは4度で、不意打ちを狙おうとしたのは5度。通算9度ほどですね」


「……殺害衝動を抑えてくれたのは良いとして、冷静に分析されると腹が立つわ」


「それは申し訳ありません、姫。今すぐこの不届き物を捕まえて見せますので、それで手打ちとしていただけませんでしょうか?」


「あら。黒い妖精はなかなか厄介だと報告に合ったけれど、そんなに簡単に約束して良いの?」


「えぇ、問題ありませんよ。何せ、このタイプの黒い妖精は、自身に寄生させてから拘束するのが一番ですから」


徐々に意識が混濁して、指一本動かせなくなる。

先ほどまでは何ら問題なかった会話や動きでさえ、一つとして思い通りにいかない。どうにかこの男とのつながりを解いて逃げ出そうとするが、黒い妖精がかける洗脳魔法は相手と深層を結ぶことで発揮される。この男は少々掛かりが悪かったため、自身と深いつながりを結んでしまったのが裏目に出た。



焦っているのに、呼吸は乱れず。

自由に操っていたはずの男の体が、こちらの洗脳魔法の支配下にないことは明白だ。それならと、何とかつながりを絶とうとしているのに、気づかずうちに妖精の羽を握られていたようだ。

『妖精の羽』とは一般の善良な妖精のみならず、黒い妖精にとっても核となる部分だ。妖精にとって羽は魔法を使う上で欠かせない部分であり、酷く損傷すれば妖精自体も消滅する。魔法を息するよりも自然に使う妖精にしてみれば、魔法を使えなくなった時点で精神的に追い込まれるものらしいが。何十匹と同胞の羽を毟ってきたが、自身の羽を失ったことはさすがにない。妖精は他者に害をなしたり、命を奪うと羽も心も黒く染まってしまうという。そうすると破壊衝動が抑えられず、一般の妖精が決して使わない洗脳魔法なども扱える黒い妖精と呼ばれる存在となる。


「混乱しているところ申し訳ないが、そろそろ姫様が焦れてきているからよろしいでしょうか?」


「っっ!」


「まぁ。人をこらえ性のない人間のように、いわないでくれる?どちらかといえば、妖精の宿り木を狙われて怒っているのはエグヴィンのほうでしょう」


「そりゃあ、黒い妖精や馬鹿な人間から妖精の宿り木を守るのを条件に、姫の執事となるのを許されているようなものなので。それを邪魔されたら怒りますよ」


「お前っ、宿り木の護り人か!半端者だから、気づくのが遅くなっ」


「黒い妖精のくせに、喋りすぎよ」


「あーあ、姫を怒らせた」


すぐに消滅させられた黒い妖精の最期に、哀れみを覚えたのは一瞬だった。久しぶりに黒い妖精の干渉から完全解放されてスッキリした。

姫は、自分に仕える者たちを愚弄されるのを酷く嫌う。対人間の戦いならまだしも、妖精の扱いでは姫の右に出るものはいない。そんな姫を軽んじて害そうとしたのだから、遅すぎるくらいだ。


「いつまでも遊んでいるから、黒い妖精を唆した黒幕を聞き損ねたわ」


「せっかく危ない橋をわたってここまで来たのに、良かったのですか?」


闇商人を捕まえる、大事な駒になったかもしれないのに。

黒い妖精は一般の妖精が生き物を殺して穢れたものと言われており、元の姿にもどることはないらしい。

どんどん悪事を働くようになる黒い妖精を利用して、巨大な力を持つ妖精の宿り木を、売り払おうとしている者がいるというのだから恐れ入る。


「あら。だって黒い妖精が、今度こそ貴方の体を乗っ取ろうとしていたのよ?その前にとめたのだから、感謝して欲しいわ」


「ありがとうございます」


「素直で宜しい」


どうやら、知らぬ間に助けられていたようだ。

いざというときは、迷わず仲間を助ける選択をしてくれる主など、そうそう居ない。改めて姫の偉大さを実感させられ、この人に仕える幸せを噛み締めたのだった。

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