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ツマにもなりゃしない小噺集  作者: 麻戸 槊來
秘された丑の柄
122/132

食いしん坊

お時間が空いて、すみません。


いきなり車の明るいライトに照らされて、目がくらんだ。そこでようやく、嗚呼うっすらと暗くなってきたのかと理解した。

気づけば夕飯を作るにおいが、どこからともなく漂って来ている。普段は部活でもう少し帰りが遅くなるから、この感覚は久しぶりだった。


今日はまだ夏休みが終わったばかりで、本格的に部活が始まるのはまだ先だ。私は高校に入ってから、料理部に入部した。女子だけのこの部は中学の時は考えられない自由さで、作るのはお菓子だけではなく軽食とは名ばかりのガッツリとしたロコモコ丼やカツ丼なんて時もあった。ご飯は調理実習で使用するからと、最新の炊飯器がある。何でも数年前に使いすぎて壊れたらしく、急速炊飯もできるから放課後の空腹にも満足な仕上がりだ。


よく近くを通る運動部からはクレームが来たりもしていたが、そこはうちの凄腕の部長様。

他には漏らさないことを条件に、二週間に一度賄賂を用意して黙認させた。そのため、たまに大量のから揚げを揚げなければならない日や、大量のおにぎりを握らなければならない日もあったけれど、放課後の学校で好きなおやつや軽食をみんなで作る楽しさには代えられなかった。勿論、多くない部の活動費で賄えるわけがないから、賄賂と言いつつも材料費はしっかり貰った。




あまり勝手なことをしては顧問に怒られそうなものだが、うちの顧問はノリが良かった。

学生の頃は地味なタイプで、運動部の中でもクラスの中心的な同級生たちが、女の子からお菓子などのお裾分けをもらっているのが羨ましかったらしい。


「部活で何か作る時は、必ず前もって申告すること。多少の出資はするから、時には先生の意見も取り入れること。いいか?怪我をしない次に大切なことだから、頭に刻んでおくんだぞ」


なんて、言っていたくらいだ。

学生の頃の憧れとは、恐ろしいものだ。既婚者となって可愛い娘さんがいるのに、放課後に食べる簡単なお菓子に対する憧れが消えないらしい。時々腹持ち目的でおしゃれさのない生姜焼きなんて作ると、あからさまにがっかりするから困ってしまう。いくら女子とはいえ、食べ盛りの女子高生がおしゃれなパンケーキしか食べないと思わないでほしい。


まぁ、先生の場合はそろそろ下っ腹が気になると言っていたから、そういう面でも私たちのようには楽しめないのだろうけれど。時々先生のリクエストを受けて、簡単にできるフォンダンショコラとかを作っているから、女子力を完全に放棄している訳でもない。


元々、おばあちゃんのお手伝いをしていたから、料理をするのは苦ではない。共働きの両親の代わりに面倒を見てくれたおばあちゃんは、私のために和食ならず洋食も日常的に作ってくれた。クリームソースから手作りのグラタンや、パエリア。おばあちゃん自身は少ししか食べないのに、私が食べたいといったものは大抵作ってくれた。


今では体調を崩して入院しているけれど、おばあちゃんとの思い出はたくさん心に残っている。昨日だって、おばあちゃんから貰った数珠が切れてしまったけれど、捨てずに袋に入れて引き出しにしまってある。




次の休みにはお母さんたちと病院に行く予定だし、何かおばあちゃんが食べられそうなものを作っていこうかと考えたところで、騒がしい声が聞こえて前を向いた。どうやら、ぼんやりしている内にコンビニ近くに差し掛かっていたらしい。少し買い物をして帰ろうかと思っていたのだけれど、派手な大学生くらいの集団に絡まれるのはいやだ。もう少し家に近いコンビニに変更しよう。


何気なく角を曲がったつもりだったけれど、いつまでも彼らの視線が追いかけてくる気がしていた。






しばらく歩いてコンビニの近くまで来たけれど、そこには中学時代の苦手な同級生がいて寄るのをあきらめた。じゃあ、諦めて帰るかと道を進んでいくと、細い道の真ん中で猫が喧嘩していて通れない。どんどん家から遠ざかることに内心焦りながらも、まだ完全に暗くなったわけではないからと足を進める。普段は近づいてこないのに、手を伸ばせば届きそうな距離にカラスが留まっていてビクッとする。悔しいことに、そんな私をあざ笑うかのように鳴き声をあげられると、突かれるのではないかと子どもの頃の苦い記憶がよみがえってくる。


気のせいだと自分に言い聞かせても、クリッとした目がこちらをじぃっと観察しているようで気持ちが悪い。脅すようにバサッと翼を広げられたのを皮切りに、足早にその場を後にした。


「な、なんで……」


徐々に、違和感を拭いきれなくなって思わず口にする。

どう考えても、自宅から遠ざかっている。どんなに寄り道をしても、ここまで遠回りをするようなことはなかった。普段はもっと人通りがあるはずなのに、遠目に人影が少し見える程度で誰かとすれ違うこともない。


いつも通らない道でただでさえ緊張しているのに、普段はうっとおしい近所のおばさんやおじさんに会えないことがさらに不安にさせる。おかしい、どう考えてもおかしいと半ば走りだした所で、住宅街からパッと視界が開けて唐突に立ち止まる。


「ようやく来たか。待ちくたびれたぞ」


突然、見たこともないような大鳥居の後ろには、立派な社がみえて驚きに立ちすくむ。

もう少しで家に着くころだというのに、『初めて見る』神社にも驚かされたけど、それ以上にインパクトがあったのは、大鳥居の前で座り込む男性だ。

その方は着物の着流し姿で、どこぞのヤンキーの様にしゃがみ込んで口には、何故か団子の串に似たものを咥えている。


「おい、腹が減った」


「お、なか?」


どうして私にそんなことを言うのだろうと疑問に思う心と、それは大変だと心配する気持ちがごちゃ混ぜになって、視界が点滅しているように切り替わる。よくよく見てみれば、その男性はとても端正な顔をしていて、綺麗な髪はサラサラと肩あたりで滑っていく。一目見た時は白髪なのかと思ったけれど、これは違う。キラキラと夕陽を浴びて輝くあれば銀髪だ。……そう、人間ではあり得ない綺麗な銀髪と、そこからのぞく立派な角。そこまで認識したところで、「嗚呼、私は彼を知っている」と理解した。彼は人間の作る料理が大好物で食いしん坊な、『鬼』の友人だった。あまりに思い出した内容が多すぎて、耐え切れずに私が意識を失ったのは、明らかに『彼』にとって予想外のことだったのだろう。目を閉じる前に見たのは、珍しく焦った顔の彼だった。






✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾





鼻をくすぐる感触に、一つくしゃみをした。


「おい、いい加減目を覚ませ」


そんな言葉とともに、再び鼻がくすぐったくなって、くしゃみを二つする。


「いい加減に、起きろって」


ゆるゆると戻った意識につられるように、目を開く。

出来ればもう少し寝ていたかったけれど、これ以上彼を放っておいて良いことはない。

昔から彼は自己中で、機嫌を損ねると大鳥居ですら壊しかねない存在だった。


「ほら、この俺直々に食事係を迎えに来てやったんだから、早く旨いものを食わせろ」


「また、貴方はそうやって無茶ぶりを……」


「何が無茶なことがあるか。お前が豆粒くらいのころから、お前は俺の食事係だろうが」


「そうでしたね」


『豆粒』の部分にはコメントすることなく、軽く流した。

彼は自称鬼で、自らを『鬼神』と名乗っている。不思議な力を使ったり、こんな風に人を人間界とは遮断された自分の住処に誘い込んだりするけれど、他の鬼にあったことがないから彼が言うのをそのまま信じるしかない。彼は自称美食家で、何百年と生きてきたけれど私と出逢うまでは、なかなかおいしい食事にありつけなかったのだという。


「俺の舌は肥えているんだ。まともに霊力も込められていない食い物で、満たされるわけがないだろう」


そう偉そうに語っていたのは、私が小学を卒業する間近のことだった。

ただそんなことを言われても、私にはそもそも霊力なんてものがどんなものなのかもピンと来なかったし、一般家庭に生まれた特別な力もない私にはそれがどういうものか教えてくれる存在も他にいなかった。


それが変わったのは、ほんの些細なきっかけだった。


「元をただせば、お前が婆さんにもらった妙な数珠をつけなければ、こんなに俺が飢えることもなかったんだぞ」


「……飢えるって、『鬼神』である貴方には食事なんて不要でしょうに」


「なんだ。少し逢わない間に、ずいぶん生意気な口を利くようになったな」


「そりゃあ、数百年生きている貴方にとっては瞬き程度の時間でも、成長期の人間に取ったら、十代の数年は貴重で偉大なものなんですよ」


自分で言っておいてなんだが、その貴重な十代の三年弱を彼の食事係として過ごしていた私は相当の代わりものなのではないだろうか。

小学生で彼に出逢ってから、中学三年を迎えるころまで定期的に彼へ食事を提供していた。私に甘い祖父母は、私がおやつと称して色々作っていても、止めることなく好きにさせてくれた。何なら、そんなに食事量が足りないのかと、心配してお小遣いや食事の量を増やしてくれるほどだった。


そんな二人に申し訳なく思いつつも、友だちと遊びに行くよりもこの鬼神様に逢いに行くことが増えたあたりで、祖父が亡くなった。あまりにショックだったのか、祖母もその頃から具合を崩し、入退院を繰り返すようになった。


神社仏閣巡りが趣味だった祖母は、ある日「もう、気軽に会うことはできないかもしれないから代わりにお守りを上げるわ」と言って、数珠をくれた。私の記憶が確かなら、それ以降私はこの鬼神様との記憶をなくし、彼に呼ばれることもなくなった。


「何度こちらへ招こうとしても、お前さんは変な物に弾かれて気づきもせんし。おかげでだいぶ力が弱まったわ」


「言われてみれば、前に逢った時より角が短くなりました?」


「おう、この角に我々は力をため込んでおくからな。お前さんに逢えないせいで、全然食事もできんし酷い目に遭った」


「……それは、偏食しているからでしょう?」


「何を言う。不味いものを喰らうくらいなら、飢えた方がマシだ」


「本当に、一度誰かに怒られてほしい」


そりゃあ、私は有り難いことに飢えに苦しむ感覚を実感したことがない。

両親は共働きでも、借金苦に苦しんでいるというわけでもない。家があって、両親仲も普通だ。……でも、こんなことを冗談と流せない状況に立たされた人が、世の中にはたくさんいることは知っている。


「ふんっ、我は鬼神ぞ。誰が罰するというんだ」


「例えば、『此処』に縛り付けている方、とかですかね?」


「―――何だ、言いつける気か?」


余裕ぶった様子に腹が立って口にしてみただけなのに、思いのほか可愛い反応が返ってきて噴き出した。私は数年前に、ちょっと食事を作っていただけの存在だ。出逢いだって、たまたま近くを通りかかった私に、この方が目を付けただけだし。この鬼神様が怯える存在とコンタクトをとる方法なんて、知るわけもない。そんな簡単なことにも思い至らないくらいに、その相手は厄介らしい。


「いい加減、睨むのは止めてもらえませんか。貴方とは久しぶりに逢ったのだし、私がそんな方と交流を取る方法なんて知る訳ないじゃないですか」


「どうだかな。何せお前は、最近まで俺の監視の目をかいくぐっていた位だからな」


「そんなの、たまたまでしょう?」


「何を言う。誰の入れ知恵か知らんが、お前のばあさんは明らかに意思をもって行ったことだぞ」


言われてみれば、おばあちゃんに数珠をもらった日は、めずらしく興奮していた。「素晴らしい神社に参拝してきたわ!」なんて、腰をかばうことなくぴんと立っていたのを思い出す。人気の神社だったらしくだいぶ並んだらしいのに、不満を口にするどころか「これはだいぶご利益が期待できるからね」と、私にも数珠を渡してくれたのだ。

始めは数珠なんて普段使いに出来ないと思っていたけれど、透明なそれは意外と服にも合わせやすく、常に肌身離さず持ち歩いていた。おばあちゃんからもらったという理由も強いけれど、これを持っていると不思議と体が軽い気がして身に着けられないときも鞄に必ず入れていた。


「始めはお前が言う通り、『てすと』とやらが終わるのを待っていたが、約束の日になっても一向に姿を出さん。あまりに耐えかねて学校とらやらにも行ってみたが、あそこは俺らの天敵がいるから近寄れなかった」


「そういえば、逢わなくなったのはテスト期間でしたね」


しばらくの間テスト勉強をしたいから逢いに来れないと言ったら、大分ごねられたのを思い出す。まさか自分よりはるかに生きているだろう鬼神様に駄々をこねられるとは思わず、どうすればいいのかと困惑した覚えがある。しまいには「家まで押しかけるぞ」と脅されたから、逆に「家へ来たら二度と料理は作らない」と脅し返したのだった。


「家には来ませんでしたね?」


「はぁ?お前が家に押しかけたら許さないし、二度と口も利かないって言ったんだろうが」


何を言っているんだと首をかしげる鬼神様に、嗚呼、彼はこういう方だったと一つ頷く。

横暴で自分勝手な癖に、変に律儀で有言実行の方。そんな彼だから、多少無理をしても彼に色々作ってあげたくなったのだ。そうでもなければ、いくら脅されたからって毎日のように料理を持って行ったりしない。


「嗚呼、いい加減腹減った……」


へろへろとしゃがみ込む様は、これまで見たことがない姿だった。

サラサラと流れる髪の間から、角の付け根がみえてまじまじ見つめる。昔から長身で尊大な彼の頭を見る機会なんて今までなかった。座っていても私の方が座高が低いし、鬼神様が頭を下げる機会なんてない。ということは、どれだけ鬼神様が参ってしまっているのかうかがい知れるということだ。


「……大丈夫ですか、鬼神様?」


「大丈夫じゃない」


間髪入れずに答えられた言葉の速さの割に、その様子から覇気が感じられない。

ずっと頭を見つめていると、意外と髪の艶があることや、肩幅のわりに頭が小さいことまで観察できてしまう。


「本当に、長く空腹だったんですね」


「……だから、お前の飯以外食わないって言ってるだろ」


拗ねたように口を尖らすさまを見て、きゅんと来たのは内緒だ。

拗ねていると言っても、可愛いといっても怒られる未来しか見えない。第一、無理やり食事を作れと言われていたのに、『お前じゃないと駄目だ』なんて言われて嬉しくなっているなんて、絶対に知られたくない。鬼神様にそのつもりがなくとも、まるでダメ男に尽くしているみたいで……なんか嫌だ。


「簡単でよければ、おにぎりでも握ってきましょうか?」


頭からサラサラ流れる髪の綺麗さと、ガックリと下がったままの首の哀れさがアンバランスすぎて、よしよしと頭を撫でる。


「……いやだ。どうせ朝に炊いたのを、ずっと放置していた飯だろう?そんなの食った気がしない」


「可哀そうだと思ってみれば、わがままな」


つい、撫でていた頭を小突く感じで、手を放す。

『私が作った料理』にこだわるが故の発言かもしれないが、こちらの気遣いを無視するような物言いはいただけない。


「そんなことを言っても、すぐに作れるものなんてそれくらいしか思いつかないですよ」


「……お前が作ったものしか食わない」


「えー?あっ、昨日作ったおはぎで良ければ家にあるかも」


「おはぎ?」


「そうです。小豆を煮るところから始めたので、手作りですよ」


「お前が作るおはぎは、好きだ」


「覚えています」


何せ、おやつにしようと大皿に沢山作ったおはぎを、鬼神様に全部食べつくされたのが初めての出逢いだったのだ。そう易々忘れられるものではない。

あれは自ら、手作りのおはぎを作った『二回目』の時だった。一度目の時は、おじいちゃんがどれだけおはぎを好きか分かっておらず、すべて食べられ悔しい思いをした。試行錯誤しながら休みを一日犠牲にしたのに、口に入ることなく終わったのは腹立たしかった。けれど、何も考えずに「これ食べていいよ」と、軽い気持ちでお皿を差し出した私にも非があった。まさか70近いおじいちゃんが、10個以上あったおはぎを一人で食べきるとは思わなかったのだ。その後に食べた即席麵のしょっぱさは忘れられない。



その反省を生かし、翌週にはゴマやきな粉味とバリエーションも豊かにして倍以上数を増やして作成した。おじいちゃんとおばあちゃんの分は家に置いてきて、近所の友だちと一緒に食べようと運んでいる時にそれは起きた。突然見慣れない鳥居が現れたかと思うと、あれよあれよという間に手に持っていたおはぎがすべてこの鬼神様の口に運ばれて行ったのだ。その時の鬼神様は今以上にギリギリの状態だったらしく、血走った目で黒い物体にむしゃぶりつく姿はトラウマものだった。


しばらく衝撃で呆然としていた私だったけれど、「あんこは良いが、ゴマときな粉は余分でいらんな」という一言で我に返った。何せ、一週間ごしに口に入る予定だったし、何なら前回も人に食べられてしまっているのだ。

それが言うに事欠いて「余分だ、いらない」なんて許されようものか。いや、許しては置けない。


「本当に。初めて逢った時は、どうしてやろうかと思いましたからね」


「そんなしみじみ言っているところ悪いが、本格的に力が出ないから飯を……」


「いや、あの時の鬼神様の非道なふるまいは、永遠に語り継ぎたい出来事でしたよ?」


「お前、あの時もそんなことを言って、俺を大根でタコ殴りしたんだよな」


「嫌なことを、思い出させないでくださいよ」


「いや、お前は突然走り去ったかと思えば、『そんなに腹が減っているなら、大根でも齧ってろ!』って思いっきり殴ったじゃねぇか」


あんなの早々忘れられるものではないと言うけれど、私だって余裕がなかったのだからしょうがない。まさか怒りに任せて、鬼神様の存在や不思議な空間に対する恐怖なんかを吹っ飛ばせるとは思わなかった。それがどう間違って好意に変わったのか、自分でも定かではない。


「はいはい。では急いで家からとってくるんで、ちょっと待っていてくださいね!」


「あー途中まで送ってやる。―――そう何度も、嫁に逃げられてたまらないからな」


「んっ、何か言いました?どうせ送ってくれるなら、家の裏手にお願いします」


「おっ、やっと親への挨拶を許してくれるのか?」


「へっ?挨拶も何も、その姿で家族に会わせたら、大変なことになりますよ」


角や古めかしい着物姿のことを言ったのだけれど、ふむふむと鬼神様は頷いたのち「まぁ、そういうのはもっと妖力が戻ってからだな」と笑った。ニカッと笑った顔にうっかりときめいて、久しぶりに彼への想いがよみがえってきた気がする。


私は数珠のせいで、あんなに好きだった彼の存在を忘れていたのに、今もなお必要としてくれているのが嬉しい。彼にしてみればただの食事係かもしれないけれど、これきりにしたくはない。


「急いで持ってきますからね?」


「もう二度と放すつもりはないから、焦らなくていい」


「んっ、何かさっきから話がかみ合っていない気が……するけど、まぁいっか」


その後、彼に思っている以上に好かれていたのに気づくのは、また別のお話。


ここまでお付き合い頂き、有難うございました。

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