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ツマにもなりゃしない小噺集  作者: 麻戸 槊來
あちらこちらへ跳ね回る兎
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目  録


作品が増えてきたため、簡単なあらすじを掲載することにしました。

私の作品はジャンルが全く異なることも珍しくないので、コメディー(とも呼べない稚拙さですが)などの明るさ重視の話だけ背景、文字色を変えています。




(注意)

小噺集内と、このあらすじは予告なしに加筆、改稿することがあります。

昔の話だと、当初思い浮かべていた背景描写すら充分に表現しきれていないことが多いからこその行動ですが、予めご了承いただけるとありがたいです。もしも当初の形の方がよいと言う声が多ければ元の形を掲載することも考えますが、基本戻すことはないです。


また、言い訳にはなるのですが作者はあらすじを書くのが不得意なので、できればお好みではない作品も一度目を通して頂ければ…嬉しいなぁという願望ありきです。



~卯年の章~


『 愚かな少女と秀麗な少年 』

周囲から愚かと呼ばれている少女と、優秀だともてはやされる少年の会話風景。

この作品は他のものと異なり、ある日ある場所で交わされた男女の会話文のみで表現しております。……正直、稚拙すぎて手直しすらできない話です。




『 最低な片想い 』

最愛の友人にして、長く私の想い人だった彼。

泥沼でもがき苦しむような状態から、お酒の力を借りてこの関係に終止符を打つ決意をした。友人に寄せる彼女の想いは、しつこい甘さに頼るよりもさわやかな苦味で洗い流したくなるものだった。




『 ご乱心の勇者様 』

魔王討伐に旅立った勇者一行。骨休みにと戻った王城だったが、己たちよりはるかに身分も気位も高い狸おやじたち相手に楽しめる訳もなく。豪勢な食事もまったく有難く思えないような時間を過ごした。ようやく解放された二人は、気分展開のため中庭へと足を向ける。少し変わった勇者と力無き巫女の話。




『 体に刻み込まれた記憶 』

とある絵描きに恋をした。

長いようで…短い最後の学生時代を彼と過ごし残ったのは、まぶたに残る感触と小さな思い出たちだった。夢を追うあなたを信じきれなかった私は、涙をこらえながらそっとあなたを思い出す。




『 いっそ宝箱に僕を閉じ込めて、一緒に燃やしてほしかった 』

病弱な女の子には、一つだけ秘密があった。

両親はもちろん、他の誰にも明かしたことのない秘密を抱えたまま一生を終えるのだと考えていた彼女に起きた、不測の事態。「お願い、あなたには幸せになってほしいの」そんな少女と不思議なお人形の一時。




『 私は、全てを手に入れる事はできない 』

祖父の代から続いていたそれなりの家も、当主を失い力をなくした。

後見人も親戚もなく、年若い一人娘しか残されていない家は、傾く運命だったのだろう。たった一人の肉親を失った彼女は、悲しみに浸る暇もなくせわしなく動き回る。使用人のほとんどは辞めていったし、めぼしい家財道具も売り払った。さぁ、あと一息だと力を入れ、ずっと傍に仕えていた青年と向き合った。




『 彼の御方を愛しすぎた娘 』

崇拝すべき御方に、過ぎた想いを抱く娘。

おわれるように逃げ出した地上にも、彼女の居場所などありはしなかった。



『 純粋な神様が堕ちる時 』

皆に敬われ、愛される。そんな御方にも特別な存在がいた。逃げ出した娘を捕まえるために、あらゆる手を尽くし彼女を絡めとる。『彼の御方を愛しすぎた娘』の対となるお話です。




『 秘めたる想いに終止符を 』

まだまだ、身分なんてものに縛られている時代。私は友人の妹君に懸想していた。友人宅へお邪魔するときに交わすささやかな会話や、子どもの様な触れ合い。それだけで満足していた私だったが、ある人物から送られた一通の手紙をきっかけに柔らかくもささやかな関係は崩れることになった。




『 魔女 』

魔女と呼ばれるようになったのは、何時のことか。そんなくだらない事にはさして興味はないが。語るもくだらない理由しか無いのは明白だし、思い出したくもない記憶が一緒に呼び起こされるのは御免だった。

いま私の興味を引くのは、己の腕と最近出逢った彼のこと。なんでもない平凡な日々にも、まあまあ満足している。―――それなのに、笑いたくなるほどささやかな幸せを奪ったのは、どこの誰?




『 天邪鬼からの手紙 』

仕事に疲れ家へ帰ると、彼女はたった一つの書置きを残して消えていた。

その一文を見て俺が慌てもせず「阿呆らしい」と、その言葉しか発しなかったには決して深くはない理由があるのだ。




『 雨の中の温もり 』

冷たい雨が降っていた。雨は部屋の空気を冷やし、頬をかすかに湿らせる。大切なものを失った彼女は、薄暗い部屋で丸くなる。傷ついた子猫のように、不器用に寄り添う二つの陰はそっと優しい空気に包まれた。




~辰年の章~


『 小人さん 』

私の家には、小人がいる。

背が小さい人を馬鹿にしている訳でも、変わった名前の人でもない。あいつの全長は500ミリリットルのペットボトル位だが、生意気なことに八頭身で目鼻立ちが整っている。だが、一つ重要なことがある。私はあの小人が嫌いなのだ。




『 野良猫ハンター 』

常識を知らない、気ままな彼に恋をした。片想い中の私は、意地っ張りでプライドの高い、どうしようもない彼の『いい友人』を買って出ている。何時までもその関係を続ける気はさらさらないから、まずは胃袋をつかもうと奮闘中です。




『 366日 』

一年が365日だなんて、誰が決めた。二月もこの年ばかりは、ほんの少し長くなる。しかしとある青年にとっては、珍しさと覚えやすさのほかには大した利益のないこの日。四年に一度訪れる日に、災難にあった大学生と同級生のお話。※シリアス皆無




『 キッチンの妖精 』

突然で申し訳ないのですが、自称ちいさな妖精をどなたか引き取ってはいただけないでしょうか。小さいですが、今となっては私の家へ居ついたこの自称妖精に、そのうちキッチンの全権利を受け渡しそうで非常に恐ろしいのです。

そんな、自称妖精と私が出会った日の話。




『 意地悪な彼   前、後編 』

毒舌家なんて、俺を表すにはずいぶん可愛らしい言葉だと思う。

そして、口を開けば毒ばかりと称される俺を「好きだ」なんていうとぼけた彼女は、めっぽうお人好しでとろくさい女なのだ。そんな同級生が最近やけに構ってくるのには、「理由がない」だなんて言わせないから、さっさと白状した方が身のためだよ?この話は視点を変更しながら進めます。



『 意地悪な彼   番外編 』

まぁ、俺が興味を持ったんだからね。

なるようになっただけの事。―――イベントへ参加するなんて冗談じゃないと思っていたけど、たまにはいいかもしれないね。滅多にない、今日という日を彼女と過ごす話。




『 狐狸の商売あがったり 』

狐と狸の仲が悪い?いえいえ、まさかそんな事はありません。我々『化かす』ものたちは、互いに協力して生きているのです。しかしながら、どうにもこうにも最近のこの世は生きにくいようで、出てくるのは疑問と少しの愚痴でした。※恋愛色なし




『 雪見河童 』

雪を見ながら露天風呂へ浸かる。そこに大好きなものを持ち込めれば、尚良し。休暇を活用し友人と二人旅を決行した。けれども、ひょんな理由から一人で行動することになった彼女は、変な輩に絡まれた。※シリアス皆無




『 ご迷惑おかけします 』

ある日、友人と一緒に学校から帰宅する途中、不思議な人に話しかけられた。見た目はスーツを着こなす格好いいサラリーマンなのだが、どうも隣にいる友人の様子がおかしい。……まぁ、話すうちにこの年上の男性もおかしいと気付いたのだが。そんな彼と私と、時々友人の、生涯をかけた戦いがここにはじまる。※シリアス皆無




『 屋敷の主 』

庭があって、子どもの笑い声が響く一軒家。そんな我が家と家族たちは、私の自慢だった。―――すべてが変わる、あの時までは。過去の記憶にとらわれた彼女は、一人でこの家を守り続けて久しい。私が囚われているのは、プルメリアの香りと愛しきちいさな記憶たち。




『 酒は天の美禄 』

先に記しておきたいことがある。私はまだ未成年でお酒など飲んだことがない。

そんな私が酔っ払いのあしらい方が飛躍的にうまくなり、飲み会などで何かと介抱を押し付けられるようになるきっかけとなった出来事を、どうか説明させてください。この出会いは私にとって、決して喜ばしいものではなかった。※シリアス皆無




『 無音の愛 』

偏屈な爺さんは、余分なことを口にするくせに大切なことはあまり語らない。それでいて、人の神経を逆なでするようなことを言う祖父との折り合いは悪く。いい年してお恥ずかしい話だが、俺は祖父を苦手として口論が絶えなかった。けれどある日、意外な一面を見て歩み寄るということを覚えた。




~巳年の章~


『 被害者と加害者 』

これまで何だかんだで、希望通りの部活に入部することができなかった女生徒。ようやく高校入学を機に、念願の美術部へ入部できたというのに……周囲が彼女を放っておかない。※シリアス皆無




『 はつこい 』

大事な一人娘も成長し、恋をする年頃になったようだ。いろいろな事があったというのに、今こうして少し話し難いであろう自身の恋について相談してもらえて嬉しい。―――そのはずなのに、ざわざわと過去の自分を思い出してしょうがないのは、どうしてなのだろうか。




『 雪女 』

子どもの頃から、伝説の存在に会いたいと願っていた。大人になってからは、その伝説がどうしてできたのか、どのように語り継がれてきたのかということに興味を持つようになった。その伝説とまさかこんな形で関わることになるとは、思いもしなかった。




『 ゲーム 』

戦闘もののゲームを一緒にしようと誘う弟と、それを断る姉。最近では二人遊ぶようなこともなく、珍しいことだと姉は目を丸くする。滅多にない可愛い申し出に応えてあげたいのは山々なのだが、簡単に了承できない理由があった。※恋愛色皆無




『 却下します 』

一生を決めるそのときは、少しでも素晴らしい形で迎えたい。理想のプロポーズを目指して、苦悩しては実行に移していく彼。それなのに、何度も何度もやりなおしをくらう求婚に、徐々に自信を失っていく。冷たく拒絶されるわけを問い質すと、予想もしていなかった答えが返ってきた。




『 欺く人 』

代々続く、公務員家庭。そんな平凡な家でも、どうも結婚生活はうまくいかない。片親となっても願うのは、わが子だけはどうかのびのびとまっすぐに育ってほしいということだけ。俺は親父に似ていると言われていたが、あいにく堅実な生き方までは真似できなかった。息子はどうか、祖父のように生きてほしい。




『 守護霊? 』

次々起こるアクシデントのたびに、必ず現れ助けてくれる謎の彼。「小説みたいな出会いだ」などと浮かれていられたのは、はじめだけだった。しがないOLなのに、ある日を境にとんでもない事に巻き込まれていく。嗚呼、私はただ普通に過ごしたかっただけなのに。




『 耳に住む妖精 』

女同士連れだって、買い物するとなれば話のタネは尽きないもので。

しかし、世で言う姦しいはずの二人の笑い声にも負けない言葉が、私たちの沈黙を誘った。※シリアス皆無




『 ノスタルジアの溜息 』

―――それは、座っているだけでも汗の滴り落ちるような夏日のこと。

子どもだと馬鹿にしていた女性の憂い顔に、ひとつ鳴った鼓動は気のせいではなく。一回り近く年の離れた彼女の問いにも、しどろもどろになる始末。淡くも甘い過去は己をとらえ、所帯持ちとなった今でも思い出さずにはいられないあの時。私は、自分の生徒に恋をした。




~午年の章~


『 几帳面さの欠点 』

わたくしの仕える屋敷の主は、とても几帳面且つ細かい……えぇ、それこそ殺意を覚えたことも一度や二度ではないというような、神経質な御方なのでございます。あまりの環境にキレて暴れたことも少なくはないわたくしですが、それはほら。

使用人に対する待遇の良さと、ここで培うことのできる基本的な能力の高さも魅力となり、それなりに楽しくやっております。目下の悩みと言えば、我が主の減量がうまくいかないということくらいでしょうか?そんなメイドと、主のお話でございます。




『 さようならの代わりに   前、後編 』

入退院を繰り返す幼馴染とは、子どもの頃からずっと一緒にいた。そんな彼と想いを通わせ結婚にまで至るには、私にとって自然な流れで。四の五のうるさい彼との口論や、正直じゃない互いの反応も存外心地の良いものだと思っていたのは…私だけだったの?

最後に残されたのはとんでもない裏切りと、最悪の結末だった。




『 団結する不良 』

『紅風隊』といえば、関東ではそれなりに知られているグループだ。総長は筋を通す人で、俺たちあこがれの存在だ。我らが総長のために力を惜しむようなものはなく、むしろ率先して動きたがる。そんな俺たちが今夜車を走らせるには、重要な意味があるため誰にも邪魔などさせはしない。※シリアス皆無




『 白いカラスの推理 』

親族のほとんどが警察関係者。そんな中で俺は、探偵事務所なんぞ開いてしまったはみ出し者だ。所詮この家でいう所、アルビノの白いカラスのような存在なのだろう。そんな俺を認めてくれるのは、叔父貴と病気がちな彼女なのだが…。どうもこの二人は、望みもしない推理の道へと、俺をいざなうのが好きらしい。




『 掌中の珠 』

私の妹である葵衣あおいはとても可愛い。めちゃくちゃ可愛い。

それはごまかしようがない事実のはずなのに、それを聞いて何故か彼はいつも複雑そうな表情で笑うばかりだ。もちろん、まさか自分の恋人に妹を『そういう対象』としてみて欲しいなどとイカれた思考は持っていない。……そもそも、手を出そうものならば叩き潰す所存ですし?

だから、ただ事実は事実として認めてほしいだけなのだけれど、どうも周囲の理解は得られない。そんな私の窺い知れない所で、彼が暗躍しているなんて思いもしていなかった。




『 ぼんくら   前、後編 』

格好良くて、強い騎士様に助けられて恋に落ちる。そんな恋物語に憧れるのは、女性なら誰しも同じだろう。たとえ我が身に起こらずとも、近くにそんな実例があれば、噂の種にならない訳もなく。小さな村に暮らす娘の婚約だというのに、双方の人目を引く美しい容姿も手伝い、幼少期から知る彼女は一躍『時の人』となった。

ただ同じ村の育ちで、同年代だと言うだけの私には関係ないと言い捨ててしまいたいのに…。この不毛な恋心は、余分なものを色々招きよせてしまう。「見る目がない?」そんなことは、過去の私へ言ってください。




『 綺麗好きの妖怪 』

理想の家を探して、全国各地を渡り歩いてきた。

俺の特質上、明るいなかでの行動は難しいのだが、そんな困難さえも今日のような日は報われたように思え心が震えた。丁寧に管理されてきたのであろう日本家屋は懐かしく、都会でもないのにビルだマンションだという建築物が増えた昨今は、目にするだけでも嬉しくなる。深夜にこっそりと侵入してみると、念願のオアシスがそこにはあった。※シリアス皆無




『 告白の二択~美しき失恋~ 』

これまで、何でも話してきた。家族への不満から、ファッションに成績、果ては好きな人のことまでも。そんな高校時代からの親友にも、たった一つだけ長く打ち明けられないことがある。ほろ苦くも楽しい学生時代の思い出を、そのことで嫌なものにするには忍びなくて、少し成長した今そっと打ち明けることにした。過去の失恋は、必ずしも悪いものじゃない。私は、親友と同じ人に恋をしていた。




『 シュガーの責め苦 』

甘いもの嫌いの俺は、今日も自ら菓子をつくる。

当然、自分の腹を満たすために作っているわけではないし、売ろうとしているのでもない。何とも言い難い理由から、俺は菓子をつくっているのだ。……まぁ、いろいろ言い分も考えもあるのだが、一言で言い表せば惚れた弱みという言葉に集約される。どうか俺のことを思うなら、深くは追及しないでほしい。




~未年の章~


『 楔―くさび― 』

事故に遭い、記憶をなくした。

最も、なくしたと言ってもここ数年間の記憶だけだったためさしあたり不便は感じていなかった。もちろん常に不安は付きまとうし、記憶を取り戻そうという焦りはあったが、悩んでもしょうがないと割り切ることにしていた。―――だから、ずっと君の傍にいるのは辛くてたまらないんだよ那奈。




『 瞬きの間に 』

人生、何が起こるかわからない。……むしろ、今この瞬間にすら自分では想像もつかないことが起こっているかもしれないのだ。これは、私が幼馴染の家で体験した、人生を左右する出来事が起きた時の話だ。確かに、重要な出来事こそ濃密で短く感じると聞いたことがあるけれど、いくらなんでも短すぎるだろうっ。※シリアス皆無。




『 風を操る執事 』

貴女には今後、精霊われわれとかわした誓約を果たしていただきます―――。そんな言葉とともに受け入れられた男爵家は、一般人だと思っていた父親の実家でした。早くに父を亡くした私は、物心ついた頃からずっと母と二人きりで頑張ってきた。少し貧しいながら支えあって生きてきたのに、突然そんなことを言われて信じられる訳もなく。おとぎ話に出てくるような青年相手に戸惑い、日々は過ぎ去っていく。これは私が男爵家を継ぎ、再建するきっかけとなった出来事。




『 毒薬   前、後編 』

幼い頃から、双子の妹とずっと一緒にいた。

特別性格が似通っているわけではなかったけれど、王族という重圧も自由がきかない苛立ちも、すべてあの娘がいたからこそ耐えてこられた。

……それなのに、『英雄』との結婚がすべてを狂わせていく。毒薬がゆっくりと溶け出すように、私たちの日々は浸食されていく。




『 忘却 』

ここ数日で、急に暑さが増した気がする。―――だが、最近は街並みの変化や何気ない電化製品まで、驚きを隠せない勢いで進化していることを思えば、自身が早くも衰えを感じているだけなのだろうかと、わずかに物悲しさを覚えずにはいられない。

もっとも、それも若い妻との慣れない日々により、濃厚な日常をなんとかやり過ごしているからかもしれない。己には到底襲うはずがないと思っていた事態に、戸惑いながらも数十年にも思える長い妻との日々を、必死に生きる。




『 スティンガー   前、後編 』

非現実的な雰囲気のなかお酒を楽しみたくて、そっと地下への階段を降りる。

「ホストに逢うため着飾る自分」なんてどうにも想像するだけで気恥ずかしくて、おしゃれな女の子たちには笑われてしまうような恰好をわざと選ぶ。私は、男に媚びへつらって欲しい訳でもなければ、金持ちの道楽としてここへ来ているのでもない。ただ、たった一人の無愛想な顔見たさに、ここへ足を運ぶのだ。




~申年の章~


『 仲良しなお馬さんと鹿さん 』

とある夫婦には、最近ようやく言葉を覚え始めた一人息子がいた。息子のたどたどしくも一生懸命な言葉や動作はえらく可愛らしく、成長していく姿はほほえましかった。旦那さんと息子さんが誰より好きな奥さんと、奥さんと息子さんが何より好きな旦那さんの、日常という名の惚気。




『 お姫様の救出 』

半世紀以上、使われることのなかった高い高い塔という牢獄の扉が開かれたのは、数年前のことだった。戦時中こそ他国から人質として攫ってきた王族を閉じ込めていたものだが、これは負の遺産として忘れ去られるはずだった。

そんな封印を解いたのは、この国の元王妃であり現在の女王であった。そして驚くことに、閉じ込められたのは……王の忘れ形見だ。後妻であった女王が愛を注げないのも無理からぬことかもしれないが、この状況はひどすぎる。誰も異議を唱えられないのならばと、最愛の人を助けるべく立ち上がる存在がいた。




『 きっと、あなたが想う以上 』

それを夫に言い渡されたのは、数十日前のことだった。どうやら、今回私は夫と共に国王陛下主催のパーティーへ招待されているらしい。夫へ恥をかかさないよう、必死に気を張る私へ思わぬ出会いが訪れる。……それは予想もつかない事だったけれど、幸せな生活の訪れだった。※シリアス皆無。




『 契約不履行 』

―――彼はよく、私との約束を破る。

昔に数十日遊んだだけである、初めての友達から言われた言葉は素直に言うことを聞く癖に、どうしてあれこれ世話を焼いている彼女である私の言葉は耳に入らないのか。くだらない嫉妬に悩みつつも彼を見捨てることが出来ないのは、何を隠そうその『男の子』は私だからなのだ。




『 とある新婚さんのエトセトラ 』

我らが主様は、とても尊く唯一無二の存在である。これまで「おい」とさえ仰れば茶をご用意し、また「おい」と言われれば暑くないよう団扇で仰いで差し上げた。そんな生活に慣れた御方が、まさか異国で……その上庶民の娘を妻とし、相手の母国で暮らそうと考えるほど夢中になるとは思わなかったというのが、部下である我々の共通の思いだ。

たとえ生活の拠点を異国へ移そうとも、主の偉大さが損なわれるわけではない。そのため、我々は主の手助けをするべく奔走する、『ある意味』刺激的な生活を送っている。※シリアス皆無。




『 浮気のいろは 』

新婚家庭に、派手にめかしこんだ少女が一人乗り込んできた。

他人事なら「お宅のご主人と愛し合っているので別れてください」なんてやってきたら、巷で人気の大人向け恋愛小説みたいとキャーキャーはしゃげただろう。―――けれど、それが真っ赤な嘘と知っていて、夫がどんな反応をするか予想できる私は、一人胃がキリキリ痛むのをこらえるほかなかった。




『 双子の金木犀 』

そりゃあね。生まれた時からずっと一緒にいた妹にいきなり自分より先に恋人が出来て、全くやっかんでないと言ったら嘘になる。だが……それよりも心配なのは妹のことで、自分がしているのは兄として、そこまで間違った行いではないと思うのだ。だから、俺は今日も双子の妹に成りすまし、恋人である男に勝負を挑むのだ。




『 長所 』

高校にあがってから、初めて息をのむほどの美人というのを見た。

何時もばっちり化粧をしているという女子がいるというのも驚きだったけれど、笑い方や振る舞いまでどこか他の子と違って見えて。そんな彼女にひそかに想いを寄せていた俺は、今日もやってくるであろう彼女を待つ。……何気ない普段の習慣だったのに、真面目な委員長が思わぬ形でぶち壊してくださった。

この何とも言えない怒りをどこにぶつければ良いのか、俺は未だに答えを見つけられていない。




『 ドラゴン退治 』

これまでに何度となく、世界で『勇者』と呼ばれる存在が現れては消えて行った。畑を荒らし、村や街を攻撃するドラゴンを倒すことは、王国の騎士たちにも難しく。ドラゴンが暴れるのに便乗して、好き勝手をくりかえす盗賊なども取り締まらなければいけない国には、さほど避ける人手もなかった。

そんななか腕自慢の者たちが、国の用意した報奨金目当てに、ぞくぞくとドラゴン退治へ旅立っていく。―――私はまさか、その中に自分の大事な人まで含まれることになるだなんて、想像もしていなかった。




『 波に謳う 』

世間でいう所の、結婚適齢期をこえた一人の男がいた。

本職である漁師としての腕はまずまずで、最近では引退した父親よりも稼ぎをよくしようと、遠出することも珍しくはない。一時は娼館通いなんてして両親を心配させていたが、近頃は仕事ばかりの息子に不安を覚えて、「孫の顔が見たい」なんて言い出す始末。これは、数年がかりで初志貫徹する男の話である。




『 四角四面 』

人の恋路なんてものは、興味もないし巻き込まれるなんて冗談じゃない。

そう思って生きてきたし、同じ生徒会の人間であり、憎っきライバルである白木がいなければ、こんな風にかかわることすらなかったはずだ。そう考えれば、より白木の存在が腹立たしく思えるし、あいつに振り回される女どもに同情的にもなるってもんだ。いくら同じ生徒会メンバーで、いざという時は頼もしい仲間だと言え、こいつのやり方はどうも納得いかないのだ。これは、俺とは全く関係ないはずのハーレムと、それに振り回される周囲の涙なしには語れない話だ。




『 異端児 』

「怪しい人に近づいちゃいけません」なんて、ずいぶん前に振袖を着た身としては、いまさら言われるまでもないと考えていた。何せ、いくら都会とは言えなくったって、おかしい人は山ほどいるし、変質者だっていろいろ見てきた。でも、まさか自宅の敷地内で見ることになると思わなかった私は、知らず混乱していたようだ。……少なくとも、こんな異文化交流、したいと思ったことは一度もなかったのに。※シリアス皆無。




『 遠距離恋愛   前、後編 』

距離を表す単位も、あまりに遠すぎると光を用いられる。

何億光年なんて、天文学的な数字に思いを馳せるのなんて、研究職を諦めればもう終わりだと思っていたけど違ったらしい。技術や科学は21世紀からくらべれば、目まぐるしく発展したけれど、未だにどうしても越えられないラインというものはあるもので。そんなラインを越えようと未知の領域へ足を踏み入れるのが、まさか自分の恋人だなんて子どもの頃は想像もしていなかった。私たちは、光すらもたやすく越えられないだけの距離を、どうして離れてしまったのだろう。




『 機械仕掛けの貴方と 』

一人暮らしにも慣れて、ちょっと特殊な家に暮らしているが故の不満はあれど、特に不便もなく暮らしていた。そんな中に、ある日分不相応なハイテクな存在が放り込まれてしまったのだから、戸惑うのも無理からぬことだろう。花々に囲まれたのんびりとした生活に混じった機械音は、予想以上に心地よかった。




『 左手 』

右手、左手、珍しい例でいえば、両方の手を使う人。「利き手はどちらか?」なんて、このご時世ではたいして重視されない場面の方が多い。それでも、どうしても意識せずにはいられないということは、現代日本が多数派に合わせて、色々あつらえれているからなのだろう。これは間抜けな私が、些細なことで癇癪を起して恋人とけんかし、仲直りする話。




『 建設的な自傷行為 』

それは、必要に迫られた致し方のない行為だった。

今日は鳥のフン、昨日は出血。一昨日は赤っ恥をかいたとくれば、そろそろ自らの不幸も堂に入ってきたというものだろう。そろそろここらでもう一勝負と行きたいところだが、恐ろしい幼なじみの警告に縮み上がっている時点で、決意が足らないだろう。これは、少し変わった少年少女の話。




『 菫の香りをひた隠し 』

たとえば、お爺様のお若い頃ではまず考えられなかった、すみれの香水も今となっては物珍しいものではなくなった。お母様は「こんな高級品を持っているというだけで誇らしかったのに」とおっしゃるけれど、私のように平素から身にまとっている者は少ない。服装だってそうだ。一昔前までは手の届かなかった着物なんかも、めかしこむと言えば洋装と言われて久しい。自分の恋心を自覚すると、はたして自分は過去を愛おしんでいるのか、未来へ歩みを進めようとしているのか分からなくなる時がある。

すみれの爽やかな甘みのある香りに捕らわれた私は、一向に思いきれない気持ちのまま、想い人と向き合っていた。




『 誤送信 』

世でいうという所のケンカップルな俺たちだが、高校の中ではそれなりに長い付き合いのカップルと言えるだろう。言いたいことはお互いに言い合うし、忙しくてもデートは欠かさない。……だけど、つい数日前に大きな喧嘩をして以来、まともに会話すらしてくれなくなってしまった。そんな俺たちが仲直りをするのには、意外なきっかけがあったのだ。




『 羨望による自己の欠落 』

いっそ、『こころ』をなくしてしまった方が、楽なのではないかと思えるような恋をした。10年も前なら、むしろ喉から手が出るほど求めていただろう心臓の鼓動も、少しの事柄でこんなにも捉え方は変わってしまうのかと驚きを隠せない。深い溝に落ちるような、どろどろと絡み付く恐怖から逃れたい一心で、俺は救いを求めて闇へと手を伸ばす。




『 間男 』

人をクローゼットに隠そうだなんて、無理があるだろうと笑っていた頃が懐かしい。

追い込まれると人は、突拍子のないことをするものらしい。「ちょっ、早く入りなさったら!」「いたたたっ、髪を引っ張るなっ」―――何の面白味もない普段通りの生活が、来訪を告げる音によりもろくも崩れ去った。※シリアス皆無




『 絵本の中の、王子様 』

恋に不器用な男子生徒は、必死に自分だけのお姫様を求め続けていた。

※シリアス皆無




『 閉じ込めた、深い夜空 』

砂に埋もれたとある国で、私は無理やり一人の男と結婚させられた。

憎くて仕方がないあの男の中で、唯一好きだったところがある。それは、財力や権力なんかでもなくて、瞳だった。なぜか、金に五月蠅く自分勝手なはずの男は、子どものように澄んだ綺麗な瞳を持っていた。……そんな瞳で見つめられた私は、仕方がないから最後の願いを叶えてやることにしたのだ。




『 胡蝶の夢 』

人の一生は動物のそれよりは長いですが、人生をせわしなく過ごす我々のなかには頷かない者も多くいるでしょう。何かを成したいと思っていれば尚のことで、突然終わりを迎えたとしたら、何かに縋り付きたくなる気持ちも分かります。……ですが、やりかたは選ばなければなりません。いくら良心からの行動とはいえ、人に迷惑をかけてよいなんて訳がないでしょう。さぁ、これは様々な良心が絡み合った末のお話。




『 鏡の魔女 』

子どもの頃から、鏡はさほど好きじゃなかった。

物語に出てくるようなお姫様になれば、間違いなく選ばれるようなタイプではないし。何時だって意地悪な鏡が映しだすのは、腫れぼったい目元や丸い顔だった。けれど私は、一つの魔法によりそんな自分を変えることに成功した……はずだった。彼が現れるまでは。




『 縁遠い玉座と、求婚者は甘め 』

一息に『馬鹿王子』といっても、様々な種類があると思う。執務のセンスもやる気もないタイプに、金遣いの荒いタイプ。ちょっと他国を覗いてみれば、女にだらしないタイプは跡継ぎ争いが大変そうだし、喧嘩っ早くて他国を侵略するのが好きなタイプもいる。うちの王子はと言えばそのどれとも違う、ちょっと面倒なタイプの王子だった。

そんな馬鹿王子に振り回された、脇役以下の私をだれか助けてください。




『 懐古すべき過去もない者たち 』

例え息が止まる瞬間ですら、愛してる。

それが作られた感情であっても構わないほど、この温かくも穏やかな空間は俺にとって、何物にも代えがたいものだった。誰に馬鹿にされようとも、関係ない。いつか君が俺を見て再び微笑んでくれる瞬間のためなら、俺は何だってできる気がした。




~酉年の章~


『 鬼 』

それは、今より昔の別世界。

人ならずものである、『あやかし』と人とがつかず離れず共存していた時代。ひとつの鬼と呼ばれる存在が、一人の人間に出逢ったことで運命を変える。そんな、つまらぬ粗末な出来事の(はなし)。「なぁ、鬼とは人を食らうものだったのか?」そんな鬼の問いに返されたのは、予想もしない言葉だった。




『 剣を携えし盾 』

「貴方はこれから、私の剣であり盾でもあるのね」そう、嬉しそうに微笑んだお嬢様の面影はない。俺が護衛しているお嬢様は、気付けば昔の可愛らしい面影なんて零になって、気に入らない奴がいれば挑発しまくる、厄介な主人になっていた。しかも最近は俺がいない時にばかり恨みを買ってくるのだから、どうしたものかと悩みは尽きないのだった。




『 颯爽と駆け抜ける、その横で 』

馬の早駆けと、白い建物が自慢の街。港が近いし、近頃は隣国との関係も良好だから平和に過ごせるお勧めの場所。口さがない者などは、「面白みのない国だ」などと悪態着くけれど、そんな国の片隅で私は恋に落ちた。

馬より早く駆け抜けた鼓動は、騎士様にも止められない。




『 満ちた月に啼く   前、後編 』

時々……黄金の瞳に見つめられている夢を見る。

それは何年も変わることなく続く夢で、平凡な私にとって唯一と言っていい奇特な個所かしょだった。―――そう思っていたのに。突然現れた不思議な生き物によって、私は心揺らがされ、人生を変えられることになった。まさか、真っ赤になった仏頂面を「可愛い」と思えるようになるとは、思いもしなかった。




『 婚前契約書 』

法的な根拠など皆無の、今にして思えばおままごとのような形だけのものだった。

けれど、そこには確かに想いと気遣いがあって、お互いがお互いにとってどれだけ大切で、特別な存在なのかと確認する一種の儀式のようだ。つい指で軌跡をなぞると、今も鮮やかに彼女との記憶がよみがえってくる。




『 昼夜逆転 』

人間と獣人が共存するとある国。

今でこそお互い歩み寄りを見せているが、それはただ過去の過ちを繰り返さないようにという恐怖心によるものだった。人間は、獣人の持つあらゆる力と蹂躙された過去に怯え。獣人は、人間のあまりのか弱さと、過去の悲劇を再び繰り返さないようにと。互いに歩み寄るほかはなかった。互いに違った恐怖心を抱きながら、惹かれあう恋人同士の日常。※シリアス皆無……ではないですが、薄目です。




『 昼夜逆転 ~過去の記憶~   前、後編 』

これは、まだ人間と獣人がいがみ合っていた時代のこと。

互いに粗を捜し、決して分かり合えないと思っていたのに、それは起こった。一人の獣人が人間の王女を求め、唯一と定めたが故の悲劇。数多の悲しみと流された血の上で、束の間幸せな夢を見る。




『 カフェの常連さん 』

コポコポという音が、静かなジャズを邪魔しない程度に奏でられている。

利益面からすれば不安になるが、姦しい声に煩わされることなく、コーヒーの香りを全身に染み渡らせる瞬間がたまらなく好きだ。これまでになく心地よく落ち着く瞬間は、たった一人の少女によって崩されることになった。




『 恐怖の軍曹 』

例えばそれが私ではなかった場合、もしかしたらもっと効率よく物事がうまく回るのではないかという妄執に捕らわれた。始めは妄執だと笑っていられたのに、徐々に息子の頭を撫でる回数が増え、仕舞には貴族らしからぬ抱擁の回数が増えていた。

これは非常に由々しき事態だ。子どもに触れて不安を紛らわせようだなんて、庶民がやりそうなことだと昔は笑っていたのに。この小さな手と、それより小さな命を抱えて、私はもうすぐこの家を出る。




『 仮面夫婦 』

家に帰ると、気の利く家令とにこやかな家族に出迎えられる。そんな日々にあこがれる時期も、確かにあった。それが今では、立派に『貴族らしい』夫となり、よそにいい人をもっている。

別に、妻を恨んでいるわけではないし、悪妻なわけでもない。ただ物足りない気持ちを抱えている俺は、父親とは違い愛妻家とはいえないだろう。ただ、ある出来事をきっかけに、俺は長い間持ち続けていた答えに行き当たったのだった。




『 流罪 』

吟遊詩人なんて、まず儲からないその日暮らしの生活だ。

そんな生活を15のころから続けているが、親父やそのまた親父の代から吟遊詩人だったことから、親父たちには応援され母親には呆れられていた。故郷に帰ることはめったにないが、人々に色々な情報を届ける役割も担う吟遊詩人に、誇りをもってやってきた。それが、まさかこんな出来事に出くわすとは、思ってもみなかった。




『 異種間恋愛 』

なんてことかしら、まさかこんなことが起こるだなんて。

この国では私が生まれるずっと前から、ドラゴンと呼ばれる巨大な生き物に脅かされてきた。城下町の周りに巨大な砦をつくろうとも、ドラゴンの住処から遠のこうともそれは変わらない。一国の姫として、被害を憂いながら大した打開策もなく、外交から父王と帰ってきたときのことだった。空からいきなり現れたドラゴンは、私の人生を百八十度変えてしまった。―――そんな私の、子孫たちの話。※シリアス皆無




『 ヒーローの休息 』

ある日、彼女の飼い猫がいなくなった。日々、大学の合間に探し回る彼女が、徐々におかしくなっていくのがわかる。不安に駆られ必死に探し出そうとするけれど、俺に待っていたのは、あまりに予想外な結末だった。猫用のえさを肌身離さず持ち続ける、ある大学生男子の話。




『 彼と私をしばる呪い   前、後編 』

世の中で、魔術は当たり前のように受け入れられているというのに、知らずその身に蓄えられた祈りや呪いを払うという行為は正しく認知されていない。だから、その身に害をなす『魔術払い師』という職業は、他人の幸福と引き換えに身に黒いものを抱えると思われ、差別されている。魔術払いをした後に、体に黒い痣が浮き出るのも理由の一つかもしれないけれど、高尚なる信念を持って始めたわけではない私には、なかなか痛いものがある。―――たった一人を守るために、私は戦い続ける。




『 暴君彼氏   前、後編 』

私の彼氏とは、小学生の頃からの付き合いだ。

高校生らしく、派手なことはできないけれど、順調に愛をはぐくんでいると自負している。ちょっと彼の目が鋭く、口の悪さで心配されることもあるけれど、バイト先ではしっかりしているし、「下手な新卒雇うより、よっぽど動ける」なんて社長さんから太鼓判をもらっている。そんな、普通な私とちょっと困った彼の物語。



『 裏切りのダリア 』

裏世界の美しき女帝は、誰にでも知られているというのに、彼女の名前を口にするのを許されている者は数少ない。

移り気な彼女は、昨日までの味方すら、必要とあればたやすく切り捨て、敵の手すら容易くとる。華麗で優雅で、気品漂う。女性として様々なものを手にしているという彼女は、これまでたった一つの目標のため国を掌握したらしい。恐ろしく復讐にとらわれた、一輪の花の話。




『 クリスタルの想い 』

だんだん肌寒くなってきた、まだかろうじて緑が綺麗なとある日のこと。私は不思議な存在と出逢った。苦労してようやく就いた職に疑問を覚えながら、だましだまし生活していた。知らず無理を重ねていたのだろう。本来なら忌避するべき存在との逢瀬を、心待ちにするようになっていた。『待った?』なんて恋人同士みたいな会話をしてみたりして、ドキドキしながら、姿の見えない彼に惹かれていくのだった。文通未満の二人が、恋を実らせるまでの話。




『 過ぎ去りし人 』

光が渦をなすビル群の上で、とある男女が町を見下ろす。「夜景がきれいに見えるだなんて、いつぶりだろう……」何とも物悲しい言葉に思えるが、その内心には全く違う熱があった。

彼女は恋人と別れたばかりで、そんな所をのこのこと呼び出されて出てきたからには下心がある。俺は、彼女の心が少しでも早く癒えるように、協力を惜しまないことにしたのだった。※シリアス皆無。




『 あのね?   前、後編 』

まだ花も恥じらう乙女だったころ、私は村の人から『歌うたいの巫女』なんて名前で呼ばれていた。故郷の村は自然豊かなことだけが誇りの場所で、まともな娯楽らしいものとも縁がない。そこで私の歌は重宝され、目を付けた村長にさまざまな制限をかけられるようになる。冠婚葬祭をはじめとした節目ではみんなのために歌をうたい、言われるがまま生きていた私に、とうとう山神様の元へ行くように命が下された。事実上の生贄と分かりつつも、なすすべのない私。最後に少しでも悪あがきをしようとしたところ、運命の出会いが訪れた。




『 私とあなたの、みえない差 』

最近、かちりと鍵を閉める音で目が覚める。まるで『何か』を封じるようなその音が、何を示しているのかは分からない。ただ一つ確かなのは、私にはその行為が必要だという事だけ―――。子どもの私相手にも優しいおにいちゃんは、私のことを『もも』と呼ぶ。パパの仕事関係の知り合いだと紹介されたのに、おにいちゃんがパパとお仕事の話をしているのを聞いたことがない。この、ちょっと不真面目で口うるさいおにいちゃんと私の、日常はずっと続いていくものだと思っていた。




『 失恋未満   前、後編 』

時節柄、遅くなった卒業パーティー。これまでは縁のないホテルで行われ、ちょっと奮発しておめかしもした。逢うか逢わないか分からない人のために、何をやっているんだろうと思いもするけど止められなかった。天にはどちらの願いが叶えられたのか分からないけれど、逢えないだろうとなかば諦めていたその人は目の前に現れた。「褒めてやってるのに、素直じゃないなぁルルちゃんは」なんて、嫌いな下の名前でにやにや笑ってくるこんな不良教師のこと、どうしていまだに忘れられないのだろう。マスク越しにもその顔はたやすく浮かんできて、自分の記憶力の良さに大概呆れてしまう。ねぇ先生。「成人したらまたおいで」って、言ってくれたの覚えてる?




『 八仙花~はっせんか~ 』

雨が降りそうだしそうな、重い雲の立ち込める日のことでした。

飄々とした年上の婚約者は、かすかな雨のにおいも着物への泥はねも気にすることなく、うちを外へと誘います。家の手伝いだってあるのに、「たまには息抜きしなければいけませんよ」なんて、番傘片手にすたすたと先を行ってしまいました。家のため家族のために働くのは当たり前のことのはずなのに、彼のこうした何気ないふるまいは、私を欲深くさせてしまうのです。




『 千年狂犬   前、後編 』

1001年待ち続けたとされる狂犬の騎士と言えば、この国では知らない者はいない。

今よりも戦いが生活に近かった時代、周辺諸国にまで名をとどろかせていたとある騎士が居た。その騎士は真っ黒な髪と地獄の業火の様に紅い瞳を持っていたとされ、ひとたび剣を持つと易々と敵の首を飛ばしたという。「次は、後れを取ったりいたしません。必ず守り切ってお見せします」その言葉の真意とは―――。




『 夢の叶い方 』

王都の一等地に店を構えている花屋で、とある少女が小さな夢を失いかけていた。

昔からとある伯爵家に懇意にしていただいていることで、経営状態も安定している職場だ。ここで雇われたのは、少女にとって二度とない幸運だと、精一杯尽くし働いた。

それが崩れたのは、本当にささいなきっかけだった。




『 合図 』

たいして名産物もなく、観光名所もないとある県で生まれた俺が唯一誇れるところと言えば、ちょっとかわいい幼馴染の存在だ。一時期疎遠になりかけたこともあったけれど、高校に進学してもふらりと俺の部屋に訪れては、漫画を選んで帰っていく。こんな関係はいつまで続くだろうと考えていた俺は、その後とんでもなく驚かされることになるとは思いもしなかった。




『 毒花の姫 』

鋭く頬を叩く音がして、ようやく何が起きたのか理解した。「―――主人のドレスを汚すなど新米でもしないことをして、恥を知りなさい」そう叱責されたのは、私をかばってくれた彼だった。毒花である『クレマチスの姫』と噂される威圧的な伯爵令嬢と、少女の苦く散った初恋の話。



『 毒花の姫~毒花が勝ち取った自由~ 』

鮮やかな花を咲かせるクレマチスは、「つる性植物の女王」と呼ばれている。

そんな花の愛称をつけられた私は、愛らしさからではなく身に含んだ毒性の強さを指摘されているのだと知っている。そんな私に付き従う執事は、周囲からすれば同情を禁じえず。小娘にまで目を付けられる始末。本当の自由を得るために、私たちは戦い抜く。




『 馬鹿と紙一重なもの 』

日本に四季があることは、知識として知っていた。

けれどそれを、風や香り、温度で識るということは彼女に逢って学んだ。少しくらい計算が早くても、彼女の情緒には追い付けない。結婚して早数年。僕が愛しい妻と経験した初めての夫婦喧嘩は、予想以上の大げんかとなった。




『 ほんのちょっとの、出来心 』

これだけ言わせてほしいのだけれど、私はそれなりに優秀な魔術師だ。

高給取りだし、同期と比べても呑み込みが早いと褒められ続けてきた。……そう、とある後輩と魔術払い師の少女が現れるまでは。

今回のことは、「ただの出来心だったんです」そんな風に言うには、あまりに与えた影響が大きすぎた。反省しているかと言われたら、反省している。ただ言い訳させてもらえるなら、ストレスがたまっていたのだ。優秀過ぎる後輩に、冷静かつ淡白な同僚。これまで、それなりにできると自負していた私のプライドは、ズタボロに傷つけられた。これは、とある天才君たちのカップルに振り回された、悲しき魔術師の話。




『 はいかぶり 』

とある男爵家の一人娘として、私は幸せに暮らしていた。

けれどそれも、お義母様と二人の義姉がやってきてから、生活はガラリと変わった。唯一の味方である彼の手を取ることは、私にはできない。自らの『恋心』すら利用した私には、そんな資格はありはしないのだ。

たった一歩踏み出す勇気を持てたなら、私に奇跡まほうはかかるのだろうか?




『 入店拒否 』

迷惑客の入店お断りなんて、至極当たり前のことだと思う。

けれど私の話は、そんな簡単なことではない。古く神官だった私は、同年代の男性よりも、粗野な言動などしていないと誓える。悪戯や不慮の事故で怒りを買ったわけでもない……と、思いたい。

多神教をうたうこの国には、様々な男神や女神が実際に『存在』している。そんな世界の中でも、私はきっと何度生まれ変わっても、同じ女神を心から崇め続ける。例えどんなに、遠い存在だとしても。




『 食いしん坊 』

料理部の私は、食べ盛りの女子高生らしく、時には大量のおにぎりや唐揚げ。時々賄賂用の可愛さ重視のお菓子なんかを作りながら、日々を満喫していた。

そんな私の平凡な日々は、ある日突然終わりを迎えた。自分の意思に反して、帰路とは真逆に動く足。普段はもっと人通りがあるはずなのに、遠目に人影が少し見える程度で誰かとすれ違うこともない。明らかにおかしいと軽く走りだした所で、唐突に声をかけられ気を失った。そんな私を起こしたのは、何とも恐ろしい鬼だった。




『 収穫祭 』

街でしがない一軒の店を営んでいる私は、大きな三日月をバッグにジョギングしていた。

さわやかな気分で家へ帰った私を待っていたのは、『何者か』を口にしていた愛猫だった。

「おい、人をじろじろ見ている暇があったら、そのタオルでこのよだれを拭いてくれ!」「いやですよ、このタオル気に入っているんですから」私の非凡な日常の中でも、わりと平凡な出来事。



『 夢 』

この世には科学や常識では説明しきれない、不思議なことが起こる。

きっと『予知夢』もその中の一つだろう。とある機関が、その不可思議な力を利用して、世の中に役立てようとした。そんな、ともすれば正義の味方みたいな組織に、俺は所属している。たとえ素質のある子どもたちをあつめて、仕事のため生活で様々な制約をかけられるなんて言う、字面だけ見れば悪の組織でしかない所でも。同僚に言わせれば、恋だってできるし、大好きなLサイズのチョコレートドリンクだって飲める。俺はそんなささやかな幸せを満喫している同僚を、憎からず思っていたりする。人の未来は見える癖に、自分の明るい未来はなかなか見えてこない。これはそんな悲しきヒーローのお話だ。









ジャンルなどに分けれられたら一番ですが、出来そうにないので投稿年ごとに章分けしました。

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