8話目 4月13日 小さな教師
4月13日続き1
和佳、依知留はもしかしたら天才かも知れない。
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あのあと依知留を口止めするために4、5回ブルーフォールをするはめになった。和佳も手紙を書いてくれていたらしいが、前兆も何も無くこちらに来てしまい、手紙を受け取り損ねたのだという。残念極まりない。
また、小石川曰く大体1回の召喚ごとに3分間ぐらいエネルギーの許容量が増えるらしいが、前回は何分間こちらに滞在したのか正確にわからなかったため、今回はきっちり15分測りデコピンをした。
さて、本来なら、すぐにでも小石川を介して、直接、面と向かって相手の目的を問いただしたかった。しかし、
「あたし、人に見られたくない……だってあたしはあなただけのものだから」
と言う事らしい。死ねばいいと思う。
しかしながら小石川曰く、彼らはろくにこの魔法の詳細を知らず、愛し役と愛され役という構造すら知らないらしい。
「愛し役の方は単なる人間だから、幽閉するのが一番楽なのよねぇ」
「幽閉されたら、もう元の世界とか戻れるわけないわよねぇ。探ることすらできないんだし」
「きっと、あの可愛い女の子は、幽閉されたパパを救うために無理矢理頑張らさせられるのよねぇ……ああ、かわいそう」
つまりは、小石川の存在を知られ、彼?(彼女?)の口から魔法の詳細を向こうに告げた時点で僕らの未来は真っ暗という事だ。さすがにそれは避けなければ。別に語学は苦手ではないけども、1日2日でなんとかなるようなもんではないしなぁ……小石川は小さいといっても20㎝。さすがに隠し持てる大きさではない。
しばらくの間は文通で利便をはかるしかないか。面と向かわなければ小石川の事はばれないだろう。
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大した内容は書かなかった。
昨日の暴力行為を詫び、あらためて簡単な自己紹介をし、なぜ文が書けるかという理由を適当にでっち上げ、会話がうまくできず文にしても使える語数も少なく、またこちらの世界の状況も知りたいので、そういった面での教育係が欲しいという旨を伝えた。もちろん相手方が何を僕に求めているのかも聞いた。
しかし、どうしてだろう?
目の前に居るのは、小さな男の子だ。
何を間違えた。何と何を間違えた。
「……」
「……」
お互い無言だ。いやどうせ話しても分からないしね。依知留と同じくらいの年齢かな?いやちょっと上っぽいな。7,8歳というところだろう。金髪碧眼の良い所のおぼっちゃまといった格好だ。その少年が大量の本を抱えている。
「……」
「……」
いやどうしようか‥このまま無言でもな。
「……」
「……!!」
とりあえず、ニコッと笑ってみた。逃げ出した。もちろん、その男の子が。抱えていた本は部屋にばらまかれた。
一瞬呆然とするも、このままではどうも次のステップに進めない。一刻も早く元の世界に帰る手段を見つけなければならないのだ、そう判断して、逃げ出した男の子を捕まえるべく猛ダッシュした。
いくら子どもがすばしっこいといえど、所詮は体格差がモノを言う、少年を捕まえるまで数分もかからなかった。しかし、これからどうする?おそらくこの少年が僕の教育係なんだろうけど……。今も僕の腕の中から何とか抜け出そうともがいている少年を見て途方に暮れる。
「パパーきたよー」
おぉ、依知留だ。やっぱり前兆も何もないんだな。前回は、あっちにいってから3時間後に来た、今回は10時間後。今の所、規則性は見当たらない。
ってしまった! 依知留を見て気が緩んだ瞬間、腕の中の少年の抜け出し、っと逃げない?まぁ、今逃げないのは助かるのだけど、少年の動きを見て戸惑った。
少年は、依知留を背にして、僕の前に立ち向かってきたのだ。これは何の冗談だ?
「△rsfei◎×sfjj!!!」
いや分からないから。依知留もこっちに来ようとするも少年に遮られる。
「ちょっと! じゃましないで」
「&&utewksoip!!」
少年が何かを依知留に伝えようとするも、まぁ分かるはずがない。
依知留に近づこうと少年の右を抜こうとする。
遮られた。
依知留に触れようとして手を伸ばす。
はたかれた。
依知留が少年の股下からスライディングをしかけた!!
少年は股をとじて遮った! しかし、スライディングが少年の急所にクリーンヒット! 痛がる少年の横をすり抜けて依知留がこっちに飛びついてきた。あれは…同じ男として同情する。
「パパーてがみもってきた!」
「おぉー良くやったな。依知留はえらいなー」
手紙を受け取る。ちょっと今は騒がしいから後で読むか。おっ少年が復活してこっちに向かって‥‥
近づいて
近づいて
勢いよく体当たりを仕掛けてきた。が、さすがにこれだけ小さい少年の体当たりじゃびくりともしない。
「jiosrfjh&%$!」
少年はなおも依知留に呼び掛ける。
「パパに何するのよ!」
依知留も抗議する。
「j###”foie!!」
「なにいってるのか、わからない!パパいこっ!」
そういって僕の手を掴み、部屋に向かう依知留。次のステップに向かうのも大事だが、親子の貴重な時間を犠牲にするつもりはない。
「jjfo’#」)&’%&%’!!!!!!」
少年は尚も喚きながら、僕たちについてきた。
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「あーもうこんなに散らかして。パパはきちょうめんなんだから、きっとあなたのしわざね! めっ!」
依知留は部屋に散らばった本、おそらく僕に言葉を教えるための本だろう、を指して少年に言う。
「jfowfkjhai…」
どうやら何か伝わったようだ。申し訳なさそうな顔をして少年は俯いた。
とりあえず手持ち無沙汰になったので、3人で散らばった本を片づけた。
「あーこの本おもしろそう!パパ読んで読んで」
どうやら少年が持ってきた本はどうやらほとんど絵本だったようだ。まぁお互い言葉がよくわからないんだ。簡単な絵本から徐々に言葉を学ばせてくれるといったところだろう。
依知留が一冊持って僕に手渡す。
「ちょっと僕には読めないな……うーん。なんとなくはわかるんだけど」
「kkkkk」
少年が得意げになってその本を取って、広げる。読んでくれるんだろう。
「oiw:32nfowklw:」
相変わらず良くわからないが、絵を見ながら少年の言葉を聞くとなんとなく意味がわかってくる。ゲルマン語群……ではないな。ロマンス語群に近い。そこまで詳しいわけではないのだが、どちらかというと響きはフランス語に近いな…っとそろそろ時間か。ちょっと難しそうな顔をしているが熱心に話を聴いている依知留の額にそっとデコピンをした。
「いてっ…パパひどいよーなんで毎回デコピンなんて…ってあれ…わかる、わかるよ、パパー!」
何が分かるの?どうした?僕は何も分からないよ?一体全体なんなのさ。
「jioser3jp2irpwイチルsrjo」
依知留がわけのわからない言葉で話す。辛うじてイチルだけは分かった。
「!!!jioser3jp2irpwタオsrjo」
少年が驚いたように返す。さっきの依知留の発言から察するにタオがこの子の名前か…って依知留、お前凄くないか!?
「依知留、凄いな。どうして話せるようになったんだ?」
「わかんない。なんか、あたまの中がすっきりしたかんじ、んー早く続き続き jierow!」
「joseru02,eo3(‘」
頭がすっきりって……依知留自身はもう気にも止めてないようで少年を急かしたようだ。絵本の続きが読まれていく。
読み終わるちょっと前に依知留が消えた事に少年は驚いていたが、小石川に用意してもらった文を見せると大人しくなった。
「jifheowl!?」
いやだから分からないって。
………
「ん~可愛い男の子希望! って書いたんだけど、まさか本当に小さな子が来るとわね~
まなぶん残念」
とりあえず小石川をゴミ箱に捨てることにした。