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7話目 4月13日 伝承と手紙

4月13日


 最初に考えたのは、あちらの言語が分かる事を相手に知らせずに、その利点を生かし、一つ一つ情報収集を図るっていう方法。

 きっとそれが一番安全でかつ有効的な手段なんだろうね。


 でも、それじゃ遠回りなんだよ。急がば回れ?例え効率的だと頭で分かってても心はついていかないんだ。


 和佳、君と新しい家族に一刻も早く会いたい



 そのためには、まどろっこしいことなんてこと何一つしたくない。石橋を叩いて渡るなんてことはできない。


 だから


 一刻も早く相手の目的を知り、僕が何を必要としているかを相手に伝える事。


 まずはそれを目標にしたよ。


--------------------------------------------------------








ああ怖い

ああ醜い


未開の地から蛮族が押し寄せて


小は大に脅かされ


大は大で中から腐敗


誰もが終わりと絶望し

救いなどとうに消えたと思われた





そんな時


突如現れた百の異界人


ある一人は万の敵を武で打ち倒し


ある一人は万の敵を知で姦計に陥れ


ある一人は万の敵を勇によって味方にした




武神知帝勇者


彼らの呼び名は様々だ

彼らの力は様々だ


しかし彼らの誰もが言う


愛ゆえに我らは戦う




かくて世界は救われた


太平の世が築かれた


大国は大国故の矜持を持ち


小国は独自の文化を熟成し


蛮族は文明に開花した





ああ楽しい

ああ美しい


平和は300年経て今なお続く


忘れはしない

忘れてはいけない


彼らの雄姿を

彼らの愛を








------------------------------------------------------


「…のはずなんですけどねぇ」

 街中でも歌われている伝承を思い出し、ぼやりとつぶやく。


 魔王を部屋に案内した後は、怪我の手当てや混乱で忙しかった。

 まぁ、大した怪我をしたものは居なかったんですがね。


 殴られている姿は激しく見えたが、急所は狙っていなかったようで、あとに残るような大怪我を負ったものはいない。


 ただ恐怖を頭に植えつけられたようで、その日はもはや誰もが使い物にならなかった。



 今はその翌日、ある程度みな落ち着き、緊急会議が開かれている。

 

「セータ内閣府長、魔王を召喚してしまった責任をどう取るのだ?」


 さっそく一人の議員が激昂して私に問いかける。さてどう切り抜けましょうか。


「魔王?魔王ってなんのことでしょうか?私たちが召喚したのは異世界人ですよ?

ねぇ…確かに日本語らしきものを話してましたし」


 そう、それがまずおかしい。彼がれっきとした異世界人であることには間違いないのだ。


「何をとぼけている!あれが魔王でなければ、いったい何なのだ」


 おそらく混乱しているのでしょうね。既に答えは言っているのに。


「いや、だから異世界人だと。そもそも何をもって魔王と言っているのですか?」


「あの恐ろしい姿をお前は忘れたというのか?」


「た・か・が、見た目の話でしょう」


「少女を投げ飛ばし、消し、我らに対し暴行を働いたのだぞ!?」


「おそらく、混乱していたのではないでしょうか?

 いきなり来たことも見たことも聞いたことすらない場所に来たのです。

 元々、多少取り乱すことは私たちの予想の範疇ではありませんでしたか?」


 相手が痺れを切らしたかのように机をどんと叩く。


「そなたの言っていることなど詭弁に過ぎぬ!

 我らの誰もが魔王の邪悪さをこの身に感じたはず。彼の者の邪悪さについては異論などありえようか!」


 感情が高まっても何も意味がない事を体をもって示してくれますね、彼は。なんて意味のない発言をするんでしょう。


「ふぅ…あなたは、私たちの一時的な判断のみで、我が国、いやこの全世界の歴史を否定するのですか?

 それこそ我々の祖先全てに対する侮辱ではないでしょうか?」


「は、何を言っている、お前の言っている事は先ほどから意味がわからぬ」


 彼はひどく興奮しているみたいですね。もはやまともな思考が働いていません。


「我々の今があるのは、半ば異世界人のおかげでもあるんですよ。そして彼らを召喚したのは我が国です。彼を否定するとは異世界人を、それを召喚した私たちを、そして異世界人が救ったこの世界をも否定する事にもつながるのですよ?」


 さすがに気がついたようですね。相手の動揺が手に取るように分かる。


「だが・・・だが・・・・我々が事実召喚したのは魔王だった…」

 苦しげにうめくように呟く。


「だから、それが早計なんですよ。彼が魔王なんて所詮第一印象の判断でしかありません」

 さてと、そろそろ決めに掛かりますか。私のかっこいい姿をあなた達に魅せつけてやりましょう。


「まずは・・・・っていい所に!」




 ドアをどんどんと叩く音が会議室に響いた。



「すいません!異世界人から手紙を届けるようにと…」

 なっ…いや異世界人は頭が良くないのですかね。私たちが彼らの言語を理解できないという事がまだ分かっていないのですか…。


「そんなモノ持ってきても無駄であろう。魔っ…くっいや異世界人が我らの言語を書けるわけがないのだから」

 おっ、さきほどの議員はようやく彼を異世界人と認めたみたいですね。安心しました。

 多少、緊急事態に弱くても積極性のある議員は嫌いではありません。

 かなり多くの議員が昨日の恐慌から抜けきっていないせいか、ろくに発言してませんし。


「まぁ、とりあえずこちらへ…って宛名が…」




 そうそこにはこう書いてあった。『グランデル王国の貴族様方へ』…信じられない事に私たちの言語で。

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