3話目 4月12日 ふざけた頭とふざけた本
4月12日続き2
ここまでが最初の手紙を送るまでの出来事だ。
面倒な事だし、君にも、新しい家族にも会えなくなるから、
なんとしてでも一刻も早く帰りたいのだけど、
この魔法はきっと僕と和佳と依知留だからこそ出来る事なんだろうなぁと思ったよ。
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戸惑っていた。
いや戸惑ってたよ。
いや戸惑わない人なんているのか?この状況で。
どうしてこの人たちはみんな土下座しているんだ……。
「パパーどうしてこの人たち頭を地面にこすりつけているの?」
依知留よ、違う、違うぞ。パパも騙されそうになったけど、
本当に重要なのは、この人たちが土下座していることじゃないんだ。
唐突な状況に頭を抱え込みそうになるが、それは堪え、つい先ほどまであふれていた涙をぬぐい去り、目の前の相手を睨みつける。
「なぁ、教えてくれ。どうして僕たちはここにいる?」
土下座に気を取られそうになったが、重要なのは、ここはどこで、どうして僕らがここに来たかという理由だ。
目の前の老人は震えながら、おそるおそる顔を上げた。
おそらく彼が代表者なのだろう、後ろにいる豪奢な服を着た人が偉い人で、目の前の、袖がついているワンピース形式のゆったりした青い衣を着たこの老人が、この場の作戦執行者といったところか。
ふぅ……恐れられるのは慣れているが、こんな状況で恐れられていては話が進まない。
「そんな怖がらないでくれ、僕はしがない一般市民だ、だからね」
ニコッと笑ってみる。老人の震えは止まるどころか、ついには失禁をし始めた。
…はぁ…さすがの僕も傷つくな、これは。
「ねぇねぇ、おじいさん。ここはどこなの?」
依知留、ナイスフォローだ。お前みたいな可憐な少女に声を掛けられれば誰であっても答えざるをえない。
目の前にいた老人はゆっくりと口を開く。
「ワタシニホンゴワカリマセン」
思わず蹴り飛ばしてしまった。おい、何なんだよ、この状況は。
さっき「すいませんでした!」と言ってたじゃないか。
しかしながら、日本語がわからないとは本当のようで、いつの間にかに起き上った彼らが何やら話し合っているが、そこで話されている言語は、ほとんど聞いたことがなかった。
どうしたらいいか途方に暮れていると、同じような青い衣を着た、今度は若い、人がこちらに駆け寄り、何やら本を恐る恐る差し出してくる。
受け取って表紙を見てみると、こう書いてあった。
「愛のLOVELOVEゴムパッチン魔☆法 取扱説明書」
……思わず破りそうだった。ただでさえ感情が高ぶっているのに、どうもここにいる人や物は全てにおいて僕を挑発している気がする。
いや駄目だ駄目だ。貴重な日本語だ。
愛とLOVEだと意味が同じじゃないかと間違っても突っ込んではいけない。
突っ込んだら負けだ。
ひとまず深呼吸して本を開いてみる。
<へい、Aさん! Bさん! ここにいないだろうけどCさん、おめでとう!!
不幸にもここに来たという事は、君たちの愛が本物だと証明されたんだよー!
ああでも君たち不幸だねー。うん不幸だ。だってここに来ちゃったんだもん。
愛があるからなおさら不幸だねー。御三方の不幸、心からお悔やみ申し上げます(笑)>
本を閉じた。ちょっと待て、そろそろ心労で倒れてもいいか?
(笑)とかどう考えても、僕らの事をおちょくっているだろう。
落ち着け、僕。
落ち着くんだ、僕。
現状を把握する唯一の手掛かりだ。落ち着いて読みなおせ。冷静になって、頭を働かせろ。
<AさんBさんCさんはどういう関係かな? 兄妹かな? 親子かな? それともドロドロした三角関係だったりして?
野球がうまい双子が、同い年で隣に住む幼馴染の女の子を取り合う関係だったら面白いな。
名セリフはあれだ、「甲子園に連れてって!」だな。でも途中で弟の○○が事故にあって……と>
これ、本当に手掛かりになるのか?
そんなことより途中で本を破ろうとする自分を抑えることができるか心配になってきた。
<さてと無駄話はここまでにして。まずは現状を把握してもらわないと魔法の事を伝えてもしょうがないな。
ここは異世界!
お前ら2人は呼び出された!以上!
どぅーゆーあんだーすたん?>
異世界だと……。というかもう感情を揺さぶられ過ぎて、驚きたくても驚けないな。
人が急に消える(いや正しくは僕らが一瞬でこちらに来たのか)事自体、現実では有り得ない事なのだから、
今さら「それが出来るかどうか」というのを疑ってもしょうがない。
受け入れられるかどうかは別にしても、僕らの知らない物理法則があるのだろう。
<状況が理解できた所で、
愛と勇気と友情のごむぱっちん魔法の説明をしようか。
この魔法は3人が対象となる。愛され役1人と愛する役2人から構成される3人組だね!
君らは愛で結ばれているんだ、ひゅーひゅー>
とりあえず突っ込み所は放っておいた方がいいな。きりがなさそうだ。深く決意した。
<3人っといっても愛する役1人は向こうで待機してもらうけどね。残念。
さて、この魔法の詳細を伝えたい所だけど、急いでやってもらわないといけないことがあるんだ。>
いや、急いでほしいんなら最初の無駄話を抜け。先ほどの深い決意が2秒でくじかれた。
<この世界に滞在していればいるほど、愛され役にエネルギーがたまっていくんだけど、
これは徐々に馴らしていかないといけないんだ。最初は15分くらいかな? それを過ぎると、
エネルギーが暴走して、愛され役がバーンッてなる! 大変だね!
だから今から急いでお互いにデコピンするんだ。デコピンでそのエネルギーが解き放たれるから。
本当は愛し役が愛され役にするだけでいいんだけど、
まだ、どっちが愛し役でどっちが愛され役かよくわからないからね>
余りに軽く書いているので、読み飛ばしそうだったが、焦った。
自分はともかく依知留だったら、どうなる?
急いで腕時計を見るも、ここに来たのが何時だったのかがよくわからない。
あぁ! 考えてもしょうがない!
「依知留こっちを向け、今からお前の額にデコピンする」
「え、やだやだー。パパのデコピン凄く痛いんだもん」
顔をそむけてしまう。しまった。正直にデコピンするっていうんじゃなかった。
「依知留、良い子だから、言う事聞きなさい。やさしくするから」
「むー……じゃあ、あとでブルーフォールごっこしてくれる?」
あの遊びはちょっと疲れるし、危ないんだよな。いやここで言っても仕方ない。
「ああ、わかったわかった。じゃあいくよ」
「やったー! 怖いけど、優しくしてね」
依知留、そのセリフはパパ以外に言っちゃだめだぞ。
将来を想像し、少し憂鬱になった。
ぎゅーと力強くつぶっている依知留の目を見ながら、可愛い額にやさしくデコピンする。
その瞬間、
「いたっ」
と依知留が呟いただけで何も起こらなかった。あれどうした、逆だったかな。
「なぁ依知留、ブルーフォールごっごの前にパパにもデコピンしてくれ」
「変なパパ、でもいいよ」
といって不思議そうな顔をしながら、しゃがんでいた僕の額に可愛いデコピンをしてくれる。
しかし、やはり何も起こらない。あれ?
「はやくーブルーフォールごっごー」
「あいあい、わかった、わかった。危ない遊びなんだから、1回だけだぞ」
地面に置いた僕の手のひらに依知留が足を乗せた。これ本当に危ないんだよな。
「ほれ、高い高いー」
その手を思いっきり持ち上げる。依知留はそれに合わせて上にジャンプ。そしてまた僕が落ちる寸前にキャッチするという、実に危険な遊びだ。やるたびに和佳が怒るし、僕も危ないと思っているからやらないようにしているのに……。
どうも依知留は味をしめて何度も何度もおねだりしてくる。
「あぁー楽しい! もう一回ー! お願い、パパ好きだからー」
……仕方ない、もう一回やってあげるとするか。にしても依知留は可愛すぎるな。もしかしたら将来はアイドルにでもなるんじゃないか?
そんな事を思いつつ、同じようにもう一度手のひらに依知留の足が乗り、それを僕が思いっきり持ち上げ……
その時、依知留の体が強く光った……
くっ……止まらない。依知留はジャンプした。手にさきほどの何倍もの衝撃が来たのがわかる。
さっきはせいぜい僕の身長より50㎝上ほどまでしかいかなかったが、今度は2m。僕の身長と合わせると余裕で4mを超えている。
いやっちょっとまて、その高さはさすがに危険すぎる。…どすんと、落下速度を加えて結構な重量となった依知留を受け止めた。
「大丈夫か、依知留!」
なんとか衝撃を緩和するように受け止めたが、それでも強い衝撃を受けたはずだった。
「楽しい!!!!!!!! もう一回もう一回!」
ちょっとお前ぇ……依知留が僕のズボンを何度もひっぱるが、それどころではないため、取扱説明書の続きを見る。
<エネルギーの解放は、デコピンのあと大体1分後くらい起きるかな? まぁ、よくわかんないや(笑)
あーとりあえず愛し役の方は、急いで手紙なり伝言なりなんなりを愛され役に渡した方が良いよ。
愛され役の方は、15分だとそうだなー……デコピンのあと4,5分後したら元の世界にいっちゃうから。
愛し役の方は、しばらくか永遠かどっちになるかよくわからないけど当分の間帰れないのは間違いないからねー。
あ、でも心配しないでね。愛され役はこっちの世界と君らの世界とで行き来することになるから、また会えるよ!
はいはい、時は金なり! 急ぐんだ>
さっきから急かされっぱなしだ。しかも気になるキーワードもある。永遠だと……?
ああ、もう、ストレスやら心労だかのせいで気が進まないが、大切な機会を逃すわけにはいかない。
胸ポケットにしまってある手帳とペンをとりだし、一枚破ってそれに、急ぎ和佳へ伝言を書いた。
「依知留、これ、ママに届けてくれるかな?」
何度も「ブルーフォールしてぇえええ!」とねだっていた依知留に、伝言を書いた紙を手渡した。
「うん、良いよ! あれ? でもどうやって」
依知留は笑顔で受け取ってくれるも、不思議そうな顔をする。
「依知留はもうすぐ帰れるみたいなんだ。あと……これも伝えておいて。
パパはすっごくママの事を愛してるって」
「むー依知留は依知留は?」
「ああ、もちろん、依知留の事も、」
大好きだよ、と言う前に、依知留が消えた。
なぁ…さっきからなんでこうもタイミングが最悪なんだ? 誰か教えてくれよ。
ここで書いた伝言が最初のプロローグの手紙の内容です。