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11話目 4月15日 出来の良い生徒と悪意ある視線

 4月15日

 

 久しぶりに一方的に誰かに教わるという事を体験しているけど、楽しいね。タオ君という子に教わっていて、依知留よりちょっと上くらいの年齢の割にすごく賢いんだ。まぁ、依知留はもっと賢くなると思うけど。これで依知留に好意さえ持ってなければ良いのだけど、それとなく釘を指さないと依知留の事をいやらしい目で見てくるんだ。それが許せない。


 まぁ、何にせよ、依知留は僕が絶対守るから安心してくれ。


-------------------------------------------------------------------------



 魔王は頭が良い。それは間違いなかった。1日で我が国の言語の書き取りが可能になったという話は眉唾ものだが、1日目で基本的な文法と単語を、2日目で応用的な文法と日常会話をマスターし、今日に至っては、高校入試の国語を教材にして語学を教えている。このペースであれば早ければ明日、万全を期すとしても3日で王との謁見が可能になろう。そのことをセータ内閣府長に話したら「早い、早すぎる……まだ心の準備が出来ていないのに」と乙女みたいな事を言っていた。


 そして魔王は勤勉だった。初日に渡した本を5時間ほどでこなしたしまったことはもちろんだが、それ以上に驚いたことは、今まで渡してきた教材全て、最低3回は目を通しているという事だ。難解なモノに限っては4,5回という。大量の本を多くの回数読めるという情報処理の速さも確かに凄いが、それよりも凄いと思うのは根気だ。少なくても自分であれば飽きている。

 その事についてちょっと聞いてみたら「2度目、3度目というのは頭を使わずにこなせる割りに、効果が高いんだ。本当だったらある程度時間をおいてから行った方が記憶の定着率も良くなるのだけど今回ばかりはそうも言っていられないし。まぁ、タオ君みたいにまだ幼い子はすぐに覚えられるだろうから、ここまでする必要はないんだけどね」と言っていた。幼いと言われて少しむっとしたが、もしかしたら将来お世話になるかもしれない学習法だ。素直に頷いた。


 頭が良く勤勉な生徒。兇悪な相を持っているが、その二つの性質がある生徒を見るのは楽しくてたまらない。そしてむしろ兇悪な人に指導をすることである種の優越感すら感じていた。


「タオ君、ここの文の意味がわからないのだが……」

 また、魔王と話してみると意外に礼儀正しかった。自分を幼い外見だからといって侮らず、教師として敬ってくれる。それだけでも嬉しい。


「『どんなことにも「わかりやすさ」を平気で要求する。世の中にわからないことがたくさんあることが分からなくなっている。分からない事を許容してこそ多くのモノへの理解へと繋がるのが分からないのだろうか』か、なんていうか、この文章自体が分かりにくいですね。似たような単語が多く、主語も省略されているせいで、文の繋がりも分かりづらい。えーと、まずこの単語が目的語になってまして…」

 自分の話を聞きつつ、メモを取っていく魔王。魔王はメモ魔でもあり、時折世間話のような会話でもメモに何かを書き込んでいる様子だ。見た目とは相反してひどく細かい性格なのだろう。


「パパータオ君やっほー」

 いつの間にか依知留という聖女がいた。魔王が召喚したという話だが、やはり可愛い。本当に教師役に選ばれて良かったと心の底から思う。そしてこの子もまた頭が良い。いや良すぎると言った方が正しい。自分と比べてさえそう思うのだから、将来が楽しみにもなる。こないだ急に言葉を話したこともそうだが、一を聞いて十どころか百を知っているようだ。魔王が努力型の秀才というのであれば、聖女はひらめき型の天才というところだろう。この二人を見ていると、今まで自分の事を天才だと思えていた事をひどく恥かしく感じた。

 そういえば聖女はなぜ魔王をパパと言っているのだろうか。見た目からしてとても親子とは思えないのだが。まぁ、二人揃っているならちょうどいい。


「そういえば自分は、世間一般の知識も教えるように頼まれていましたので、今日はそれについて説明しましょう。大体我が国の言語も覚えたようですし」

 思いのほか進度が速いせいか、準備はしていない。まぁ、それほど分かりやすく言わなくてもこの方たちであれば疑問があれば随時聞いてくるだろう。


「まず自分たちが居るこの国はご存じの通り、グランデル王国と言い、創国500年を誇る歴史ある国家であり、経済的にも軍事的にも世界一と言われています。

 世界の良心とも呼ばれ、途上国への支援や、諸国で紛争が起きた時には、必ずと言っていいほど仲裁に乗り出します。

 また、国そのものが大陸となっているので、グランデル大陸とも呼ばれています」

 熱心にメモを取る魔王。おとなしく話をきいてくれる聖女。やっぱりこの二人の教師役は良い。


「世界全体では149カ国あるのですが、とりあえず覚えてほしいのは、センティア共和国、自由バンダス自治国家、デロス国の3つです。

 センティア共和国は、共和といっても寡頭制で、いわゆる貴族が中心になって政治を行っている国です。ここ100年間で急成長を遂げ、我が国についで世界2位に当たります。

 自由バンダス自治国家は、いわゆる都市国家です。元々が狩猟民族だった多数の部族が300年前の文明開化によって定住化し、40ほどの部族ごとに都市を形成し、それらの都市群の事を国と称しています。

 ダロス国は、我が国と特に友好関係を結んでいる国で、小国ながら学術的、技術的に優れた成果を残している国です。自分もこの国に2年ほど留学しました」

 あの国は面白かったなぁ。学者の地位が確立されているから、自分も外見で差別されなかった。おかげでノビノビと過ごせた。


「300年前に100人ほどの異世界人を我が国が召喚したというのは教材から知っていると思うのですが、あの時代は本当にひどい時代だったらしいです。依知留様の前では言えない様な事が多く……」

 魔王がお前もそういう年齢じゃないか? という視線を送る。そんなの分かってらい。


「まぁ、体面等気にせず異世界人を呼びまくったわけですね。異世界人の迷惑も考えもせず、いちかばちかの賭けだというわけで。異世界人が快く協力を承諾したかどうかはわかりませんが、異世界人のおかげで世界が平和になったという事だけは事実です。それから300年、小さな紛争はあれど、大きな戦争は起こっておりません」

 魔王がメモを取る手を止めた。何か聞きたいことが出来たようだった。


「そう、前から思っていたのだけど、300年、本当に大きな戦争が起こってないのかい? 国内限定であれば信じられるが、世界全体でというのが、正直言ってなかなか信じられないんだが。僕らの世界ではそのような時代は無いに等しい」

 良い講義には良い質問が必要不可欠、そういった意味でも魔王は良い生徒だった。


「戦争が起こらなかったのは、大きく2つの理由があります。1つ目は、我が国の存在です。異世界人を召喚した国であり、経済的にも軍事的にも1位を独走している我が国は世界的な権威を誇っており、戦争を未然に防ぐための活動もしています。」

 だからこそ、我らは自尊心を強く持っている。強い誇りを持っている、まぁ、一般的にという話ですが。


「そして2つ目は、世界順位戦の存在でしょう。あらゆる分野での各国の“順位”を決めるための戦いです。世界一を決めるためではなく、順位を決めるための戦いであり、大会ではありません。まぁ、なんで大会じゃないかというのは単純に、娯楽的な意味合いを減らしたいからでしょう。10年に一度行われ、各国の順位がかなり明確につけられます。この順位そのものが抑止力になり、『やってみなければわからない』というのがあり得なくなるんですよ。まぁ、おかしな国が1位であれば別でしょうが、うちがトップですしね。桝居様が呼ばれたのも、おそらくこの大会関連の事だと思いますが、自分は政治には携わっていないので良くわかりません。まだ一般には桝居様の存在すら秘密にしていますし」


「抑止力となるようなものがそろっているわけか。随分突っ込み所が多い制度だがって依知留が寝てしまっているな、そろそろ帰すとするか」

 魔王が寝ている聖女にデコピンをする。どうやらそれが聖女を帰す魔法らしい。さすが魔王、不思議な魔法を使う。彼らの名前を知ってからも、ついつい魔王と聖女という言葉を使ってしまうのだが、どうも議員全体でも聖女はともかく魔王の方は定着してしまい、本人に対してならともかく、今さらそれ以外の言葉を使うのがどうもしっくりこないのだ。信じられない事に、誰もが桝居様の事を魔王と思ったのだから仕方ない。ちなみに依知留様を聖女と心の中で呼んでいるのは自分の趣味に過ぎない。あぁそれにしても聖女、いや聖女様は可愛いな。寝顔も素敵だ。


「タオ君。言っておくが、依知留に手を出したら、殺すからな」

 魔王の目がギラリと光る。怖い。やっぱり魔王は魔王だ。良い生徒かもしれないが、怖すぎる。


「分かってますよ……そんな睨まないでください。さてとキリも良いですし退散しましょう」


「んあ、まだ聞きたい事が、ちょって早いな……」

 だって機嫌の悪い時の魔王と話すのはさすがに怖いです。急いで逃げないと。

 慌てて走り去るように魔王の部屋から出て行った。



 


 この時、もうすこし落ち着いていさえすれば、悪意ある視線に気づかないはずなんて無かったのに……後になってそう後悔した。


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