9話目 4月13日 小さな教師が聖女にあった
ちょっと旅行に行っていましたので更新が遅くなりました汗
おもしろそう。
それが異世界人への教師を頼まれたときの感想だった。
異世界の事そのものにも興味があったが、何より、召喚後1日でグランデル国の言語の書き取りが可能になるという頭脳の持ち主。面白くない筈がない。
しかし、自分が教師役に選ばれたのは意外だった。自分は神童と呼ばれているが、それでもたかが10歳であり、身長の小ささから、さらに2,3歳低く見られる事も多い。そのような子どもに教わるなど、普通の大人であれば拒否反応を起こす。もし召喚された者が幼ければ、同年齢の方が安心して話をきけるだろうということで候補には残っていたが、どうもそういうわけで選ばれたわけでもないらしい。相手が単純に若い男子を所望していたというだけであるが、いまいちその理由がよくわからない。
(まぁ、選ばれた理由を考察しても意味がないか。どうしたら役割をうまくこなせるかを考えるとするか)
ああ、そう言えば人相がひどく悪いと言っていたな。見た目で苦労しているもの同士、仲良くやれたらいいなぁと思いながら、部屋に向かった。
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考えが全て吹っ飛んだ。 目の前に居るのは何だ。
魔王? 魔人? 眼が怖い口が怖い耳が怖い体が怖い、やたら整った髪型も怖い。全部怖い。
「……」
「……」
若い男子を所望した? きっとそれは食べるのにちょうどいい柔らかさだからに違いない。見られてる、見られている。きっとどこから食べようかと考えているのだ。
「……」
「……」
逃げなきゃ駄目だ。逃げなきゃ駄目だ。逃げなきゃ駄目だ。
「……」「……!!」
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ怖い怖い怖い怖い。口をあけたあけたあけた。
逃げる。逃げる。逃げる。もう本なんてどうでもいい。あの魔王から逃げなきゃ、逃げなきゃ食べられてしまう。あああああああああああああああああああああ追ってきた、追ってきたっぁああ……
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魔王は恐ろしく足が速かった。今、自分は魔王の腕の中にとらわれている。くっくっ…いくらもがいてもびくともしない。死ぬんだな、自分。きっとこのまま頭から食われるんだろう…。
「eufsle-rh2」
かわいらしい声が響く。そこには美しい少女がいた。透き通るかのような白い肌、眼はぱっちりと大きく、黒目の部分がやや小さいが、それがかえって特徴的で愛らしい目つきになっている。その美しい少女が近づいて……彼女には魔王が見えないのか!! こちらに来てはいけない、逃がさなければ。
魔王も少女の美しさに見とれたのが腕の力が弱まっている。その隙をついて腕から抜け出し、少女を守るべく、魔王の前に立ちはだかった。
「今のうちに逃げるんだ!!」
怖い、怖いよ。さすがに漏れそうだよ。色んなものが。でも、この可憐な少女のためだ。逃げるわけにはいかない。しかし少女は自分の脇を通ろうとする。少女はどうも魔王の事を危険視していないみたいだ。どう考えても危険なのに。絶対近寄らせてはいけない。
「jkoeh!gepwrk3op」
「近づくな、奴は魔王だぞ!!」
少女はどうも混乱のあまり、言葉がうまく話せてない様子だった。仕方ない、魔王を見れば誰だってそうなるだろう。く、魔王が自分の横から少女に近づこうとする。彼女を食べるなら、先に自分を食え!そう思いながら体でなんとか遮る。今度は魔王の手が少女を掴もうと手を伸ばしてくる。駄目だ駄目だ駄目だ。自分の恐怖心になんとか抑え、魔王の手をはたく。……!!少女が自分の股下を通り抜けようとする。だから駄目なんだって! と股を閉じながら腰を下ろすと、当然少女の勢いが止まるわけがなく、自分の大事なところに……痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
「lfelerjdhur3」
「ldfep2p3rde」
魔王が少女を拐そうとしている。本当にあの少女は何を考えているんだ。痛みを堪え、魔王に体当たりするも、全くピクリともしない。この小さな体が恨めしい。
「逃げるんだ!」
「psruewllll!!」
少女は再三の自分の警告に耳を貸すばかりか、激昂している様子だ
「どうしたんだ! 気でも狂ったのか!?」
「mdofjeiwo!」
少女は魔王の手を掴み、部屋の中に向かってしまった。おい、自分から死地に向かうのか。
「おい頼むから自分の話を聞いてくれ! そいつは魔王なんだ!」
く、自分が行かなきゃ少女が……仕方ない、部屋に入るしかないか。
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「a-dlwoor3p2.da;eldkfwl;f.lseifwoj! dfje!」
どうも少女は自分に対して怒っている。どうも本が散らばっている事に対して怒っているようだ。仕方ないだろ、自分も必死だったのだ。あ……ここでちょっと違和感を覚えた。少女は混乱しているから話せないのではなく、そもそも自分らと違う言語を話しているだけではないのか?本当に混乱しているのなら、言い直すなり、もっと自信のなさそうな顔をしているだけだろう。むしろ混乱していたのは自分だったか。
「すまなかった……」
謝意を告げながらも思考は回る。いや、異世界人が二人居るという話は聞いてないぞ。それこそ前もって自分に伝えるべき内容だ。じゃあ、この少女が話す言語は何だ? どうしてこのような可憐な少女が極悪非道を絵にかいたような魔王と仲良くしているのだろう? 疑問は多々頭の中で渦巻き、様々な憶測が生まれる。いや、彼らの関係を考えることは後でもできる。大事なのは、あの少女が美しいことと、自分があの少女とお近づきになりたいというこの切なる感情だけだ。
「dlfjw0!odf:」
「koseir…dlsie」
二人を見ると、どうも本を読もうと格闘している事が分かる。ああ、そうか、そういえば自分は教育係だ。近づく事など、簡単じゃないか。
「くくく、任せたまえ」
アピールチャンスだ。逃すわけにはいかない。
「ある年ある日ある森に、キツツキさんとクマさんとタヌキさん、その他動物達が仲良く暮らしていました」
絵本に書いてあるキツツキやクマを指さしながら、読んでいく。当然わからないだろうが、最初はなんとなくでもいいからざっくりと通して読むべきだ。絵の流れで文脈が理解でき、文脈から語句の意味が読み取れる。なるべくゆっくり明朗な声であるというのも重要だ。下手な雑音や癖がつかぬよう一語一語丁寧に発音する。そのような事に心配りながら本を読んでいると、少女が額を抑えて何か言っている。
「ksejroew!;dserwe3? ? ?dlsrjeiwo34!!!」
ふむやはりわからない。驚いているのは分かるが。
「わたしのなまえはいちるです」
は?ちょっと待って。いや良くわからないぞ。どうしてだ。おそらく異世界人である事は理解できたが、だったらやはり言葉を話せるのはおかしいだろう。書き取りが出来た事だけでも驚きだったが……。
「自分の名前はタオという」
美しく頭が良く魔王に対しても恐れを抱く様子がない。まさに聖女という名にふさわしい。魔王と聖女か。想像していた面白さとは違うが、これはこれで面白いのかもしれない。
「d.fmoewrj2o3gf」
「lsejrow3:2mgoe4,早く次を読んで!」
魔王の方はまだ話せないらしく、少女が異なる言語を話したことに驚いている様子だ。ともかく次を急かされているようだから、続きを読んでいく。
「キツツキは毎日のようにクマさんやたぬきさんの遊びの誘いを断って木をつついてばかりいました。ある時……」
そうして読んでいったが、終わり直前になって少女が突如消えた。え、あ、な…どうして?驚いている自分に対して魔王が何を思ったか、小さな紙を渡してくる。
<あの女の子は僕が召喚したんだが、ちょっと気まぐれでね。あっちとこっちを勝手に行き来してしまうんだ>
疑問は沢山ある。でも聞きたいことはただ一つだ。
「次に彼女に会えるのはいつ!?」
そう、自分は恋に落ちてしまったのだった。ちなみに初恋である。