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『余命4か月と言われた母は、10年後の今日も笑っている。』  作者: 季波


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第2話「母とパナップと渡る世間が好き」

私は実家を出ていたが、父が母の食事を作るなど、身の回りの世話をしていた。


しかし、父も体調を崩すことが増えてきた。


そこで数年前、私は母の面倒を見るために実家へ戻ってきた。


母が胃を全摘した当時、どんな食事をしていたのか気になった。


病院からもらった食事の献立表を、家のどこかに貼っていたはずだった。


探してみたけれど、見つからない。


「胃を取ったあとって、病院から何食べろって言われてた?」


母はテレビを見たまま答えた。


「知らない。日記つけてないから覚えてないわね」


「なんか献立の一覧みたいなのだったよね?」


「お父さんが邪魔だって捨ててたわよ」


「なんで捨てたの?」


「うちは物が多いでしょ?」


「お母さんの飾り棚も、あんたが入り切らないって言って、ぬいぐるみだのソフビっていうの? あんなもん飾るから。ほら、見なさい。パンパンよ」


「えー、飾っていいって言ったじゃん」


母は今も『渡る世間は鬼ばかり』の再放送を楽しみにしている。


「今いいとこなんだから」

若干、怒っている。


母の手には、パナップ。


お風呂上がりに、ファミリーパックのパナップを一個食べる。


それが母の日課だ。


ちなみに、いちご味は種が入っているので苦手らしい。それ以外は全部好きだという。


結局、当時、病院から何を食べるように言われたのかは分からなかった。


今日、母が何を食べているのかは分かる。


ブドウ味のパナップである。


特に、キミと五月のやり取りが面白いらしい。


ドラマが夜に放送されていた頃、母はよくこう言っていた。


「うちのおばあちゃんとお母ちゃんを見てるようでさ」


母が言う『おばあちゃん』は私の曾祖母、『お母ちゃん』は私の祖母のことである。


母の実家では、祖母は息子二人ばかりを可愛がっていたという。


母は昔から、そのことをよく愚痴っていた。


「私は、ひいきする親にはなりたくない」母はそう言っていた。


ドラマの中で繰り広げられる嫁姑のやり取りを見て、母は笑っていた。


今では曾祖父も曾祖母も、大伯母も祖父も祖母も、みんな他界している。


もしかしたら、昔を懐かしみながら見ているのかもしれない。


「ここ、まだ入りそう。飾っていい?」

私は、母の飾り棚の空いたスペースに、また一つソフビを飾った。


「あーもう! あんたがうるさいから全然聞こえなかったわ!」


母に怒られた。今日も元気だ。

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