第2話「母とパナップと渡る世間が好き」
私は実家を出ていたが、父が母の食事を作るなど、身の回りの世話をしていた。
しかし、父も体調を崩すことが増えてきた。
そこで数年前、私は母の面倒を見るために実家へ戻ってきた。
母が胃を全摘した当時、どんな食事をしていたのか気になった。
病院からもらった食事の献立表を、家のどこかに貼っていたはずだった。
探してみたけれど、見つからない。
「胃を取ったあとって、病院から何食べろって言われてた?」
母はテレビを見たまま答えた。
「知らない。日記つけてないから覚えてないわね」
「なんか献立の一覧みたいなのだったよね?」
「お父さんが邪魔だって捨ててたわよ」
「なんで捨てたの?」
「うちは物が多いでしょ?」
「お母さんの飾り棚も、あんたが入り切らないって言って、ぬいぐるみだのソフビっていうの? あんなもん飾るから。ほら、見なさい。パンパンよ」
「えー、飾っていいって言ったじゃん」
母は今も『渡る世間は鬼ばかり』の再放送を楽しみにしている。
「今いいとこなんだから」
若干、怒っている。
母の手には、パナップ。
お風呂上がりに、ファミリーパックのパナップを一個食べる。
それが母の日課だ。
ちなみに、いちご味は種が入っているので苦手らしい。それ以外は全部好きだという。
結局、当時、病院から何を食べるように言われたのかは分からなかった。
今日、母が何を食べているのかは分かる。
ブドウ味のパナップである。
特に、キミと五月のやり取りが面白いらしい。
ドラマが夜に放送されていた頃、母はよくこう言っていた。
「うちのおばあちゃんとお母ちゃんを見てるようでさ」
母が言う『おばあちゃん』は私の曾祖母、『お母ちゃん』は私の祖母のことである。
母の実家では、祖母は息子二人ばかりを可愛がっていたという。
母は昔から、そのことをよく愚痴っていた。
「私は、ひいきする親にはなりたくない」母はそう言っていた。
ドラマの中で繰り広げられる嫁姑のやり取りを見て、母は笑っていた。
今では曾祖父も曾祖母も、大伯母も祖父も祖母も、みんな他界している。
もしかしたら、昔を懐かしみながら見ているのかもしれない。
「ここ、まだ入りそう。飾っていい?」
私は、母の飾り棚の空いたスペースに、また一つソフビを飾った。
「あーもう! あんたがうるさいから全然聞こえなかったわ!」
母に怒られた。今日も元気だ。




