表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/33

お風呂と生理反射

家に帰ったのは、夜遅くなってからだった。


ユキは玄関のドアを閉めると、ほっと小さく息をついた。

一人暮らしのワンルームは、昼間のイベント会場とはまるで別世界みたいに静かだった。窓の外から、遠くを走る車の音がかすかに聞こえるだけだ。


制服を脱ぎ、浴室へ向かう。

シャワーをひねると、温かいお湯が肩へと落ちてきた。

長い黒髪を濡らしながら、ユキは目を閉じる。


その瞬間だった。

頭の中に、今日の光景が突然よみがえる。

搬入口の通路。

少し暗い空気。

近づいてくる影。


そして――

唇。


ユキははっとして目を開いた。

浴室の中には、シャワーの音だけが響いている。

胸の奥が、まだ落ち着かない。

シャワーを止めて体を拭き、タオルで髪を軽く拭きながら部屋へ戻る。

そのままベッドの端に腰を下ろした。


ふとスマホを手に取る。

画面を見る。

通知は何もない。

当たり前だ。

連絡先も交換していない。

名前すら知らない。


「……」


ユキは小さく息を吐いた。

指先が自然と唇へ伸びる。

そっと触れる。

そこに、まだ感触が残っているような気がした。


強引だった。

普通じゃない。

突然だった。

それなのに。


ユキは少し膝を抱え込むようにして体を丸めた。

胸の奥が、じんわりと熱い。

理由が分からない。

怖かったはずなのに。

思い出すと、胸の奥がざわつく。

あの目。

あの声。

ユキの呼吸が、ほんの少し浅くなる。

無意識に足が動いた。

太もも同士が触れる。

布がかすかに擦れる。

その感触に、ユキは一瞬だけ動きを止めた。


(……あれ)


体が妙に落ち着かない。

もう一度、少しだけ足が動く。

太ももが擦れる。

胸の奥が小さく震えた。

ユキははっとして足を離した。

自分の体を見下ろす。

指先が、そっと下着に触れる。

少しだけ湿っている。

ユキの顔が一気に熱くなった。


「……え」


小さな声が漏れる。

心臓がうるさい。


(なんで……)


キスされただけなのに。

むしろ。

怖かったはずなのに。

ユキは枕を抱きしめた。

顔を埋める。

声が小さく漏れる。


「……私」


震えるような声だった。


「変だ」


こんなの、初めてだった。

恋愛経験はない。

キスだって、今日が初めてだ。

普通なら、嫌なはずだ。

怒るはずだ。


それなのに。

思い出すと、胸の奥が少し痛む。

体が妙に落ち着かない。

ユキはそのまま枕に顔を押し付けた。

暗い部屋の中で、しばらく動かなかった。

胸の奥で、何かがゆっくり揺れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ