お風呂と生理反射
家に帰ったのは、夜遅くなってからだった。
ユキは玄関のドアを閉めると、ほっと小さく息をついた。
一人暮らしのワンルームは、昼間のイベント会場とはまるで別世界みたいに静かだった。窓の外から、遠くを走る車の音がかすかに聞こえるだけだ。
制服を脱ぎ、浴室へ向かう。
シャワーをひねると、温かいお湯が肩へと落ちてきた。
長い黒髪を濡らしながら、ユキは目を閉じる。
その瞬間だった。
頭の中に、今日の光景が突然よみがえる。
搬入口の通路。
少し暗い空気。
近づいてくる影。
そして――
唇。
ユキははっとして目を開いた。
浴室の中には、シャワーの音だけが響いている。
胸の奥が、まだ落ち着かない。
シャワーを止めて体を拭き、タオルで髪を軽く拭きながら部屋へ戻る。
そのままベッドの端に腰を下ろした。
ふとスマホを手に取る。
画面を見る。
通知は何もない。
当たり前だ。
連絡先も交換していない。
名前すら知らない。
「……」
ユキは小さく息を吐いた。
指先が自然と唇へ伸びる。
そっと触れる。
そこに、まだ感触が残っているような気がした。
強引だった。
普通じゃない。
突然だった。
それなのに。
ユキは少し膝を抱え込むようにして体を丸めた。
胸の奥が、じんわりと熱い。
理由が分からない。
怖かったはずなのに。
思い出すと、胸の奥がざわつく。
あの目。
あの声。
ユキの呼吸が、ほんの少し浅くなる。
無意識に足が動いた。
太もも同士が触れる。
布がかすかに擦れる。
その感触に、ユキは一瞬だけ動きを止めた。
(……あれ)
体が妙に落ち着かない。
もう一度、少しだけ足が動く。
太ももが擦れる。
胸の奥が小さく震えた。
ユキははっとして足を離した。
自分の体を見下ろす。
指先が、そっと下着に触れる。
少しだけ湿っている。
ユキの顔が一気に熱くなった。
「……え」
小さな声が漏れる。
心臓がうるさい。
(なんで……)
キスされただけなのに。
むしろ。
怖かったはずなのに。
ユキは枕を抱きしめた。
顔を埋める。
声が小さく漏れる。
「……私」
震えるような声だった。
「変だ」
こんなの、初めてだった。
恋愛経験はない。
キスだって、今日が初めてだ。
普通なら、嫌なはずだ。
怒るはずだ。
それなのに。
思い出すと、胸の奥が少し痛む。
体が妙に落ち着かない。
ユキはそのまま枕に顔を押し付けた。
暗い部屋の中で、しばらく動かなかった。
胸の奥で、何かがゆっくり揺れていた。




