フェス終わりとパソコン
フェスが終わった夜。
ナカジマは自宅の机に座っていた。
部屋は静かだった。
窓の外では、時おり車が通り過ぎる音だけが聞こえる。
机の上のパソコン画面には、いくつものタブが開かれていた。
イベント運営会社。
コンパニオン派遣。
フェス運営スタッフ。
ブラウザの検索履歴は、ほとんど同じ言葉で埋め尽くされている。
「イベントコンパニオン 会社」
「フェス 運営 コンパニオン」
「イベント派遣 大阪」
ナカジマはマウスを動かしながら、サイトを順番に開いていった。
会社概要。
過去イベントの実績。
スタッフ紹介。
画面をスクロールする。
写真が出てくるたびに、手が止まる。
コンパニオンの写真。
ナカジマはそこに映っている顔を一人ずつ見ていく。
黒髪の女を探す。
いない。
ページを戻る。
別の会社のサイトを開く。
また同じようにスクロールする。
いない。
ナカジマは無意識に小さく舌打ちをした。
時計を見る。
午前二時。
ナカジマは目を軽く擦る。
それでも手は止まらなかった。
三社目。
四社目。
五社目。
同じことを繰り返す。
ページを開いて、写真を見る。
開く。
スクロールする。
そのときだった。
新しく開いたページで、ナカジマの手が止まった。
イベント実績のページ。
そこに並んでいる写真の中に、見覚えのある黒髪があった。
ナカジマの呼吸が一瞬止まる。
マウスを握る手が、わずかに震える。
カーソルを動かす。
画像をクリックする。
ズーム。
画面いっぱいに拡大される顔。
黒髪。
白い肌。
そして、少し眠そうな目。
間違いない。
フェスでパンフレットを渡していた女だった。
ナカジマは画面に顔を近づけた。
写真の下にあるキャプションを見る。
「〇〇イベントコンパニオン」
そのままスクロールする。
次のイベント予定。
「大阪オートモーターメッセ」
ナカジマは数秒、画面をじっと見つめていた。
それから、ゆっくりスマホを手に取る。
友人とのLIME画面を開く。
そして短く打った。
『日曜ひま?』
送信。
ほとんど間を置かずに返信が返ってくる。
『なんで』
ナカジマはキーボードを叩く。
『メッセ行く』
既読がつく。
返信。
『お前、車興味あったっけ』
ナカジマは少しだけ考えた。
それから打つ。
『今日から興味もつ』
送信。
三秒後。
『絶対女だろ』
ナカジマはそれに返信しなかった。
スマホを机に置き、もう一度パソコンの画面を見る。
イベント告知ページ。
コンパニオンの写真。
その中に、また彼女が写っている。
ナカジマは椅子の背もたれに体を預けた。
小さく息を吐く。
――やっと見つけた。
数日後。
インデックス大阪。
開場前から、すでに長い列ができていた。
会場の前には人が溢れ、スタッフが誘導の声を上げている。
車好きの客、カメラを構えた人、企業関係者らしきスーツ姿の男。
朝からかなりの熱気だった。
その列の中で、友人が呆れた顔をしていた。
「お前、マジで来るとは思わなかった」
ナカジマは前を見たまま答える。
「車のイベントだぞ?」
「うん」
「お前、免許すらないじゃん」
ナカジマは少し考えた。
それから、さらっと言う。
「これから取る」
友人は深いため息をついた。
「やっぱ女だろ」
ナカジマは何も答えない。
ちょうどそのとき、会場の扉が開いた。
人の波が一斉に動き出す。
歓声。
館内アナウンス。
遠くから聞こえるエンジン音。
イベント特有のざわめきが、一気に広がる。
人の流れに押されながら、ナカジマも会場へ入る。
友人は展示車の方を見ている。
だがナカジマの視線は、まったく別の方向に向いていた。
車ではない。
企業ブース。
イベントコンパニオンのいる場所。
ナカジマの目は、人の波の向こうを探していた。
黒い髪を。




