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勢いと無意識TL

ユキはスマホを握りしめたまま、しばらく画面を見つめていた。


――依緒くん。


ライブのあと、信じられないほど自然な流れで番号を渡された。

掌に押し込められた紙の感触が今でも思い出せる。

本当にかけていいのか、何度も迷った。

でも。


「……ええい、ままよ!」


小さく呟き、勢いのまま通話ボタンを押す。

耳に当てると、呼び出し音が静かに流れ始めた。

一回。

二回。

自分の心臓の音のほうが、よほど大きい。

三回、四回とコールが続く。

――やっぱりやめたほうがよかったかも。

そんな言い訳が頭をよぎり、五回目のコールが鳴ったところで通話を切ろうとした。

そのときだった。


「はい。もしもし」


滑らかで、柔らかな声が耳に落ちた。

まるで上質な布が触れるような落ち着いた声。間違いなく、依緒の声だ。


「あっ……あの……」


喉がうまく動かない。

さっきまで覚えていたはずの言葉が、全部どこかへ逃げてしまう。


「もしかして、ライブの時の子?」


その一言で、ユキの背筋がぴんと伸びた。


「そ、そうです!」


思ったより大きな声が出て、自分でも驚く。


「い、いきなりすみません……!」


声が少し裏返る。

電話の向こうで、くすりと小さな笑い声がした。


「電話してくれたんだ」

「は、はい……私なんかが畏れ多いですが……」

「ううん。電話してきてくれて嬉しいよ」


その言葉を聞いた瞬間、心臓がまた大きく跳ねた。

声を聞くだけで体力がごっそり削れていくような感覚だ。

依緒は少しだけ間を置いてから、さらりと言った。


「今度――会えない?」


あまりに自然な口調だったせいで、ユキの思考が一瞬止まる。


「え、なんで……」

「君と、少し話したいから」


依緒の声は相変わらず穏やかだった。


「聞きたいこともあるし」


頭の中の処理が完全に追いつかない。

――依緒くんが、私と話したい?

――しかも、聞きたいことって……?

理解が追いつかないまま、それでも口は動いた。


「わ、わかりました……」


それだけが、やっと絞り出せた言葉だった。


「じゃあ、またこっちから連絡する」


柔らかな声がそう告げる。

通話が終わったあとも、ユキはしばらくスマートフォンを耳に当てたまま動けなかった。

心臓だけが、まだうるさいほど鳴り続けている。

やがてスマートフォンを下ろすと、画面をぼんやり見つめる。

頭がうまく働かないまま、気づけば指が勝手に動いていた。

画面が切り替わる。

開いていたのはインスパだった。

タイムラインを少しだけ眺め、なんとなく投稿画面を開く。

考えるより先に、文字を打っていた。


『マジでどうしたらいいわかんない』


送信。

投稿された画面を見てから、ようやくユキは我に返った。


「……あ」


小さく声が漏れる。

何を書いたのか、自分でもよく分かっていない。

ただ、さっきの電話を思い出すと、胸の奥がまた落ち着かなくなった。

三島由紀夫のような掛け声を出す女子大生がいるのか皆目不明。

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