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ぬいぐるみと友相談

ユキの部屋は、ぬいぐるみで半分占領されていた。

ベッドの上にはちいかまのキジトラも転がっていて、いつもの薄笑いで枕元を見張っている。

風呂上がりのユキは頭にタオルを巻いたまま、スマホを握って部屋の中をうろうろしていた。


(どうしよ……)


通話画面には、すでに依緒の電話番号が入力されている。

あとは通話ボタンを押すだけなのに、指が動かない。


(だめ。何を話したらいいか分かんない)


そう思った瞬間、LIMEの着信音が鳴り響き、ユキは肩をびくっと震わせた。


『何してんの』


ナカジマからだった。

そういえば、あれから一度も連絡していなかったことを思い出す。


「い、ま、へ、や……」


独り言のように呟きながら《今部屋》と打ち込む。

送ろうとして、ふと手が止まった。


「……依緒くん」


思わず口に出してしまう。

その名前を呼んだだけで、胸の奥が少しざわついた。

物販の前で目が合った瞬間のことや、あの距離の近さを思い出すと、心臓が少し速くなる。

ユキはスマホをベッドに置き、枕元にあった小さな紙を手に取った。

ライブハウスでもらった折りたたまれた紙をゆっくり開くと、中には電話番号が書かれている。

ユキはその文字をじっと見つめた。


(依緒くんの字、綺麗……)


数字を指先でそっとなぞると、頭の中にまた声が浮かぶ。

ステージの上でマイクを握り、歌っていた姿。汗で濡れた髪と低く響く声。

思い出すだけで、ユキの呼吸は少し浅くなる。


(……なんで私に番号なんて)


胸の奥が落ち着かない。

そのまま紙を見つめていると、ベッドのスマホが光った。

ナカジマとのトーク画面。メッセージは、まだ送られていない。

ユキは少し迷ったあと、その画面を閉じてLIMEの一覧をスクロールした。


(……沙耶に相談しよ)


ひとりで悩んでも解決しない。こういうときは沙耶だ。


『沙耶、今いける?』


送信すると、すぐ既読がついた。


『おん、ちょうど暇してた』


その直後、次のメッセージ。


『それよりちゃんと依緒に電話したー?』


ユキは一瞬固まった。


『まだ心の準備が…』


送ると、すぐ返信が返ってくる。


『は??』

『なんで??』

『番号もらったんでしょ??』


ユキはベッドの上で少し身を縮めた。


『だって』

『いきなり電話って迷惑じゃない?』


既読がつき、少しして沙耶の返信。


『なわけないでしょ』


『むしろ番号もらって、電話しないのがどうなん?』


そんなものなのだろうか。

ユキがスマホを見ていると、さらにメッセージが届いた。


『てかさ』

『今かけなよ』


ユキの指が止まる。


『え』


送るとすぐ既読。


『誰からもらった番号か覚えてない?』

『あの依緒だよ?』


ユキは背中を丸めたまま、スマホの画面を見つめた。


『でも、もう夜になるし…』


送信。

すぐ既読がつき、沙耶の返信。


『だからいいんじゃん』

『バンドマン夜型でしょ』


さらに続く。


『かけない恥より、かける恥』

『屍なら拾う。いってこい』


ユキは小さく息を吐いた。

バックグラウンドで待機していた通話画面を開くと、依緒の電話番号はまだそこにある。

ユキはしばらく画面を見つめたまま、通話ボタンの上で指先を止めた。

押せばつながる。それだけのことなのに、心臓がやけにうるさい。


『……やっぱ、まだ無理ぃ』


泣き言を送る。

間を置かず、スマホが震えた。

沙耶からの新しいメッセージだ。


『でもでもだっては禁止です。はよかけろ』


ユキは思わず顔をしかめた。


『沙耶鬼。゜(゜´ω`゜)゜。』


もう一度スマホを見る。

通話画面。依緒の番号と、緑色のボタン。

指はまだ、その上で止まっている。


ベッドの端では、キジトラが少し寂しそうにこちらを見ていた。

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